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今や、日本全体が不適切にも程がある!

タイトル画像はゲルハルト・リヒターの作品です。・・・この違和感が・・

◾️はじめに (問題提供)

最近、TVドラマで「不適切にも程がある」(TBS系,宮藤官九郎脚本・阿部サダヲ主役)や「正直不動産2」(NHK根本ノンジ脚本・山下智久主役)を観ていると、「人間性,イキイキする,豊かさとは何だろうか」と考えさせられます。

 1986年から2024年にタイムスリップしたパワハラの権化のような中学教師が,現代の会社に突然登場したら、それは昭和の不適切な発言をする変なオヤジと思うだけではなく、逆に、コンプラばかり気にする現代企業には、活力あるエネルギーを発する人間性豊かな人にさえ見えます。

先日の番組中、主役の阿部サダヲは、令和の人間に対して、
「少なくとも、昭和の方が元気良く、経済も豊かであった」と発言していましたね。

 何か大事なものを、現代人は失ってはいないか、と問われているように思います。
宮藤官九郎は、昭和vs令和の構図から,現在我々日本人が失った活力を浮き彫りにしているようで考えさせられます。

かたや,「正直不動産」。
不動産の前に正直を付けたらビジネスにならない、と思う業界において、【正直な】ことが形を変えて、異なる成果を出す。
モノを売るだけではない貴重な価値を主人公山下は我々にやんわりと問う。

正直とは、言葉を変えれば、人間性ということではないでしょうか。
物件を売るということは生活そのものを売ること、顧客の生活を創造していくことであるということを背景に描いているのかと考えます。

【不適切には程がある】と【正直不動産】には,現在の日本を象徴する姿を描きながら、活力を取り戻す為の処方箋のようなものがあると感じます。

両方のドラマが描く「人間性」は、仕事を通じて養われ、鍛えられていくのではないでしょうか。
その意味では、企業の人事に関わる部分がますます重要になるのではないかと思います。

今回は、このドラマに触発されて、日本企業は今人財教育を見直したらどうだろうかと考えました。


1.人事の教育制度は「不適切にも程がある」
・・・従来型の人事教育制度からの脱却


何故日本が空白の30年と言われているほど、世界の流れから取り残されてしまったのか?
 そして、2023年度のGDP国内総生産は、日本より人口の少ないドイツに追い抜かれ、一人当たりGD Pは、世界で30位以下になっています。
このnoteでも何度か申し上げているように、原因の1つは短期的で今日明日の売り上げばかりを考えている企業が多いことにあると感じています。

この傾向はなかなか改善されず、今日に至っています。
思考法を変えていかないと、この流れは止まりません。
それをバックアップする人事教育体制を見直すことが必要ではないでしょうか!

30年前までに培った日本の良き財産を全て使い果たしてしまい、そこから【新しい知識を創造する為の思考法】を育てることができていない。

日経朝刊にも人事制度関連の書籍広告がありますが、その目次をみると、まるで軍隊のような人事制度で,知を生み出す、創造性、さらに哲学で思考方などの項目はありません。
「成長、効果測定、ステップアップ、階層階級的組織体制・・・」
いわゆるノウハウと表層的知識であり、測定・評価することにばかり重きが置かれ、人間の内面を鍛えることをしていないのです。

2.「正直」の欠如が生み出す構想力不足・・・
自由に意見が言える場を作り出す


まず【構想力】がなくなってきたことに対応することが必要です。
【構想力】とは、全体を見ながら、自分の在り方を時間軸で定める力です。
つまり、目先の事象だけで売上を追いかけると、自分という存在を見失ってしまう。
全体像をみながら、システム内部における部分間の相互作用,変化のパターンを知ることです。
階級的上下関係ではなく、自律分散型で、自ら創造する力がないと、現代に求められるアジリティ型対応ができません。

構想とは、フレームワークではないので、自ら思うことを正直に表現するところから始まります。
つまり【自由に意見が言える場】が必要になります。
安心して発言できる場がないと正直でいられないのです。

