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葬貌_第1話_シナリオ
あらすじ
高校時代からの親友同士の、茉由と和也が結婚するという。小説家の「わたし」は二人を祝うも、その夜、茉由の頭部の幻覚を見る。翌日、茉由の奇行悩む和也に相談され、茉由の様子を気にかけてほしいと告げられる。そんな折に、新人編集の斎に「あなたが彼女を呪っている」と言われ混乱する「わたし」。実は、「わたし」は小説の中で茉由を投影したキャラクターを殺し続け、無意識に間接的な呪詛を行っていた。茉由は自分が小説のモデルになっていることに気づき、取り乱し、「わたし」の目の前で車に轢かれてしまう。幻覚ではない茉由の首が転がるのを見て「わたし」は絶望する。しかし、その後も死んだはずの茉由の頭が「わたし」の前に現れ続けた。
キャラクター
・わたし……人気のホラー小説家
高校時代、演劇部で脚本を書いていた。今は小説に転向し、新進気鋭のホラー作家として活躍している。
和也のことが高校時代から好きだったが、急な告白に怯えて和也を拒否。それからぎこちない関係を続けている。
茉由が和也と付き合った日から、茉由をモデルにしたキャラクターを物語の中で殺し続けている。
・茉由……小劇場で活躍する天性の女優
「わたし」、和也の高校時代の演劇部の同期。天性の女優。まるで憑依したように役を演じるタイプ。
和也のことが好きだった。和也が「わたし」に拒絶されたことを知っていて、「わたし」の代わりになるから付き合おうと提案する。
・和也……演出家
「わたし」、茉由と演劇部の同期。高校卒業後に演出の道に入り、今は茉由と一緒に小劇団を立ち上げる。小劇場界ではコアな人気を誇り、配信などでも取り上げられ始めている。
「わたし」のことが好きだった。しかし、感情のままに「わたし」に迫ったことで拒絶され、それからぎこちない関係を続けている。
茉由と付き合ったのは、彼女が「わたし」の代わりになると言ったから。
・斎……新人編集者
いつも怯えたように話す新人編集者。霊が視える。
・桐谷……ベテラン編集者
「わたし」の担当編集者。面倒見がいい人情家。
第1話
※( )内はモノローグ
※Nはナレーション
〇マンション・『わたし』の書斎(夜)
パソコンに向かって座り、前のめりで小説を書いている『わたし』。
部屋の電気は付いていない。
パソコンの青白い光が『わたし』を浮かび上がらせている。
『わたし』のパソコンのキーを打つ手が止まる。
不意に顔を上げ、視線を左右に走らせる。
怯えた表情を浮かべる『わたし』。
わたし「(また、だ……)」
わたし「(だれかに、見られている)」
わたし「(……ううん、違う。見られているだけじゃない)」
『わたし』が顔を上げた先には、窓と、閉まっているカーテンがある。
カーテンには隙間が開いている。
『わたし』は立ち上がるとカーテンに手を伸ばし、閉めようとする。
わたし「(わたしには、見える(・・・))」
目を見開く『わたし』
わたし「(その、顔が……)」
カーテンの隙間から見える、暗い窓に映っている『わたし』。
その『わたし』の後ろに浮いている、茉由(シルエット※誰かは分からない)の顔。
〇タイトル『葬貌』
〇繁華街・居酒屋・店前(夜)
赤ちょうちんを出しているような個人店。
「乾杯!」という声やゲラゲラ笑うような声が路地に響いている。
〇繁華街・居酒屋・店内(夜)
打ち鳴らされるビールジョッキが三つ。
わたし「婚約、おめでとう!」
座敷席に座っている『わたし』、茉由、和也。
茉由と和也は隣同士。
『わたし』はテーブルを挟んでふたりの向かいに座っている。
茉由「ありがとう!」
ビールジョッキを持った茉由と和也、目を合わせて笑い合う。
