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「転生探偵ヒラサカ」あらすじ・第一話【創作大賞2024 漫画原作部門応募作品】


あらすじ

2時間サスペンス好きのOLヒロコはある日、強盗に刺され命を失ってしまった……と思いきや気がつくとそこは死体の転がる殺人現場だった。
人生の最後に見る走馬灯、その中で自分は2サスの人物としてエンドロールを迎えるのか? そう覚悟を決めたヒロコは配役や脚本というメタな視点を持ちながら劇中のファイナンシャルプランナー、比良坂ヨミコとして事件を解決。その後、天に召される事もなく現実とは少し違う世界で生活を始めたヨミコは2サス世界で次々事件に遭遇する。
そんな中でヨミコは自分の他にも2サス世界に紛れ込んだ人間がいることを知り、共に2サス世界最大の未解決事件に挑むことになる。
視聴者目線、メタ推理サスペンス開幕!

本作の特徴とアピールポイント

  • 日常生活に疲れた主人公が2サス世界での活躍を通じ自信を取り戻していくコメディタッチのドラマ

  • 配役を読む、配役の裏を読む、脚本の展開から解決までの流れを予測する、誰の脚本家を考え傾向から犯人を絞るなどメタな視点で解き始めるが捜査そのものや論理の穴埋め、アリバイ崩しなどは地道に行い、ミステリとしても楽しめる

  • 主人公のヨミコを通じ、2サスあるあるを創作の工夫としてポジティブに捉えていくことであらゆる創作物にリスペクトを以て楽しむ姿勢を描いていく


第一話

【登場人物】
ヒロコ:大手企業に務める会社員。いつも激務に疲れており日曜日の2サスを見るのが楽しみ。

【導入】

切り立った崖の上に立っている数人の男女。
そのうち一人がヒステリックに叫ぶ。
30代の女性「そう、殺したのは私よ! あいつが憎かったの!」
それをコートの男性が諭す

渋い男性「いや、あなたではありませんケイコさん。ですが現場からこれを持ち去ったのはあなたですね」
男性は懐から折り鶴を取り出す。はっとする女性。
渋い男性「安心してください、やったのはあなたの妹さん……ヨーコさんではない」
男性の言葉を聞いて驚くその場の面々。

ケイコ「山形さん……なぜそのことを……!?」
山形「DNA鑑定の結果がここにあります。そして犯人はヨーコさんでもない……」
そこに走って登場する少し若い女性。

ケイコ「ヨーコ……ちゃん!」
ヨーコ「ケイコさん……いや、お姉ちゃん! やっぱりあなたが……!」
山形「ヨーコさんはあの日、どこにいたか言わなかった。いや、言えなかったのです。恋人に口止めされていた。その恋人は密かにDNA鑑定を行い、あなたとヨーコさんが姉妹であることを突き止めていた」
山形「だからそいつは山田を殺した後にヨーコさんの折り鶴を盗み、現場に置いたんだ。医師でありながら人を殺し、罪を自分の恋人になすりつけるとは!」
山形「山田殺しの犯人は……坂東医師! お前だ!」
男性は指を高級なスーツの男につきつける!

スーツの男「違う……俺は!」
山形の後ろから二人の刑事がスーツの男に迫る。
走って逃げ出すスーツの男。追いかける刑事。

泣き出すヨーコとケイコ。
ケイコ「私……てっきりあなたが山田さんを殺したんだと思って……もっとし信じればよかった」
ヨーコ「いいの……お姉ちゃん。やっと会えたんだから……!」

抱き合って涙を流す二人を背に、山形をその場を立ち去る。
「流浪の刑事 山形工兵 11 悲劇の姉妹が折り鶴に捧げた祈り」のタイトルとエンドロールが始まる。

【1】ヒロコの部屋

そのドラマをヒロコ。ヒロコは30代になったばかりの女性。日曜日の夕方でリラックスした服装をしている。1LDKのマンションは片付いているが生活感はある。ドラマの感想をぶつぶついいながら洗濯物を取り込んでたたみ始める。
ナレーション「ヒロコは大手企業に務める会社員」
ナレーション「毎日の激務に疲れ週末は家でぐったりと過ごす」
ナレーション「そんな彼女の唯一の楽しみは」
ナレーション「夕方に再放送される2時間サスペンス……通称2サスを見ることだった!」

