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「転生探偵ヒラサカ」第二話

第二話

【登場人物】
ヒロコ 2時間サスペンスが好きなOL。事件に巻き込まれ気がつくと2サスドラマの待っただ中にいた。

【劇中ドラマ登場人物】
比良坂ヨミコ ファイナンシャルプランナー。仕事で訪れた館で殺人事件に巻き込まれる。
櫻井麗子 経営者。事件の被害者ワインセラーで刺殺されていた。
櫻井慶太 麗子の弟。ヨミコの雇い主。
櫻井里佳 麗子、慶太の妹。手品が得意。
沢村恵子 医者。麗子の友人で主治医。
荒木弘大 作家。里佳の友人。
岩田茂夫 櫻井家の庭師。
山崎みゆき 櫻井家のメイド。
赤尾ケン 警視庁捜査一課の刑事。

【1】玄関

刑事の赤尾がヨミコ(ヒロコ演じるファイナンシャルプランナー)を見て憎まれ口を叩く。
赤尾「ちょくちょく現場にあらわれては事件をつっつきまわすんだよ、いい迷惑だ!」
ヨミコ「私だって好きに巻き込まれてるわけじゃありません!」
言い返すヨミコ。

ヒロコ独白「どういうわけかはわからないけれども、今の私は2時間サスペンスドラマの主人公……!」
ヒロコ独白「人生の終わりに大好きな2サスの世界に入れるなんて……」
ヒロコ独白「こうなったらファイナンシャルプランナー、比良坂ヨミコを演じきって、最高のエンドロールを迎えてやる!」

【2】広間

若い刑事「一通りの捜査が終わるまで建物からは出ないでください。むやみに物を動かしたりすると証拠隠滅を図ったとみなされる場合があります!」
庭師の茂夫が迷惑そうに反論する。
茂夫「屋敷の中にいたんじゃ仕事にならないんですがね!」
若い刑事「非常時ですので我慢してください」

ヨミコ「2階に荷物を置いたままなんですが取りに行っていいですか?」
若い刑事「荷物は置いたままにしてください」
ヨミコ「じゃあ携帯だけでも」
若い刑事「まあ、いいですけど。履歴を消しても通話記録は残っていますからね?」
ヨミコ「何よ、私を疑うっての?」
若い刑事「いや、そういうわけじゃ……」

ヒロコ独白「本来の私だったらこんな風に言い返せずに隅っこで縮こまってただろうな……」
ヒロコ独白「でも今日の私は主人公なんだから!」

【3】慶太の部屋

ヨミコは2階へと上がる。ちょうど目の前に屋敷のメイドと思しき女性がいるので話しかける。メイドは二十代後半。
ヨミコ「ごめんなさい、慶太さんの部屋はどちらだったかしら?」
メイド「こちらです」

案内してもらって部屋に入るヨミコ。捜査員の一人がヨミコを見張っている。慶太の書斎は応接セットと机があり、そこに女性もののバッグが置かれている。
ヒロコ独白「たぶんこれだよね……」
中には携帯電話が入っている。折りたたみの小ぶりなタイプだ。
ヒロコ独白「古いけど私も十年前くらいはまだスマートフォンを使ってなかった……」
ヨミコは携帯電話を開く。中を見ようとすると暗証番号を求められる。
ヒロコ独白「この携帯が同じかはわからないけど……」
暗証番号は一発目で正解だった。
ヒロコ独白「土曜サスペンス劇場の最高視聴率の数字。まぎれもなく私の!」

ヨミコは通話記録を調べる。昼前あたりに櫻井慶太という項目がある。
ヒロコ独白「クライアントの櫻井慶太との通話記録。屋敷に到着する前に慶太に連絡をしたのね」
回想。庭師の茂夫が庭で携帯を拾ったという場面。
ヒロコ独白「私が屋敷につく前に慶太は携帯を持っていた。でもワインセラーがから戻ったとき、携帯は庭に落ちていた。これは明らかに伏線!」
ヒロコ独白「本物の事件だと無数の出来事、人間の中から犯人を絞り出す必要がある。でもこれはドラマ! ドラマは視聴者に事件を説明するための出来事を順番に見せている。携帯が庭に落ちていたのには意味があるはず!」

ヒロコは慶太の書斎の窓際まで行き、窓を開けた。下を見てみるがその下には花壇がなかった。
ヒロコ独白「ここから携帯を落としても花壇には落ちない。投げれば届くけど理由がない……」
花壇があるのは隣の部屋の真下となる。

ヨミコは迷惑そうな捜査員を横目に隣の部屋のドアを開ける。
そこには里佳がいた。
里佳「ちょっと、ここ私の部屋なんだけど!」
ヨミコ「あら、ごめんなさい。間違えちゃった」
里佳「容疑者が自分の家をうろつくのはがまんできない。警察の方、怪しい人はちゃんと見張っていてもらえる?」
ヒロコ独白「里佳の部屋……。二人が共謀しているのなら里佳が何らかの理由で落とした可能性もあるけどそもそも落とす理由が考えつかない。慶太はどこかのタイミングで外に出た?」

そこに背後から声がする。
赤尾「お嬢さんはなぜこの女が犯人だと?」
赤尾刑事がそこに立っていた。
里佳「なぜって……ワインセラーにお姉ちゃんが入っていって、その後にこの女が入っていって、行ってみたらお姉ちゃんが刺し殺されていたのよ。他に犯人がいます?」
赤尾「誰が犯人かは警察が慎重に捜査して考えることです。あなたも容疑者の一人であることに変わりはありません」
里佳は不満そうな表情を作る。
里佳「お姉ちゃんとこの人の他に誰かが降りたのを見た人はいない! いずれわかるわ!」
里佳は捨て台詞を残して部屋を出ていく。

