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カップヌードルをぶっつぶせ!

運命というのがあるのだとしたら運命なんだろうだけど、雑誌の編集者になって初めて取材したのが、大好きなカップヌードルについてだった。

しかも取材相手は、カップヌードルの会社(社名は言えないけど、「カップヌードル」の会社だ)の経営層クラス、というかほぼ社長という、とてもとても偉い人。

編集者になって間もない、というか取材デビューなのに、なぜか、どういうわけなのかまったくわからずに、いきなりそんなすごい人に取材に行くことになった。

取材当日――。

緊張しすぎて、もはやほぼ覚えていない。頭の中が真っ白になりながら、用意してきた質問をひたすら棒読みして何とかその場を乗り切った、という感じだったと思う。

そんなボロボロな取材がおわり、本当は取材前に言うべきだった「僕、昔からカップヌードルがめちゃくちゃ好きなんです!」という話をしてみた。

ごくたまにフレンチとかイタリアンなんかを食べる機会がある(本当にごくたまにだけど)。

でもふと、こんなちょびちょび出てきて舌が肥えていないとおいしさがわからないような食事より、なんならカップヌードルのほうがおいしいんじゃないかと本気で感じてしまう自分がいる。

コンビニで一目惚れした他のカップラーメンに浮気したって、結局いつも「やっぱりカップヌードルだよな」と戻ってきてしまう自分もいる。

ここ10年くらいカップヌードルを食べない週はなかったし、いつもいまもどんなときもカップヌードルはそばにあった。

麺は固めが好きだから、お湯を入れて1分も経たないうちに食べ始める。そうすると、カリカリした食感のある麺と、食べているうちに時間が経ってフニャった麺が一度に両方楽しめる。

スープもおいしすぎるから捨てるなんてありえない。かといってそれだけで飲み干すのは躊躇われるから、必ずご飯を用意する。あのスープと白米のコラボレーションから生まれる味は「最高」としか表現のしようがない。

僕が大好きなフレーバーは欧風チーズカレーで、これがまた白米とよく合う。コラボレーションとはまさにこのことを言うんだなと食べながら思ったことしかない。

当時は表参道という超一等地にある出版社に勤めていたのだけど、昼間になると、そこそこの値段がするランチには目もくれず、イートインのあるファミマに行って、カップヌードル(欧風チーズカレー)とチンするご飯を買って食べるのが日課だった。

それこそが僕にとっての「ランチ」だったし、お世辞抜きに、個人的に選ぶ表参道でのランチランキングのトップ6には入る。とにかくカップヌードルが最高に好きだ。

取材に話を戻すと、緊張のせいで取材自体はあまり盛り上がらず、ただカップヌードルが大好きだと伝えた後の雑談は、予定時間をゆうにオーバーしてしまうほど盛り上がった。

そして、その人が帰り際に「そんなに好きなら、送ってあげるよ(笑)」と冗談を言っていた。

それから2日後、会社に大量のカップヌードルが届いた。

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大企業のとてもとても偉い人が、冗談半分で発した何気ない一言を実現してしまう・・・。

大量のカップヌードルを前にして会社の人たちが盛り上がるなか、僕はただただニヤニヤしていた。ちょっとだけ泣きそうになりながら。

当時、まだお給料も少なかったし、貯金をしないとだったから、一日ほぼ一食という、それなりの貧乏生活を送っていた。

そんな状況で、何日か分の食料を手に入れたこと、何よりそれがカップヌードルであることがうれくて、生意気にも「日本も捨てたもんじゃないな」とか本気で感動したことを思い出す。

取材はマーケティングがテーマだったのだけど、結局カップヌードルが最高なのは、大好きな人に食べてもらいたいという、つくり手たちの純粋さじゃないか。そんなことを、このときに思い知った気がした。

そのカップヌードルの会社には、社内に「カップヌードルをぶっつぶせ!」というスローガンが掲げられているという。

担当者は全社的な利益よりも担当ブランドの成功だけを考えればよく、全商品が「打倒・カップヌードル」を目指しているらしい。

「カップヌードルをぶっつぶせ!」

シビれるくらいにカッコいい社内スローガンだと思うからこそ、それが実現してしまわないように、僕はこれからも全力でカップヌードルを食べ続けると、ここに誓いたい。

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