ヒロコ「ヒロコ役の立木マリンとヨーコ役の滝川純、どっちも2サス常連だけど顔立ち似てるんだよね。そこを本当の姉妹設定に使うのにはやられたわ!」
ヒロコ「事件はシンプルなのに、犯人偽装に使った折り鶴をヨーコが持ち去っちゃうことで複雑になるってのがうまいね」
ヒロコ「山形工平シリーズはあんまり見たことないけど、やっぱり王道って感じで良かったな。ちょっと笑いが足りないけどね。田村健太郎主演だとまあ仕方ないか」

冷蔵庫を開けて中身をチェックするヒロコ。
ヒロコ「今週忙しいだろうし、週末分までしっかり買っておくか」
ヒロコはスマートフォンに買い物リストをメモし、大きめのトートバッグを持って言えを出る。

【2】買い物

ヒロコが住んでいる大きめのマンションを出て駅の方へ買い物に向かうヒロコ。
ヒロコ「明日からまた仕事か……」
ヒロコ「私も地方行って温泉に浸かりながら、事件を解決したりできたらな……」
空を見上げながら空想する。
ヒロコ「タイトルなんだろう。『限界OL一人旅 呪われた旅館の悲劇!』とか?」

角を曲がろうとするヒロコ。その向こうでは騒ぎが起こっていた。
通行人「危ないぞ!」「強盗!?」
マスクの男がナイフを振り回して警備員を威嚇し、ナイフを持ったまま走ってくる。角を曲がろうとして歩いてきたヒロコと鉢合わせる。

ヒロコ独白「何もかもがスローモーションに見えた」
ぶつかりそうになるヒロコに焦ってナイフを突き出す強盗犯。
当たりそうになる瞬間、世界がホワイトアウトする。

【3】ワインセラー

近くで悲鳴が上がり、我に返るヒロコ。
ヒロコ独白「悲鳴……! 私の? いや、違う?」
ヒロコ独白「刺された……あ、刺されたから悲鳴上がってるのか!?」
ヒロコは自分の腹のあたりを触るがなんともない。
しかし、普段着で外出したはずなのにヒロコはスーツを着ている。普段自分が着ているものよりも華やかな良いスーツだ。

周囲を見回すヒロコ。ヒロコの前には数人の男女がいる。
ヒロコがいるのは大きなワインセラーで1000本近いワインが所蔵されている。ひんやりした空気が漂っている。
ワインセラーの奥にはドレスが血で赤く染まった女性が横たわっている。年齢は40代。眼は見開いたままで明らかに死んでいる。
ヒロコの前にいた二十代の女性が「お姉ちゃん!」と叫ぶ。

ヒロコ独白「え、倒れているのは滝川純??」ヒロコ独白「これは……」
ヒロコ独白「2サスだ……!」
ヒロコ独白「私は走馬灯として2サスの撮影現場を見ているんだ……」

ヒロコ「あ、あの……」
だが全員遺体しか見ておらず反応してもらえない。
ヒロコ独白「あ、そうか。ダメだ。走馬灯とは言えエキストラの私が撮影を邪魔しては……!」
ヒロコ独白「カット! の声はまだない……この場を続けないと……」

そこに三十代後半の男が降りてくる。
男「いったいどうした……これは……姉さん!」
ヒロコは男を観察する。ちょっと胸元の開いた遊び人風の装いにネックレス。
ヒロコ独白「顔は見たことあるけど……名前が出てこない。でもこの服、金持ちの家にいるやっかいもの役なのは間違いない!」

男は死んだ女性に近づこうとする。
だが、ヒロコはとっさに叫ぶ。
ヒロコ「待って! 動かないで! 警察が来るまで何も触らないようにしないと!」
全員の視線がヒロコに集まる。
ヒロコ独白「思わず言っちゃった……! エキストラなのに……!」