ヒロコ独白「このドラマって何回目? 2回目以降なのは間違いないけどヨミコと赤尾刑事はどの程度の間柄なんだろう?」
ヨミコ「赤尾さん、里佳さんの態度、明らかに怪しいわ。遺産相続で恩恵を受けるが慶太さんと里佳さんと考えると慶太さんが犯人の可能性が高い」
赤尾「なんども言わせるな。捜査をするのは我々だ! あんたは下で大人しくしてろ」
ヨミコ「はいはい」
ヒロコ独白「ツーカーというわけではなさそうだけど、何か捜査を進展させるような情報があればいやいや付き合ってくれそう?」

ヒロコは慶太の書斎に戻り、携帯を手に部屋を出ようとする。
応接セットの机の上には飲みかけのコーヒーカップが一つだけ置かれていた。外に出ると赤尾がいる。
赤尾とすれ違い際、赤尾がぼそっと言う。
赤尾「この屋敷のメイドはあんたと慶太はずっと書斎にいたと証言してる。ずっと部屋にいたんじゃ殺せないだろう?」
ヒロコ独白「慶太じゃないなら誰が殺したの……?」

【4】広間

下に降りると医師の沢村が作家の荒木と話している。
沢村「慶太さんは役員とは名ばかりで仕事もしないで遊び呆けていた。でも麗子は慶太さんと里佳さんには本当に甘かったから……」
荒木「なるほど。里佳さんも大学を出てから特に仕事をしているわけでもないですしね。貧乏作家としては羨ましい限りですよ」
ヒロコ「慶太は十分にお金を持ってそう。それでも殺す理由は何かあったのかしら?」
沢村「比良坂さん……でいたね。慶太さんとは何を?」
ヨミコ「それは仕事上の守秘義務がありますから……」
ヒロコ独白「そういえば上で何を話してたのかぜんぜんわかんない!」

荒木「そりゃそうですよね。でも慶太さんも自分の人生のこの先をちゃんと考えようと思ったんじゃないですか? わざわざプロを呼んで相談しようとしたんでしょ?」
沢村「だといいんだけど。若くてきれいな人だから、最初また愛人を作ったのかと思っちゃった」
ヨミコ「また? ああ……!」
荒木「みゆきさん? 確かにちょっと慶太さんが馴れ馴れしいですね」
ヒロコ独白「あのメイドの子の幸薄そうな感じ! いかにも愛人役だった」

何人かが組になって話をしている中、里佳が声をかける。
里佳「こんなときですが、みなさんにちょっとした手品を披露しましょう」
里香は巧みにカードを繰り、一枚を取り出し周囲に見せる。それを再びカードの中に入れて切る。だが、里香が指をぱちんとならすとそのカードは手品を見ていた客の一人のポケットから出てくる。ばらばらと周囲から拍手が起こる。
赤尾「見事なもんだな」
急に背後から赤尾の声がしてヨミコは驚き、飛び退いた。
ヨミコ「ちょっと、脅かさないでよ!」
赤尾「被害者の櫻井麗子は経営者として堅実だっただけでなく、業界で人目を惹くような施策が得意だったそうだ。妹の里佳にも同じような資質があるのかもな」
ヨミコ「人を惹きつける……」
ヨミコ「そうか!」
ヨミコは地下室の階段へと歩き出す。
赤尾刑事「おい、どうした。比良坂ヨミコ!」

【5】地下室

ヨミコ「ちょっと失礼」
階段を降りて地下に入っていくヨミコ。
現場であるワインセラーの中では鑑識が作業している。だが、そこには入らずヨミコは途中で立ち止まる。
ワインセラーは温度を一定の保つため扉がつけられている。その手前の部屋には外から明かりが差し込んでいる。半地下で上には窓が設置されているからだ。その窓の一つは開いていた。
ヨミコ「なるほど、そういうこと!」
ヨミコはうなずいた。

そこにやってくる赤尾。
赤尾「何か……わかったのか?」
ヨミコ「メイドのみゆきさんと話をさせてくれない?」

【6】二階の廊下

みゆき「なんでしょう?」
ヨミコ「あなたが慶太さんに言い寄られているのを見たという証言がある」
みゆき「私はこの屋敷で雇われているんです。このお屋敷の人のことについて何かいうことはできません」
ヨミコ「その雇い主が殺されているのよ! 協力してちょうだい」
みゆき「でも……」
ヨミコ「あなた、お金に困っているわね?」
みゆき「なぜそれを……!」
ヨミコ「私はファイナンシャルプランナー。お金の相談に乗るのが仕事なの」
ヨミコ「聞いて、みゆきさん。困ってる時にお金をくれる人が親切とは限らない。自由に必要なのは、経済的な独立なの。一緒にどうするか考えましょう!」
泣き出すみゆき。
みゆき「信じていいんですか……」

【7】広間

広間に集まっている関係者一同。赤尾刑事と若い刑事もいる。
ヨミコ「みなさん、お集まりいただきありがとうございます」
荒木「いったい何が始まるんですか? 面白そうだな」
沢村「犯人は捕まったんですか?」
里佳「あなたが殺したのよね? 自白してくれるの?」
ヨミコは両手をそっと広げて全員を黙らせる。
ヒロコ独白「いよいよやってくる」
ヒロコ独白「私の人生の最後にして最高の瞬間が……!」
ヨミコ「犯人がわかりました!」
ヨミコは高らかに宣言する。

第二話 完


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