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A NARROW MIND

『正義の味方になろう!』とは、善行を行ったり悪人を懲らしめた経験を投稿・共有するサイトだ。
ある程度の実績があるユーザーは動画の配信もできるため、今日も本剛は「いいね」を求めてパトロール配信をしていた。

「くそっ……失敗した」

血を流して倒れる男を見下ろしながら、本剛は焦っていた。
先刻、置き引きを目撃した本剛はこれ幸いと犯人を追跡、取り押さえに成功。だがその犯人は突然拳銃を取り出して自らの頭を撃ち抜いたのだ。
「置き引きが失敗しただけで自殺……?いやそれよりも、死人を出してしまったのはマズい」
本剛が殺したわけではないことは映像が証拠になってくれるはずだが、「自殺に追い込んだ」という点が問題視される可能性もある。

「そこまでだ!」
本剛が考えをまとめられずにいると、真っ赤な全身タイツを着てウェアラブルカメラを装着した男が立っていた。
「俺の名は甲斐城!貴様の行為は配信で見ていたぞ!」
「お前、『なろう』ユーザーか!」
甲斐城と名乗った男は本剛に敵意を向けている。
「これは『過剰な追跡により犯人を死に追いやったヒーロー気取りの男を捕まえる配信』だ!今月度いいねランキング1位はいただくぞ!」
「待て!俺は別に……!」
虫デザインのジャージを着たままの本剛は、自分の配信に「よくない」が大量についていくのを見て頭が真っ白になっていた。


そのころ、自殺した男が行っていた配信には大量の「いいね」がついていた。
彼が投稿していたのは「悪の親玉になろう!」という投稿共有サイト。彼は正義の味方の仲間割れを引き起こしたということで高評価がついたのだ。
「バカだなァ、死んじまったらこれ以上のランキング上位は無理だろォに」
中継を見ながら塩塚は思った。俺ならもっとうまくやれる。
「ま、狙うのは来月のランキングだがな」
骸骨をあしらった全身タイツを洗濯しながら、塩塚は計画を練り始めた。

【続く】

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