見出し画像

「転生探偵ヒラサカ」第三話

第三話

【登場人物】
ヒロコ 2時間サスペンスが好きなOL。事件に巻き込まれ気がつくと2サスドラマの待っただ中にいた。

【劇中ドラマ登場人物】
比良坂ヨミコ ファイナンシャルプランナー。仕事で訪れた館で殺人事件に巻き込まれる。
櫻井麗子 経営者。事件の被害者ワインセラーで刺殺されていた。
櫻井慶太 麗子の弟。ヨミコの雇い主。
櫻井里佳 麗子、慶太の妹。手品が得意。
沢村恵子 医者。麗子の友人で主治医。
荒木弘大 作家。里佳の友人。
岩田茂夫 桜井家の庭師。
山崎みゆき 桜井家のメイド。
赤尾ケン 警視庁捜査一課の刑事。

【1】広間

広間に集まる関係者一同。ヨミコはあいさつをする。
ヨミコ「みなさん、お集まりいただきありがとうございます」
荒木「いったい何が始まるんですか? 面白そうだな」
沢村「犯人は捕まったんですか?」
里佳「あなたが殺したのよね? 自白してくれるの?」
ヨミコ「犯人がわかりました!」
ヨミコは高らかに宣言する。
一瞬どよめいて静かになる広間。

ヨミコ「最初から順を追ってお話しましょう」
ここからはシーンの再現にヨミコの説明で進行していく。

【2】事件の全体像

ヨミコ「今日はこの館の主、櫻井麗子さんが自身のコレクションのワインを披露するパーティーを行っていた」
ヨミコ「参加者は麗子のご家族、ご友人、さらにその知人友人の方々ですね」
ヨミコ「慶太さんはワインの香りがお嫌いとのことで参加されていませんでした」
ヨミコ「私、比良坂ヨミコは慶太さんの依頼を受けてライフプランの相談にうかがっていました。パーティが行われる中、メイドのみゆきさんに案内されて2階へ行き、書斎に入りました」
ヨミコ「その後、最初に出されたワインがなくなったので麗子さんは地下のワインセラーに第二陣のワインを選びに行きました」
ヨミコ「その後、間を保たせるということで里佳さんは手品を始めた。手品を終えた後くらいで私は麗子さんを呼んできて欲しいと慶太さんに頼まれ、ワインセラーに降りて麗子さんの遺体を発見しました」
ヨミコ「ここまで皆さん、よろしいでしょうか?」

【3】事件の真相

里佳「そう。私は嫌な予感がして地下に降りた。そうしたら比良坂さんがお姉ちゃんの遺体の横に立っていて……。この人が犯人だと!」
里佳がヒステリックに叫ぶがそれは演技にも見える。
荒木「凶器はナイフでしたよね? 指紋などは出なかったんでしょうか?」
若い刑事「指紋は出ませんでした」
里佳「拭き取ったんだわ!」
若い刑事「そうかもしれませんが、今のところ決定的な証拠にはなっていないということです」
里佳は不満そうに引き下がる。

ヨミコ「全員の証言に嘘がないと仮定しましょう。では次に考えなければならないのは、皆さんに見られないように地下に降りることができるのか? という点です」
沢村「それは無理じゃないかしら? 地下室への階段はここから丸見えだし、実際、比良坂さんが地下に入るところは何人かが見ています」
ヨミコ「でも階段に入るときと出る時だけ、誰もそっちを見ていない瞬間を作れるとしたら……?」
荒木が「あっ!」と叫ぶ。
ヒロコ独白「察しがいい人がいると助かる!」
荒木「手品ですね!?」
全員が一斉に里佳を見る。焦る里佳。
里佳「そんな! じゃあ犯人は私が手品をする瞬間を狙って?」
若干しどろもどろになる里佳。
ヒロコ独白「まだシラを切るのね……!」
ヨミコ「逆じゃないかしら? あなたが犯人の行き来に合わせて手品をしているのでは?」
若い刑事「携帯電話を見せてもらえますか?」
刑事は里佳の携帯のロックを解除させ、メールや着信履歴を調べる。しかし何もない。
若い刑事「言いましたよね。消しても記録は残るんですよ。我々は調べてあります。12時52分と57分の2回、あなたは櫻井慶太さんからメッセージを受け取っている!」
里佳は助けを求めるように慶太の方を見る。
慶太「いやいや刑事さん、別になんてことないやりとりですよ。俺の携帯にはちゃんと履歴が残ってます。」
画面を見せる慶太。「手品見たい」「手品すごかった」というタイトルのメールが残っている。
慶太「こんなの証拠になります?」
慶太「何より、俺はずっと比良坂さんと書斎にいたんですよ。下にいけるわけがない」
ヒロコ独白「そう、そこが重要!」
ヒロコ独白「私もずっとそう思ってた。私の記憶は死体を見たところからしかない。素直にずっと仕事の話をしていたと思っていた……」
ヒロコ独白「でも書斎にあったコーヒーは一つだった。たぶん私は部屋で一人待たされていたんだ……!」
慶太「メイドの山崎さんが廊下を掃除していたはずです。山崎さん、俺が部屋を出て下に行くところを見ましたか?」
メイドのみゆきが前に出てくる。
みゆき「いえ、見ていません……」
慶太はほら見たかとにやついてヨリコを見る。
みゆき「ですが、私がコーヒーをお持ちしたときに部屋には比良坂さん一人でした」
慶太の顔がみるみる赤くなる。
みゆき「慶太さんはその時、どこに行かれてたんですか?」
慶太は怒鳴る。
慶太「みゆき、余計なことを言うなと……!」
それを遮るヨミコ。
ヨミコ「余計なこととは? 館の主が殺されたときに証言するのは余計なことなんですか?」