若い女性「でもお姉ちゃんをこのままには……!」
それを受けて一人が宣言する。
年配の女性「明らかに亡くなっています。できることはありません」
若い女性「先生……」

ヒロコ独白「なるほど医師。現場に医師がいると話が早く進んで便利……! お金持ちの家に出入りしていて住人の生活習慣や持病、飲んでいる薬などを教えてくれる!」
ヒロコ独白「そしてこの若い女性。被害者の妹? 若干演技が鼻につくけど白々しい演技なのか、演技があまりうまくないのか判断ができない。要注意……!」

年配の女性「ところであなたは? まだご紹介をいただいていませんね」
ヒロコ「えっ……?」
ヒロコ独白「わたし、ただのパーティ参加者じゃないの? もしかしてセリフ言っちゃったから……!?」

後から来た遊び人風の男が答える。
男「この人はちょっと用事があって僕が呼んだんですよ」
ヒロコ「はい、そうなんです……私は」
ヒロコ独白「そうなんだ?」
ヒロコは懐を探った。パーティにしては地味なスーツだがパリッとしている。仕事で来たということなら納得できる。スーツの内ポケットには名刺入れが入っている。
名刺入れを開ける。2つのポケットがあり、片方に同じ名刺が20枚ほど入っている。
ヒロコ「私は比良坂……比良坂ヨミコ」
ヒロコは名刺を見ながら答える。
ヒロコ「ファイナンシャルプランナーです」
ヒロコ独白「ファイナンシャルプランナー!? あと……中小企業診断士……と書いてある」
ヒロコ独白「あともう一枚の名刺、株式会社チェリー・ブロッサム 専務取締役 桜井 慶太……遊び人の名刺?」

これまで黙っていた若い男が口を開く。
若い男性「そろそろ警察を呼びませんか? これは……事件ですよね?」
壮年の男性「その可能性が高い。連絡しましょう」
若い男性は携帯を取り出し、110番しようとするが途中で止まる。
若い男性「圏外だ……現場の保存も必要ですし、上に戻りましょう」

ヒロコ独白「この人が場を仕切っている。顔に憶えはないけど、売出し中の俳優なのかな? このドラマの主人公かも?」

ヒロコ独白「カメラも監督もスタッフも見当たらない……1カット撮影? 誰かがカメラを持ってる?」

【4】広間

一行はぞろぞろと上に戻る。そこに外から作業着の男性が入ってくる。
作業着の男性「慶太さん。これ!」
ヒロコ独白「やはり遊び人が櫻井慶太!」
慶太「茂雄さん、ちょっといま大変なんだ。後にしてくれ。姉さんが死んでる」
茂雄「ええっ? 奥様が!? なんでそんなことに!?」

ヒロコ独白「茂雄さんは使用人? 庭師かな」

茂雄「じゃ、じゃあこれだけでも。花壇に落ちてましたよ。慶太さんのでしょ?」
茂雄は折りたたみの携帯を慶太に渡す。
慶太「あ、ああ。落としちまったのか。探してたんだ」
慶太は折りたたみ携帯を開く。土がついていたのか軽くそれをはらった。

ヒロコ独白「折りたたみ携帯……! スマホじゃない? 今は何年なんだろう?」

若い男「警察を呼びました。数分で到着するそうです」

ヒロコ独白「あれ、待って……!?」
ヒロコ独白「私、何も知らない!」
ヒロコ独白「このまま事情聴取を受けるのはまずい!」
ヒロコ独白「こんなときは……」

ヒロコ「みなさん、一旦状況を整理しましょう」
ヒロコ独白「素人なのに場を仕切る登場人物が使うやつ……」

若い男性「そうですね。比良坂さんはパーティには参加されてないですし」
若い男性「僕は作家の荒木です。リカさんのお友達で」
若い女性「そう、私が呼んだの。荒木さんの作品、けっこう面白いのよ」