こんな事例があります。
数年前OKR(Objectives and Key Results)を標榜して、社員の自発性を促した会社ではほとんど成果が出なかった。
その要因は、「O」であるobjectiveを目標値として設定して、本来の社員の意思である【目的】の設定が不十分であったことと、行動を引き起こし,共有化できる場での対話が少なかったことにあると私は考えています。

つまり、Oが主体的で正直ではないOKRに意味はないのでしょう。
上から与えられた目標そのままに、上司に媚びへつらうような会社に未來はないと思います。
・・それに群がる様々なエージェントやコンサル、御用大学教授など、皆不誠実な輩と言われても仕方ないと思います。


正直であるための方法論として、哲学=【その人なりのあらゆる経験と思考と試行錯誤】をすることです。

いわゆる【哲学】を身近なところにいれる教育が必要です。
漫画家のヤマザキマリさんが、次のように話しています。

「哲学というと日本では西洋史や美術史などと同じように学問として難しく構えがちですが、イタリアでは1人の人間が【あらゆる経験と思考と試行錯誤】を積んだ末に抽出される、その人なりの考え方や思考を指す言葉としても使われています。」

「考えながら考える」ヤマザキマリ著 中公新書ラクレ

 表層だけの受け売りや翻訳ではなく、経営やマーケティングには、自分での体感をベースにしたものが必要になると思います。
そして,自分の頭で試行錯誤しながら考えることです。
これは正直な行動でしょう。

3.目的と手段を履き違えない・・・最終目的を突きつめた【最高善】を得られたか! 


あなたは正直な目的を持って生きていますか?
アリストテレスが現代にいたら、きっとそう言いますよね。

 正直に生きる為には、現在と未来を見定める力、【目的を創造する力】が必要です。
「何の為に?」と問い続けることです。
【目的を連鎖させる】(「ニコスマス倫理学」アリストテレス岩波書店)

東京大学大学院教授の山本芳久さんは、次のように置き換えて現代の目的創造方法を説いています。

勉強をしている高校生に、
①「何の為に勉強しているの?」

「志望大学に入る為です」
②「では,大学にはいる目的は何?」

「専門的な知識や技術を身につける為です。」
③「専門的な知識や技術を身につける目的は?」

「よい社会人になる為」
ーーーーーーー①から、③は目的にも手段にもなる。
④「では,なぜよい社会人になりたいの?」

「幸福になるためです」
ーーーーーーー④は,目的にはなるが,手段にはならない。【最高善】といいます。

話変わりますが、これを利用してバリューグラフという価値の階層化をしながら、我々は,商品開発やサービス作業に使っています。

※バリューグラフとは,スタンフォード大学故石井浩久教授により開発された,商品やサービスの目的と価値を構造的に可視化し、解空間を広げる価値工学手法であります。
何故そうなのかという問いを繰り返すことによって、上位の目的、本質的目的を考えていきます。

4.HR D(人材開発)トム・メイズの正直アプローチ

・実業界の人材開発のスペシャリストである、トムメイズさんの人材育成から学ぶべきポイントを考えてみましょう。

トム・メイズ(Tom Mays)さんは,イギリス マンチェスター出身で,ケンブリッジ大学東洋学を卒業している。
2005年に日本に再来日して、京都府庁やブリティッシュ・カウンシルに勤務後に外資系企業や日本企業における教育に関わっています。

ブリティッシュ・カウンシルでイギリスと日本の教育にも関わっています。
・人材育成の専門家としては,世界最大の組織ATD(Asociation for Talent Development)の理事です。

さらに、私が今大変関心を持っているアメリカのミネルバ大学のファシリテーターもされています。

コアになっているラーニングインスティテュートの課題や特徴

トム・メイズさんは、研修プログラムの特徴を次のように5つのポイントで話しています。

①リーダーシップの育成
リーダーである社員が成長し,自分が磨けることのサポートシステム
【アンボス】(部下が主体的に動くように仕向けるリーダーシップ)に重点を置いて、リーダー達が自分のチームをもっと上手く指導し、チームに自信を持たせる。