和也「悪いな、付き合ってもらって」
茉由「忙しかったんじゃないの?」
和也「売れっ子作家先生だもんなあ」
〇(イメージ)見開きの雑誌、積まれた本
見開きの雑誌には『わたし』の写真。
「新進気鋭のホラー小説家」という煽りが掲載されている。
積まれた本はホラー小説だと分かるようなおどろおどろしい装丁。
茉由「同期の中では一番の出世頭じゃない?」
わたし「そんなことないよ」
〇繁華街・居酒屋・店内(夜)
わたし「茉由たちだって。こないだの舞台、見たよ。配信で」
茉由「ほんと!?」
〇(イメージ)小劇場・舞台
古風な衣装を着て舞台に立つ茉由(※演劇であると分かるように)
わたし「動員数えぐかったみたいじゃん」
わたし「チケットも完売でしょ?」
〇繁華街・居酒屋・店内(夜)
茉由「ありがたいよねぇ」
和也「自信作だったもんな。実際、評判も良かったし」
わたし「雑誌の取材も入ってたでしょ」
わたし「ほんと大きくなったよね、ふたりの劇団」
嬉しそうに笑う和也と茉由。
わたし「その、看板女優と演出家の婚約か……」
『わたし』、からかうような視線を二人に向ける。
わたし「ファンたちが黙ってないんじゃないの~」
茉由「やめてよ」
わたし「照れてる」
茉由「もう、やめてってば!」
明るい笑いに包まれる三人。
笑い転げる茉由を優しいまなざしで見つめる『わたし』
わたし「(茉由、嬉しそう)」
わたし「(この二人が結婚、か……)」
笑い合う茉由と和也に、高校生のときの二人の姿が被る。
和也「あとはお前が戻ってきてくれればなぁ」
わたし「あー……」
『わたし』、我に返り、少しだけ視線を外す。
茉由「和也!」
『わたし』、いたずらっぽい顔で。
わたし「戻ってもいいけど」
和也「けど?」
わたし「和也に、今のわたしのギャラ、払えるかなぁ」
和也「うっ……」
三人、顔を見合わせて、ゲラゲラと笑い合う。
壁掛けの時計が七時から十時に変わる。
テーブルの上の空き皿、グラスが増えている。
和也「……そんでそのときさあ、照明のやつが~……」
赤ら顔の和也。体がグラッと傾き、前のめりに倒れそうになる。
茉由「もう、和也ったら」
茉由、和也を抱き起す。
茉由の薬指に光る婚約指輪。
『わたし』、茉由の指の婚約指輪を見つめながら、自分の左手の薬指を右手の親指でなぞる。
(※無意識の行動)
茉由「飲みすぎだよ」
『わたし』、ハッと我に返る。明るく笑い。
わたし「そろそろお開きかな」
茉由「だね」
茉由、化粧ポーチを出して立ち上がる。
茉由「ごめん、ちょっと」
わたし「うん」
トイレへと向かう茉由の後ろ姿。
その後姿を見送る『わたし』。
テーブルに突っ伏し、片腕を投げ出すように寝ている和也。
『わたし』和也を見つめている。
わたし「(和也……)」
〇(回想)学校・倉庫の中(夕)
学生服を着ている和也。顔を赤らめ、真剣な目で『わたし』を見つめている。
和也「俺、お前が――……」
〇繁華街・居酒屋・店内(夜)
『わたし』、思いつめた表情。
寝ている和也におずおずと手を伸ばす。
投げ出している和也の手と、『わたし』の手が触れあいそうになる。
茉由「お待たせ」
『わたし』、ビクッと体を震わせ、手を引っ込める。
わたし「お帰り」
茉由、和也の隣に腰を下ろして、和也の体をゆする。
(※触りたくても触れない『わたし』との対比が出ればいいなと思います)
茉由「ほら、和也、起きて」
和也「ん……茉由?」
和也、甘えるように茉由にもたれかかる。
茉由、まんざらでもないような顔。
茉由「もう、手がかかるんだから」
『わたし』、気まずさを隠すように明るく笑い、からかうように。
わたし「相変わらず仲がよろしいことで」
茉由「そんなんじゃないって」
わたし「和也はきっと、茉由の尻に敷かれるね」
