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【読書メモ】_依存症がわかる本~防ぐ、回復を促すためにできること

1、 メモを公開する経緯

 『依存症のすべてがわかる本』(監修:渡辺登 講談社 健康ライブラリー イラスト版 2007年)という本を診察室の本棚に常備しています。アルコールだけではなく、様々な依存症に共通するメカニズム、対処法についてイラストを豊富に使って分かりやすく説いています。
 患者さんや家族から、「そもそも、依存症ってどんな病気ですか?」とか「お酒が止まったら、ギャンブルに走ってしまいました。どうしたらいいでしょうか?」といった質問が来ると、貸して読んでもらっていました。
 重宝してきたのですが、発行から14年もたつと、古くなった部分もあり、「改訂版がでないかな?」と思っていたところ、2021年6月、本書が出版されました。
 同じく、講談社 健康ライブラリー イラスト版ですが、監修者は、松本俊彦先生。依存症臨床&研究の第一人者です。
 さすが松本先生が監修しただけあって、素晴らしい内容なので、読書メモを公開します。

2、どんなことが書かれていましたか?

 巻頭に、「主なポイント」が示されています
・「よい依存」が「悪い依存」に転じると依存症に近づいていく
・依存が進むと脳の働き方が変化する
・依存の対象は「もの」でも「行為」でも根っこは同じ
・認められる、つながるうれしさが、はまる入り口に
・薬物依存症と犯罪の関係
・再発は想定内。回復のしかたには波がある
・治療・回復プログラムの進め方
・突き放す前に家族ができること
・予防教育の現状と、依存症を防ぐために教えたいこと

 以前は、依存症を認め・受け入れるために、直面化&対決する方法が主流でした。 『依存症のすべてがわかる本』にも、「結果は本人が引き受ける」とか「突き放して『どん底』を見せることも」といった言葉があります。
 その後、直面化⇒動機付けへ、底つき⇒底上げ という変化が起きました。治療目標として、断酒・断薬に加え、ハ―ムリダクション(害を減らすことを目指す)も取り入れられるようになりました。
 また、以前は、「依存症になりやすい性格はない」とされていましたが、今は、育って来た環境の影響による「生き辛さ」「人を信頼できない」といったメンタリティーが背景にあること、治療をする際、そこへの配慮が必要であることも知られるようになりました。
 そういった変化についてもわかりやすく書いてあります。
 また、飲酒運転に対して厳罰化がなされることで飲酒運転事故は減りました。それと同じく、違法薬物の所持&自己使用に対して厳罰化がなされようとしていますが、世界の潮流には逆行しています。そういった問題提起まで書いてあります。

3、特に気に入ったくだりは?

第2章 依存対象の特徴を知る の小見出しが秀逸です。
 例えば
【歴史的な背景】 人類の歴史は「薬物」ととも始まった。
【ものへの依存】 「捕まらずに使えるもの」が求められてきた
【アルコール】 酒には最古にして最凶の薬物と言う側面がある。
 ちょっと言いづらいことを、端的に表現して素敵だと思います。

4、どんな影響を受けましたか?

 私が依存症臨床を始めた2003年頃に比べると、改善はされたというものの、まだまだ、依存症は誤解と偏見が多いことを日々感じています。
なので、私は講義の際、最初に、依存症が、どのように誤解されているかを、クイズ形式で伝えることが多いです。
 松本先生は、オピニオンリーダーとして、誤解と偏見を解くために東奔西走してきたので、本書にも、その経験と意志が盛り込まれているのを感じ、素晴らしいと思いました。

5、どういった点が優れていますか?

 「依存症とは何か」という基本から、家族の接し方、回復について、予防の実践まで、最新の知見を踏まえ、未来への提言まで! 
 これらを、分かりやすく、わずか98ページで語り尽くしている点が優れています。

6、どういう人が読むと良いですか?

 当事者、家族、支援者、コメディカルスタッフ、研修医まで、最初の1冊として、お勧めです。
 ベテランは、素早く、自分の知識をアップデートしたり、疾患教育の資料として活用してみてはいかがでしょうか?