ヒロコ独白「なるほど、慶太と里佳の兄妹」
ヒロコ独白「私は仕事で呼ばれてパーティに参加はしていない。良かった。初対面なら名乗ってもらえる!」

ヒロコ「パーティはよく開かれるんですか?」

年配の女性「麗子さんのワインコレクションを消費するために時々ね。なにしろあの数だから……。あ、私は沢村です。医師で麗子の友人です」

ヒロコ独白「一通り揃った? 被害者は櫻井麗子。私を呼んだのはその弟で会社役員の慶太。ほかに妹の里香、その友人の作家である荒木。あと医師の沢村。あと庭師の茂夫」

ヒロコ「ちょっとびっくりして記憶があいまいなんですが……私は慶太さんに呼ばれて」
慶太「2階の俺の部屋で資産運用の相談をしてた。で、ちょっと姉貴を呼んでもらったんだよな」
ヒロコ「そう、そうですね」
ヒロコ独白「なぜ来客の私を使って呼びに行かせた……?」

荒木「たしかに。里佳さんの手品が終わったあとに比良坂さんがワインセラーへ降りていくのを見ました」
里佳「お兄ちゃん、お客さんに呼びに行かせるなんて!」
慶太「俺はワインの匂いが苦手なんだよ!」
ヒロコ独白「ワイン好きの姉にワインが苦手な弟……なるほど」

里佳「お客さんが地下に降りることはあまりないから、不思議に思って少ししてから追いかけてみたらお姉ちゃんが血を流して倒れていて、比良坂さんが横にいたの」
ヒロコ「手品というのは?」
里佳「お姉ちゃん、ワインを選び始めたら長いから間をもたせようと思って」
荒木「里佳さんは大学で奇術部だったんでね。ちょっとしたものなんですよ」

ヒロコ独白「一階ではパーティが行われていた。私と櫻井慶太は2階で仕事の話をしていた。被害者の櫻井麗子は地下にワインを取りに行き、パーティの客はしばらく櫻井里香の手品を見ていた。その後、私は慶太に麗子を呼んで来いと言われワインセラーに降りて麗子の遺体を見つけた……だいたい整理できたけどこれって私が第一発見者!?」

【5】玄関

そこへパトカーがサイレンを鳴らしてやってくる。
覆面パトカーが1台と警視庁の文字が入ったパトカーが3台、次々屋敷の敷地に入ってくる。そこから降りてくる刑事、鑑識、警察官。ヒロコ独白「壮観! 刑事がボンクラなパターンじゃないといいけど……」

刑事が屋敷のドアから入ってくる。その顔を見てヒロコは驚く。
ヒロコ独白「田村健太郎! じゃあこのドラマは……山口工平シリーズ!? いやでも警視庁だと違うか」
刑事は手帳を取り出し名乗る
刑事「警視庁捜査一課の赤尾です……ん?」
そこに里佳が走ってくる。
刑事「刑事さん、この人です。この人がお姉ちゃんを殺したんです!」
先程とは打って変わった様子の里佳。涙を流しつつ刑事にすがりついて訴える。
ヒロコ独白「この様子! 里佳は犯人か共犯者……! いやでもちょっと待って。私、疑われちゃう?」
赤尾「お嬢さん。操作は警察が進めますので落ち着いてください」
そしてヒロコの方に向き直る赤尾。
赤尾「またあんたか! 素人が事件に首を突っ込みやがって!」
ヒロコ独白「ああ……!」
一緒に来た若い刑事が尋ねる。
若い刑事「赤尾さん、この人は?」
ヒロコ独白「これは……!」
赤尾「ちょくちょく現場にあらわれては事件をつっつきまわすんだよ、いい迷惑だ!」
ヒロコは名刺を取り出して若い刑事に渡す。
ヒロコ「私はヨミコ。比良坂ヨミコ。ファイナンシャルプランナーです」
玄関には大きな鏡があった。そこにヒロコの姿が映っている。それはヒロコであってヒロコでない、普段のくたびれたOLヒロコを美化した姿だった。いかにも女優然としている。
ヒロコ独白「これは私のドラマなんだ!!」

第一話 完

物語の最後まで(補足)