急にトーンダウンする慶太。
慶太「た、たしかに部屋を離れた瞬間はあったかも知れない、だけど……」
ヒロコ独白「私が待たされていたことを憶えていたら疑われた時に慶太が先に部屋を出たと反論していただろう。でも慶太はそれを否定し、みゆきの証言がそれを保証する。パーティー参加者は誰も慶太を見ていない。そうすると……怪しいのは私になる!」
ヒロコ独白「ほんとはもっと疑われてドラマを盛り上げるべきだったのかもね!」

慶太「俺は下には降りてない。ワインだって苦手だし。なんなら今まで一度もワインセラーのある地下には行ったことがない」
ヨミコ「そう、あなたは実際地下に行ったことがないかほぼ行かないのでしょう。それはわかります」
慶太「えっ?」
急に肯定されて驚く慶太。
ヨミコ「あなたの携帯のありかがそれを教えてくれました」
ヨミコ「茂夫さん、あなたが携帯を見つけたのは花壇でしたね?」
茂夫が答える。
茂夫「はい、そうです。開いたまま花壇に落ちてました」
ヨミコ「その花壇の後ろに何かありませんか?」
茂夫「何か? ああ、明かり取りの窓があります」
ヨミコ「なぜそんなところに携帯が落ちていたのか?」
ヨミコ「それは慶太さんが地下には電波が届いていないことを知らなかったからです!」
沢村「どういうことですか?」
ヨミコ「慶太さんは地下に降りる前に里佳さんにメッセージを送り、手品を始めさせた。そして地下に行き、麗子さんを殺した」
ヨミコ「そして地下から出るときにもう一度里佳さんにメッセージを送ろうとしたけど送れなかったんです。だから……」
荒木「送信を押して窓から携帯を放り投げた!?」
ヨミコ「その通り!」
若い刑事「慶太さんの携帯は端の塗装が少し剥げていますね。これが明かり取りの窓にぶつかったときに剥げたものなら、塗料が付着しているかもしれません。証拠になります」

そこにやってくる赤尾。
赤尾刑事「こっちも出たぞ!」
赤尾は袋に入れた手袋を持っている。
赤尾刑事「山崎さんの証言通り。捨てられているのを鑑識が発見した」
赤尾刑事「ルミノール反応と、手袋の内側にあんたの指紋も出るかもな。櫻井慶太!」

がっくりとうなだれる慶太。そして里佳。
沢村が叫ぶ。
沢村「なんで!? 麗子はあなたたちを養うために一生懸命やってきた! お金だって不自由してなかったじゃない!!」
慶太「姉さんは……俺に出資するから独立しろってしばらく前から言ったんだ! 役員も退任しろと。でも俺はずっと姉さんのいうことを聞いて生きてきただけだった! だから切られたらもうダメなんじゃないかって……」
それを諭すヨミコ。
ヨミコ「あなたはお金をたくさんもらって自由だと思っていたけど、実はそのお金に縛られていたのよ。人が自由と思えるには経済的独立性が必要だわ。もっとお金のことを勉強しなさい!」
そして里佳にも言う。
ヨミコ「あなたもよ!」
二人に声をかける赤尾。
赤尾刑事「ではご同行願いましょうか」

【4】解決
若い刑事「お見事でした……赤尾さんが認めるだけある」
だが赤尾が後ろから反論する。
赤尾刑事「認めちゃなんかいねぇよ! 素人がちょろちょろして邪魔だから満足してもらうための場を用意しただけだ。さっさと帰れ!」
ヒロコ独白「そろそろ〆ね……どう決めればいいんだろう?」
ヨミコ「こっちだってもう巻き込まれるのはこりごりだわ! ライフプランの相談があったらいつでも連絡ちょうだい」

館を出るヨミコ。
ヒロコ独白「そろそろエンドロールかしら……歌は誰だろう?」
ヒロコ独白「長い走馬灯だったけど……最後のご褒美としては悪くなかった」
ヒロコは両手を広げ、目をつむる。
……が、しばらく待っても何も起こらない。
ヨミコ「あれ……?」
遠くから赤尾が叫ぶ。
赤尾刑事「早く帰れって言ってるだろ!」

【5】ヨミコの事務所

浅草にあるヨミコの住居兼事務所。
「比良坂ライフプラン」という看板が掲げてある。
中は広くておしゃれな部屋。メゾネットで1Fがオフィス、2Fが住居という構成。免許証や保険証などを広げて自分が何者なのかを確認するヨミコ。
ヒロコ独白「投資信託や株でけっこうな資産を持ってる……堅実!」
ヒロコ独白「生きていくだけなら投資信託のリターンだけでもなんとかなりそう」

ヨミコは二階に上がってベッドにひっくり返る。
ヨミコ「疲れたけど……」
ヨミコ「いい一日だった……」

そこに携帯の着信がある。
ヨミコ「はい、比良坂ライフプラン」
声「あ、比良坂さんですか? 私、櫻井家でお世話になったメイドのみゆきです。実は実家の旅館のことで相談がしたくて……」
がばっと飛び起きるヨミコ。
ヒロコ独白「事件のにおいがする!」

第三話 完

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?