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【読書メモ】発達障害の人が見ている世界

 【読書メモ】発達障害大全は支援者(家族を含む)にとっては必携と言える参考書ですが、当事者が自己理解のために最初に読む1冊としてはボリュームが多すぎて、消化不良になるのではと思います。
 なので、最初の1冊は、「ASDとADHDの両方に触れていて、薄く、当事者の視点で書かれていて、イラストが豊富なのがいいな~」と考えて、探して見つけたのが本書です。

 研究による差はありますが、ASDとADHDは併存率は、30~60%にものぼるという結果が出ています。学会で発達障害の診断に関するセッションに出てみると、「ASDかADHDといった診断(カテゴリカル診断)より、脳の各機能の得意・不得意のパターンで診断とする(ディメンジョナル診断)の方が、支援にや有用なのではないか?」という議論を聞きます。
 
 依存臨床に携わっていると、発達障害圏(いわゆるグレーゾーンを含む)の方に日常的にお会いしますが、純粋なASDあるいはADHDより、併存している人の方が多いと感じます。
 発達障害による生活や仕事上での困難・ストレスが飲酒の引き金になっていると推測される場合、本人や家族と相談し、生活歴、養育歴を聴取し、心理検査を行って診断をつけることがあります。
 その過程で、自分は診断基準を満たすかどうかにこだわってしまったり、診断基準を満たすことを確認し、本人や家族に説明をすると、「自分はASDだ」ということだけが頭に入り、具体的な発達の凸凹に関心が持てなくなってしまう人がいます。このように手段が目的になってしまうと意味がありません。
 本書は、カテゴリカル診断よりはディメンジョナル診断に重きを置き、それぞれの困りごとに対しての助言を丁寧に説明してあることが、手段が目的化することを防ぎ、すぐに応用できるという点で優れています。
 本書では困りごとを以下のように分類しています。

A 「多動・衝動性」タイプ
B 「不注意」タイプ
C 「傷つきやすい」タイプ
D 「コミュニケーション障害」タイプ
E 「同一性保持」タイプ
F 「感覚過敏」タイプ

  そして、<序章 発達障害って、なんだろう?>で、チェックリストを載せており、どのタイプに当てはまるかわかるようになっています。
 このチェックは臨床で使われるスクリーニングテスト(AQ ASRSなど)のように信頼性/妥当性が検証されたものではありませんし、WAIS-4のように詳細な特性を知ることはできませんが、とっかかりとしては良くできています。
 ちなみに、上記のような心理検査は診断をつけるために必須ではありませんが、本人が自分の特性と上手に付き合っていくための材料として有用なので、私は勧めています。 

 本書の著者は精神科医ですが、当事者の視点の重要性を知っており、「本人たちの診ている世界を紹介することで、特性への理解が深まり、ともに行きやすい世界をつくれるのではないだろうか」(p188)と考えて、本書を執筆したそうです。

 筆者の考えに私も賛成です。 
 少々、話が飛びますが、第二次世界大戦の80年余り、日本は、戦争に巻き込まれることもなく、政治的にも経済的にも安定していました。しかし、昨今、急激に変化しており、多くの人が、未来に対して不安をいだいて生きています。
 そういう時代に、未来に対して展望を示し、切り開いていくのは、多数派ではなく、創造的な少数派の人達(Creative MinorityやInnovator)です。
 「少数派が理解されることで共に生きやすくなる」というだけにとどまらず、Creative MinorityやInnovatorといった人達が、才能を発揮する社会になることを願っています。

 上記の漫画版です。2冊とも診察室の本棚にあり、患者さんに貸して読んでもらっています。