大手企業に勤務するヒロコは日常の激務に耐えながら日々を送っている。
そんな彼女の唯一の楽しみは日曜日の昼に再放送される2時間サスペンスドラマだった。彼女はドラマの中で日常にはない様々な人間関係を、スリリングな事件を、風光明媚な各地の風景を、そして登場する俳優の演技の機微を楽しみ心の支えとしていた。

ある日曜日、いつものように2サスを楽しんだあと、ヒロコは1週間分の買い出しに出かける。だがそこで逃走する強盗犯と鉢合わせし、出会い頭に刺されてしまう。意識が遠のくヒロコは自分が死ぬのだと自覚していた。

が、すぐ近くで悲鳴が上がり意識が戻るとヒロコはなぜか部屋の中に立っている。続けて何人か人が駆けつけてくるが、なぜか見覚えのある顔ばかり。そこでヒロコはそこにいる男女が全員見知った俳優であることに気づく?
ロケか何かなのか、と尋ねるヒロコだったが誰もまともな反応を返してくれない。一方で今のシチュエーションに疑問を呈すると全員が怒涛のように喋りだす。

「ここは2時間サスペンスの世界?」
ヒロコはだんだんと気づき始める。そんなヒロコの様子を疑問に思った登場人物の一人がヨミコに何者かと尋ねる。言われて名刺を取り出したヒロコは、そこに比良坂ヨミコという名前とフリーのファイナンシャルプランナーの肩書が書かれているのを見つけるのだった。
「これが2時間ドラマなら、私はFPの立場を使って事件を解決するはず!」
ヨミコたちがいたのは大邸宅の地下のワインセラーだった。3人いる家政婦の中から目撃者役の俳優を見抜き、経済的な苦境に陥っている彼女に経済的なアドバイスを行い、重要な目撃証言を得た彼女。だが犯人は一人に絞れない。両方にかまをかけた彼女は演技のパターンから犯人を見抜き、それを前提に証拠を探し犯人を確定させる。
全員の前で推理を披露し、証拠をつきつけ、事件を解決するヨミコ。
その心はこれまでにない喜びに満ちていた。

荷物の中身を頼りに帰宅したヨミコはこの世界での自分が自宅件事務所で優雅な生活を送っていると知る。翌日、街を歩いたヨミコは自分が過ごしていた現実とはやや違う2サス世界を堪能する。コンビニや銀行、企業名などはことごとく架空のもの。ただドラマの中では使われがちな名前ばかり。CMも見慣れない。ただ一つの欠点として、この世界には2サスドラマというものがなかった。

そんなヨミコの元には次々と奇妙な依頼がやってくる。山奥の別荘での相続相談、温泉地のホテルでの経営相談、自分には憶えがない昔の友人からの悩み相談、有名俳優演じる元カレとの対決。対面した時に相手がヨミコの知っている俳優ならそれはもう2サスの世界。どこへ言っても事件は起こるが、ヨミコは視聴者目線で当たりをつけ、地道な捜査と説得によって事件を解決してくのだった。

日が経つにつれ、2サス世界の生活にも日々顔を合わせる人間が増えていくことで自分が出演するシリーズが進んでいることを実感するヨミコ。詐欺に巻き込まれる友人、ファイナンシャルプランナーを目指す大学生、田舎で旅館を営む両親などいずれも見知った俳優である。
時には一人の俳優が別な場所で複数の役を演じていることに混乱したり、有名俳優を使って事件をミスリードされたりという苦境に立たされる事もあった。

そんな中、ヨミコはいくつかの事件で役を変えては遭遇する人気2サス俳優田村健太郎の様子がおかしいことに気を止める。ある日、ヨミコは事件の気配がしない完全な日常の中で、普段着でコンビニにいる田村健太郎と遭遇する。思わず声をかけたヨミコだったが「プライベートなので」とつれなくあしらわれてしまう。そこでヨミコは田村健太郎は2サス世界の住人ではなく田村健太郎本人なのだと確信する。自分と同じような境遇の人間が他にもいることに驚く田村健太郎。二人は意気投合し、プライベートで友人となる。