②将来必要になるスキルの習得
【4〜5年先を見据えたスキルアップ】
自社の変化を見据え、スキルアップをする。

③カルチャー
【好奇心】を持つカルチャーで牽引する積極的な自己開発

④能力開発
・重要な役割を担う社員のサポート体制
社員が成長できるように,彼らが必要なものを確保する。

⑤社外学習
会社のEVP「従業員価値提案」と社外のE V Pにより、一緒に働こうという意欲を高めている。

特に②4〜5年先を見据えたスキルアップと③好奇心を持つカルチャーを牽引し、社員が幅広く学び,積極的に自己開発に取り組み,それを自分のものにすることを奨励する。

ラーニングカルチャーを促進するのに必要なことは
①目的の明確化
②キュレーション
③ロールモデルとなるリーダーの存在

※ここで注目すべきは、③で論じている目的の明確化とリーダーがロールモデルとなっていること

5.世界最先端ミネルバの教育 21世紀「正直者」を作るスキル「ファー・トランスファー」

以下は、ベル・ネルソン(ミネルバ大学創始者)による話の要約です。

①自分を正直に捉え直す。
ファー・トランスファー(far transfer)とは違う分野に知識を応用すること。
ある状況下で学んだことを別の状況下で応用できる能力・・・これがミネルバ大学のメタ認知スキルの中核になっています。
(メタ認知 自分をより高い視点から認知すること)

②自分の現在そこにいるその存在価値を知る
試験がない。リアルタイムでの質問内容とリアルタイムでの対話の発言が評価と成果物


-1 科目横断の段階的カリキュラム・・さまざまなな科目へと適用する学習
-2 学習期間全体を通して主体的な学習者になる。
-3 学習者に体系的な、かつ成長を助けるアドバイスをする。


学生がどのように学び、その学びを別の場面でどの様に応用しているのかがわかる長期的なデータを持ち、かつ追跡するデータになっている。

ベル・ネルソン(ミネルバ大学創始者)

最後に まとめとして


冒頭にTV番組「不適切にも程がある」の話を致しましたが,今このミネルバ大学の教育システムやそのファシリテーでもあるトム・メイヤーさんのラーニングインスティテュートの話しを見ながら、日本の企業の教育システムは不適切であり、再考されなければならないと考えます。

「大学と企業が一体になって」人材育成をしながらデータ構築をしている。

2月20日の日経のdeep insight opinionでは「理系文系かやめませんか」いう記事でしたが、日本の教育システムと企業との連携は、どうやらまだまだ周回遅れ甚だしいと危惧してしまいます。

我々は今、センスメイキングでアブダクションによる仮説作りから人間の認知から思考を組み立てる作業をクライアントと切磋琢磨しています。
世界最先端企業や大学は、連携して知を生み出す方法を考えています。
【体系的な思考,批判的に考える方法、創造的に問題を解決する方法】は,センスメイキングのテーマとして重要なるポイントとしてだけでなく、最先端21世紀として更に進化させなければならないと痛感しました。

 その為に,今回皆さんに問います。

・不適切にも程があるが言いたいことは?
・正直不動産の本質は?
・ファートランスファーとは?
・ミネルバ大学とHRDトム・メイヤーの存在価値は?
・目的と手段を履き違えていけないのは?
・好奇心を持つカルチャーとは?

一見バラバラの点を結びつけることは背後の本質を問う事になります

私が冒頭に言った、日本企業30年の空白を打ち破るには、この茹でガエル状態を抜け出す処方箋が必要です。

構想力とは,よい問いを作る力です。
本質的な問いを作るためには、社会やビジネスで、「観察・対話・推論」を促して新しい世界を考察することです。
まさにセンスメイキングの基本ですね。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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