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【読書メモ】_CBT(認知行動療法)の基礎を学ぶ書

 最近、指導医として後輩にCBTについて教える機会があったのを機に、CBTを学ぶのに良い本を整理しておこうと思い、読書メモを公開します。

 エビデンスのある精神療法といえばCBTをおいて他にはなく、依存症臨床にも応用されています。
 アルコール依存症の場合、大量飲酒していた期間の記憶が乏しかったり、断酒開始期はアルコールの影響で脳が元来の性能を発揮できないので、認知面のアプローチは効果を上げにくく、行動面からのアプローチがメインとなります。
 ここで問題となるのは、「断酒って行動なのか?」ということ。行動でないとCBTは扱えません。
 行動分析学で使われる「死人テスト」というものがあります。あることが行動か、行動ではないかを判断するツールです。「行動=死人にはできないこと」にあてはめます。死人は飲酒できない=100%断酒が可能です。だから、断酒は行動ではありません。
 これが依存症臨床が難しい理由の1つです。依存症の方は、ハマった行動はトコトン続ける能力に長けているのですが、断酒が行動ではないため、エネルギーの向け場所に困ってしまうことが多々あります。
 やっと断酒目的で入院できたのに、1週間もしないうちに「食べて、寝て、遊んでいるだけだから意味がない」と言って退院してしまう方がいます。
 では、断酒を行動として表現するとどうなるでしょう? 
 私見では「飲酒と同時にはできない行動を続けること」と表現しています。
 こう表現すると、断酒のために、どういう行動をすべきかと共有しやすくなります。
 例えば、「治療を受けなくても、好きな趣味に打ち込めば断酒できる」とおっしゃる方がいます。しかし、大人の趣味で飲酒と同時にできないものはないと言っても過言ではありません。酩酊した状態で登山する人は少ないでしょうが、「山小屋やキャンプ場で星空を見ながらの一杯」とか、「下山して麓の温泉につかったあとのビール」とか最高ですね・・・
 実は、日本では、そういう場って自助会ぐらいしかないのが現状です。
 だから、内面はどうであれ、夜、飲酒していた時間、せっせと自助会に参加することを後押しすることも立派なCBTであり、結果、断酒ができるわけです。
 しかし、自助会に参加することに抵抗がある人、時間的・地理的に難しい人もいます。また、断酒が継続できても、発達や性格の問題があったりして、抑うつ状態が遷延したり、パニック障害を合併する人もいます。
 なので、CBTの技量を伸ばすために、色々な本を読んだり、ワークショップに参加してみました。
 私の駆け出しの頃と比べると、隔世の感があるぐらい、CBTを学べる書籍は多くなり、嬉しい状況ですが、多いと迷うこともあります。
 薬物療法を学ぶのに、その薬を医師が服用してみるよう推奨されることはありませんが、CBTは、まず、治療者が自分の健康管理・問題解決のために使いこなすことを推奨されます。
 手当たり次第に様々な著者の本を読むより、一人の著者が書いた本を系統的に読み、実践することをお勧めします。ワークショップ参加やスーパービジョンを受けられた方が良いことは言うまでもありません。
 多くの有名な方がいますが、私は伊藤絵美先生(以下:筆者)をお勧めします。2004年に洗足ストレスコーピング・サポートオフィスを開業し、CBT臨床、研究、啓発活動を続けている方です。
 私は、筆者が開業間もない頃に開かれた「治療者向けのワークショップ」に参加し、わかりやすく、ユーモアのある講義に感銘を受けました。多くの著書がありますが、どれもわかりやすいです。
 その中で、治療者として、まず読むべき書とは以下の4冊だと思います。

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 上記4冊は、いずれも、治療者向けのワークショップを書籍化したもので、2005年11月に出版された『認知療法・認知行動療法カウンセリング初級ワークショップ』から、2022年9月の『世界一隅々まで書いた認知行動療法・問題解決法の本』まで17年もかかっている労作です。
 
 CBT=コラム法 というイメージが広く流通しているように思います。私も以前、そう誤解していて、クライアントに、唐突にコラム法のシートを渡して書いてもらおうとして、上手くいかなかった記憶があります。
 実は、CBTの技法の1つに認知再構成法があり、その中の技法の1つがコラム法という建付けになっています。
 CBTは、インテーク面接、アセスメント、ケースフォーミュレーションまで行い、その後に、認知再構成法、問題解決法、行動活性化、マインドフルネスといった技法から適切なものを選んで実践するという流れになります。
 日々忙しい臨床の中では、早く技法の実践にいきたくなりますが、著者によると、クライアントによってはアセスメントを行うだけでも、症状が改善する人もいるとのこと。読んでみて、改めて、ケースフォーミュレーションまでをザックリと済ませず、丁寧に行うことが肝要であることに納得できます。
 ちなみに、拙著、『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』は、CBTという言葉を使っていませんが、全体を通して、CBTの考え方をもとにして書いたものです。
 依存症の予備軍の方は、自助会に参加すると、自分よりはるかに深刻な体験談ばかりを聞いて、「自分とは違う」という結論になってしまう可能性が高いです。
 なので、それ以外の代替行動を考える必要があります。そのためにアセスメントとして「何のためのお酒なのか?」を把握することが重要です。折に触れて、質問し、丁寧にひもといていくと、「寝付きを良くするため」とか「暇を埋めるため」といった目的が出てきます。そして、目的達成(問題解決)のために、飲酒以外の何が効果的かを一緒に考えて、行動実験をしてもらうわけです。技法としては問題解決法を多用します。認知再構成法を行わなくても、アルコールにやらせていた役割を代替できるのに平行して、「飲酒しない方が良い・幸せ・充実している」と認知が変わっていく人も多いです。

 保険診療ゆえの時間不足のため、CBTをきちんと行うことは困難な状況ですが、日々、エッセンスを取り入れて、一層、臨床力を伸ばしたいです。