その後もいくつかの事件で遭遇し、互いに知らないふりをしながら役を演じきる二人。だがやがてヨミコは思い出す。田村健太郎は再放送でしか見たことがない。彼は数年前に舞台からの落下事故で死亡しているのである。田村自身も舞台からの落下は記憶にあり、気がついたら2サス世界に入り込んでいたという。
二人は時々プライベートで合うようになる。役を広げるためという名目で護身術の教室に通ったり、ゴルフをしたりと生前していなかったことをする。田村は2枚目だが実は運動はからきしだったのだ。

親しくなっていくうちに田村は悩みを打ち明ける。彼はヨミコと共演していない時に何度も同じ事件に遭遇している。その事件はスケールが大きく、テロや自衛隊などが絡み、捜査を進めても犯人にたどり着けない。最終的に国会が爆破されたいへんなことになるのだが翌日には何事もなかったかのように元に戻っているという。ヨミコは一介のファイナンシャルプランナーが関わる事件ではないと思いながらもその事件に興味を持つのだった。

なんとかして自分もその事件に関われないか?
ヨミコはファイナンシャルプランナーとして多くの人間と交流を持ち、コネを広げていく。やがては経済産業省のアドバイザーとなり、有識者会議などにも呼ばれ、議員ともコネを作っていく。

ある日、議員との会食の場に刑事役である田村健太郎が現れる。最後の事件が始まることになる。自衛隊からの武器弾薬の消失、それを捜査する警察と自衛隊の情報部。だが、テロ組織からの場当たり的なメッセージを追ってもなかなか手がかりにはたどり着けない。田村とヨミコは一度役を無視し、メタな知識を照らし併せて事件を推理していく。そして得た結論は一つ。
事件の脚本は書きかけであり、事件は完結しない。登場人物を増やしたり減らしたりしながらどう収めるかを模索しているのだという事である。
犯人は大予算のスペシャル番組を持て余している脚本家だと叫んだ国会議事堂は爆破される。呆然と立ち尽くすヨミコと田村。

翌日、ヨミコが国会議事堂を訪れると、前日に爆破されたはずの議事堂は無事元通りで、まるで事件が起こったかのような気配は無かった。
再び田村健太郎と事件について話すが、特に解決の糸口は見つからない。落ち込むヨミコ。田村はこれまで事件に関わらなかったヨミコが入ったことで何かが変わるのではないかと過剰に期待してしまった、だが主役の自分がしっかりするべきだったと反省を口にする。

その言葉を聞いてヨミコは気づく。田村は現実世界では死亡している。脚本が不出来なのではなく、田村の死によって番組がなくなり途中で終わっているのではないかと。ヨミコ自身はゲスト的な存在だが、コラボ番組だったらヨミコ自身も自分の活躍をするべきなのだ。

時は流れ、次の年の同じ時期に再び事件が始まる。ヨミコは自身の主役としてのキャラクターを存分に発揮し、政治家や警察高官にもずけずけと物を言い、テロ組織の構成員と護身術を使って戦い、高級料亭で大立ち回りを演じる。そしてついにはテロ組織に内通していた裏切り者、田村健太郎の上司をあぶり出し、テロ組織を壊滅させて事件は解決する。

深い満足に包まれるヨミコ、そして田村。メタな世界が徐々に崩壊し、二人はそれぞれ自分が天に召されるのだと悟る。あんたはいい女優だったとヨミコに告げる田村。だがヨミコは自分の性分は女優ではない、2サスは外から眺めていたいと返す。二人は消えていく。

次の瞬間、ヨミコは現実世界に戻っていた。眼の前にはナイフを持った強盗がいる。だが刺される寸前、ヨミコは習った護身術を駆使し犯人を投げ飛ばす。ヨミコは事情徴収や取材を受け、無事に買い物を終えて帰宅する。

その後、ヨミコは会社をやめた。
インターネットで調べると田村健太郎は存命で健太郎主演の刑事ドラマが始まっている。習った護身術により田村は舞台から落下しても受け身を取って生き延びたのだ。
ヨミコPCを開いて脚本を書き始める。
タイトルは「転生探偵ヒラサカ」


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