茉由「それは、そうかも」
『わたし』と茉由、笑い合う。親し気な、打ち解けた笑顔。
茉由「ねえ」
茉由、しっかり『わたし』に向き合って。
茉由「今日は、ありがとね」
わたし「えっ?」
茉由「ちゃんと報告したかったの。一番近くで応援してくれてたし」
わたし「……うん」
わたし「茉由」
わたし「婚約、おめでとう」
茉由、驚いた顔を見せ、嬉しそうに微笑む。
茉由「ありがとう」
〇繁華街・居酒屋・店前(夜)
酔っぱらっている和也。和也を支えるようにして腕を組む茉由。
茉由「それじゃ、またね」
わたし「うん」
茉由「次回作、楽しみにしてる」
わたし「ありがと」
和也「……うん? もう帰るのか?」
茉由「帰るよ!」
赤ら顔の和也、ふらふらになりながらも『わたし』に笑いかける。
和也「またな」
『わたし』切なげな表情。瞬きをし、軽く首を振る。
気を取り直したように笑顔を浮かべる『わたし』
わたし「うん、また」
わたし「和也!」
和也「ん?」
わたし「茉由をよろしくね」
わたし「幸せにしなかったら、わたしが許さないから!」
和也、驚いたように目を見開いて、笑う。
和也「任せとけ」
茉由「どうだか」
和也「なんだよ」
和也と茉由、顔を見合わせて笑い合う。
幸せそうな二人を見つめる『わたし』
〇繁華街・駅への道(夜)
がやがやと騒がしい道。
ネオンの看板の下でキャッチがティッシュを配っている。
うつむきながら速足で歩く『わたし』
わたし「(割り切ってるはずなのに)」
わたし「(なんで、こんなに……)」
立ち止まり、切なげに胸を抑える。
傷ついた表情を浮かべる『わたし』
〇(フラッシュ)人(※茉由)の両目のアップ
じっと見つめている。
〇繁華街・駅への道(夜)
ハッとした表情を浮かべ、振り返る『わたし』
わたし「(また、だ)」
〇マンション・『わたし』の書斎(夜)
パソコンに向かって座る『わたし』。
ため息をつき、暗い表情のまま電源を入れる。
わたし「(肩が重い)」
パソコンが起動する。
わたし「(すごく、疲れてる気がする……)」
ワードの画面が表示される。
一度肩を回し、両手をパソコンのキーに置く。
わたし「(でも、書かなきゃ)」
切り替えるように息をふっと吐く。
わたし「(よし)」
小説を書き始める『わたし』。
次第に前のめりになる。
パソコンの青白い光が『わたし』を浮かび上がらせている。
ガチャガチャとキーを叩き、鬼気迫る表情で文字を打ち込んでいる『わたし』
パソコンの画面に、文字が入力されていく。
わたし「(視覚は、脳みそで処理されている)」
パソコンに以下の文字が反映される。
文字「轢死は顔が」
わたし「(だから、頭の中で考えていることが、目の前に現れたとしても)」
文字「ってしまう。刺殺はありきたりで」
わたし「(わたしは、驚かない)」
文字「に最も適した、美しくも惨たらしい死」
わたし「(幽霊だって、幻覚だって、ぜんぶ脳みそが見せてるんだとしたら)」
わたし「(なんの不思議もないことだから)」
文字「あの女は、今わたしが殺そうと」
わたし「(でも)」
文字「殺、痛い」
文字「痛、痛い、痛、痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛」
わたし「……えっ!?」
驚いたようにパソコンのキーを叩く手を止める『わたし』
『わたし』の目がパソコンの画面にくぎ付けになる。
文字「助け て」
硬直する『わたし』。おびえた表情。
その『わたし』の手首に、絡みつくひと房の髪の毛。
目を見開く『わたし』
わたし「(それなら)」
髪の毛が『わたし』の手首を這いあがってくる。
わたし「(これは……?)」
『わたし』の顔の後ろに、ゆっくりと現れる茉由の顔。