参考図書のご紹介 第2回ピーター・F・ドラッカー『非営利組織の経営』(ダイヤモンド社、2007年) 2016年

参考図書の紹介記事から

あるところで、研修のための参考図書の紹介を書いていました。その時の紹介記事を再掲していきます。

参考図書のご紹介 第2回
ピーター・F・ドラッカー『非営利組織の経営』(ダイヤモンド社、2007年)

ドラッカーが著した、非営利組織の経営について、おそらく世界で初めて体系的に記述された著作です。病院、学校、公益法人、NPOなどへ向けて書かれていますが、地方自治体のマネジメントにも同様に役立つ書籍です。

目次の構成は以下のようになっています。

第I部 ミッションとリーダーシップ
第1章 ミッション
第2章 イノベーションとリーダーシップ
第3章 目標の設定
第4章 リーダーの責任
第5章 リーダーであるということ

第II部 マーケティング、イノベーション、資金源開拓
第1章 マーケティングと資金源開拓
第2章 成功する戦略
第3章 非営利組織のマーケティング戦略
第4章 資金源の開拓
第5章 非営利組織の戦略

第III部 非営利組織の成果
第1章 非営利組織にとっての成果
第2章 「してはならないこと」と「しなければならないこと」
第3章 成果をあげるための意思決定
第4章 学校の改革
第5章 成果が評価基準

第IV部 ボランティアと理事会
第1章 人事と組織
第2章 理事会とコミュニティ
第3章 ボランティアから無給のスタッフへの変身
第4章 理事会の役割
第5章 人のマネジメント

第V部 自己開発
第1章 自らの成長
第2章 何によって憶えられたいか
第3章 第二の人生としての非営利組織
第4章 非営利組織における女性の活躍
第5章 自らを成長させるということ

ドラッカーは、非営利組織におけるミッションの重要性を、繰り返し説いています。第1章のミッションについての部分に、以下のように書かれています。

私の知っている病院の多くが、「われわれのミッションは健康の維持である」という。これはミッションの定義としては間違いである。病院は健康は扱わない。病気を扱う。禁煙し、節酒し、早寝し、体重に気をつけるのは一人ひとりの人である。病院は健康の維持に失敗したときに登場する。この定義の問題点は、「われわれのミッションは健康の維持である」といったところで、病院がとるべき行動について何も知りえないところにある

ドラッカーは、ミッションは行動本位であること、そして働くもの自らが貢献を知りうるようにするものでなければならないと続けます。

何年か前、病院の救急治療室のミッションの検討に手を貸した。答えは簡単、しかもわかりきったものだった。それは「患者を安心させること」だった。だがそのためには患者の容体を早く正しく把握することが必要だった。この病院の救急治療室の場合、驚いたことに、一〇人に八人は特に問題もなく、一晩眠れば治るという程度のものだった。「動転されてますね。赤ちゃんは風邪ですよ。引きつけを起こしましたが心配することはありません」といって安心させてやればよい。

「患者を安心させること」というミッションは、行動本位のものになりえます。患者を安心させるためには、何を行わなければならないか、考える必要があるからです。

こうして私たちは、このあきれるほどわかりきったミッションにたどり着いた。しかしこのミッションは、救急治療室に運び込まれる者は必ず一分以内に診察されるべきことを意味した。それがミッションから導き出される目標だった。あとは行動するだけだった。集中治療室へ大急ぎで移すべき者もいれば先に検査をすべき者もいる。しかし多くは、「帰ってアスピリンを飲んで眠りなさい。心配することはありません。症状が続くようならまた来なさい」といってやるだけでよかった。しかし、必ず行うべきことは全員を直ちに診ることだった。なぜならそれが患者を安心させる唯一の方法だからである。

このようにミッションは、行動に結びつけられ、そして目標が導き出されるようなものでなければなりません。地方自治体でミッションにあたるものは、組織目標です。しかし多くの地方自治体では、組織目標の言葉の意味が共有化されておらず、組織目標がミッションとしての役割を果たしていないところも多いのではないでしょうか。

組織目標は事業目標ではありません。組織目標は事業選択の判断基準を示すものであり、手段(=事業)が示されてはいけません。そして、組織として果たす責任があることであり、職員の具体的な行動や、意欲が喚起されるものであることが求められます。

例えば納税課であれば、「収納率を向上させること」いう組織目標にすると、前例踏襲的な事業を選択することになりかねませんし、職員の意欲が喚起されるかどうかは疑問です。

組織目標を、「収納率を毎年度中核市の中での順位を向上させる」のような表現にしてはどうでしょう。このように記載することで、他の自治体の良いところの事業内容を見習い、効果の低い前例踏襲の事業の廃止を促進させるかもしれません。そして、職員の具体的な意欲を喚起させることができるでしょう。

「収納率を向上させること」では、前例踏襲的な仕事の仕方をし、行動に結びつかず、意欲も喚起されないでしょう。「収納率を毎年度中核市の中での順位を向上させる」のような表現により、今年度、来年度、再来年度、何を行うべきかと具体的な行動も、意欲も喚起されていきます。

他にも本書には、示唆に富む部分が満載です。ぜひ一読をお勧めします。

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