第8回目の参考図書のご紹介は、御手洗昭治・秋沢伸哉『ハーバード流交渉戦略』(東洋経済新報社、2013年) 2017年

参考図書の紹介記事から

あるところで、研修のための参考図書の紹介を書いていました。その時の紹介記事を再掲していきます。

第8回目の参考図書のご紹介は、
御手洗昭治・秋沢伸哉『ハーバード流交渉戦略』(東洋経済新報社、2013年)

交渉は、あらゆる組織やあらゆる局面で求められており、混迷する世界で生き残るために必要なものは、問題解決型交渉力です。日本が経済やビジネスで輝きを取り戻すには、問題解決型交渉力を持ったネゴシエーターの出現であると、ハーバード関係者は言います。

本書では、ライシャワー、ライファ、フィッシャー、ドラッカーのハーバード4巨頭の交渉哲学の神髄をもとに、日本交渉学会のトップ二人が、問題解決、紛争処理に効果的な交渉のノウハウを解説しています。後半には、交渉について深く学べるように、30の交渉力ケース・スタディもついており、実践的なものになっています。

本書の目次構成は以下のようになっています。

第1章 交渉と日本人の交渉観
(交渉とは何か?、交渉の7つの要素(M理論) ほか)
第2章 欧米人の交渉観とハーバード4巨頭の交渉哲学
(交渉は言葉による闘争、交渉のファースト・オファー、文化の温度差とは? ほか)
第3章 交渉心理学
(交渉学と心理学の親和性、行動経済学とは何か? ほか)
第4章 ストーリーテリング
(感情とは何か?、「ストーリー」と「ナラティヴ」ほか)

本書で著者が提唱する、交渉の戦略要素は次の7つです。

①提案
②説得(説得には、a.論理的説得、b.合理的説得、c.感情的説得の3つの説得がある)
③反論
④条件
⑤駆け引き
⑥譲歩
⑦合意(妥結)

これらの方法が、本書で実践的に解説されていきます。本書で触れられている交渉技法には、次のものがあります。

・ザッツ・ノット・オール技法
商品を購入するとき、まず第一に商品と価格を提示する(第一提案)。そのあとで割引を提案したり、特典をつけたりする第二の提案で交渉を締結させる交渉技法のこと。交渉相手に「前の提案より得をした」感を与えることができ、第二提案で締結することが容易となる。

・ドア・イン・ザ・フェイス技法
第一提案として、誰もが断るような大きな要請をして実際に拒否されたうえで、本当の目的である小さな提案(第二提案)をする交渉技法。相手の拒否をまず受け入れ、そしてその提案を譲歩したという姿勢を相手に見せ、相手に譲歩のお返しをしたいという気持ちを起こさせる技法。

フット・イン・ザ・ドア技法
・第一提案として誰でも受け入れるような小さな提案をする。受け入れてもらった後に、本当の目的である、より大きな提案(第二提案)をする。第一提案を受け入れてあげた自分は優しい性格なので、今後も優しくしてあげなければならないと、自分の認識と将来の行動が一貫するように思う心理を利用。

・ローボール技法
受け入れやすい第一提案を受け入れてもらった後に、悪い条件を追加したり、良い条件を削除したりする悪条件の提示(第二提案)を行う交渉技法。たとえ条件が変わってもその決定を覆したくないという心理が人には働く。

これらの交渉技法に反撃するにはどうしたら良いのかのも、解説してあります。まずこれらの交渉技法についての正確な知識を身に付けていくこと、全体像を俯瞰できる視点を持つこと、そして、他者からの問題の指摘や助言、交渉者としての自分に対する観察の報告が貴重な情報となります。

論理だけではなく、感情も私たちの意思決定に大きな影響を与えます。感情が人を動かし、組織をも動かす力を持つのであれば、交渉でも戦略的に活用しない手はありません。本書では、交渉相手の感情を動かす具体的な手法の一つとして、ストーリーテリングの手法も紹介しています。

本書巻末にある交渉のケース・スタディは、とても参考になります。ケース・スタディの4には、以下の問題が載っています。

老舗デパートXは近いうちに改装し、売り場面積を増床することにしました。同一地域に新たに出店してくる大手デパートYへの対抗策です。しかし地域のオーバーストア状況は否定しがたく、できるだけ設備投資にかかる費用を抑えて、なおかつ今の有力顧客を堅持しつつ新規顧客も獲得しなければならないと考えています。改装計画を立案するために、まずは有力顧客の生の声を聞くアンケートを取ることにしました。
老舗デパートXは駅ビルであり、1フロアが狭く、高層階になっている店舗構造が難点でした。アンケートでもその点が厳しく評価され、複数のエレベーターの増設が望まれていると統計に表れました。
A営業部長は複数のエレベーターの増設を願い、B財務部長は設備費用削減の必要性から複数のエレベーター増設に反対です。
両者はこの論点の賛成・反対のおのおのの代表者で、近づく取締役会議を前に両者の意見調整が必要となりました。
あなたがA営業部長なら、どのような交渉戦略をしますか。
あなたがB財務部長なら、どのような交渉戦略をしますか。

考え方は、本書をお読みください。

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