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「ゲーム作りは青春だ!」あらすじ・第一話【創作大賞2024 漫画原作部門応募作品】

あらすじ

子どもの頃からなんでもできる颯太はみんなのヒーローだった。
だが年を経て器用貧乏のポジションに落ち着いた彼はぼんやりと日々を過ごすようになる。
そんなある日、颯太はVTuber流星ラパンの配信をきっかけにゲーム開発に興味を持つ。

幼いころ内気だったつむぎは何事にもチャレンジする颯太を見て自身もプログラミングに挑戦し、天才少女として注目されるようになった。最近の颯太の覇気のなさを苦々しく思っていたつむぎは、たまたま颯太が手にしたゲームを通じ彼のやる気に火を付ける。
そう、彼女こそVTuber流星ラパンの正体だったのだ。

颯太とつむぎ、二人は時に対立し、助け合いながらゲーム開発コンテストに挑んでいく!

※本記事の最後にラストまでの物語を掲載しています。

本作の特徴とアピールポイント

  • 中高生男子が将来目指したい職業の上位にランクインするゲーム開発者を題材にしています

  • 器用貧乏の颯太と優等生のつむぎ、タイプの異なる二人の成長をゲーム開発を通じて描きます

  • コンテストやイベントのためにゲームを作り、そこで課題が発生し、人との出会いや交流を通じて技術や知見を身に着けていくという基本サイクルで物語が展開します

  • ゲーム開発にして現実をベースにアレンジした用語を用いますが基本的な要素は本質を外さず解説していきます

  • 颯太とつむぎは一見交わらないようでいてつむぎはVTuberの流星ラパンというもう一人の自分を通じて颯太を導いています。読者だけがそれを知っていることで緊張感につながります

  • 女性読者が応援したくなる存在として颯太を導きライバルとしても立ちはだかるつむぎを強いヒロインとして打ち出します

第一話

【主要登場人物】
・月森 颯太:主人公。中学2年生。器用貧乏だが飛び抜けた特技はない。
・鷹野つむぎ:ライバル。中学2年生。子どもの頃からプログラミング教室に通っている。
・若狭 瑛士:颯太の幼馴染。ゲーム好きでPCにも強い。
・流星ラパン 中高生に人気のVTuber。便利なAppやIT技術を紹介している。

【導入】

夜中。一人でパソコンに向かう少年の後ろ姿。顔は見えない。
キーを叩き、マウスを持って作業し、一心不乱に作業している。
机の上に雑然と積み上げられた本。

「確率・統計」「物理」「Game Physics」「楽しませる! レベルデザイン」「C#プログラミングテクニック」「ローポリモデリングを極める!」
パソコンのモニタには様々な付箋が貼られている。
「残り作業まとめ」「ロードアウトのバグ」「ビデオ撮り」「応募書類再チェック!」

壁のコルクボードにはバーンダウンチャートが貼られている。
バーンダウンチャートからは予定を巻いたり押したりしながらもゴールに向かって収束している様子が見て取れる。

カレンダーの8月31日には「作品提出締切!」と大きな字で書かれている。
その下には小さく「宿題?」の文字。
カタカタ、カチカチとマウスとキーボードの音が響く。

【1】学校・放課後

颯太独白「別に醒めていたわけじゃない」
独白「知らなかったんだ」
独白「夢中になるということを……!」

地方都市のそこそこ大きな学校。季節は春。
ベルが鳴り、生徒が部活の準備を始めている。
グラウンドでボールを蹴るサッカー部員。ボールが大きく逸れて二人組の生徒に当たりそうになる。一人はごく普通の中学生、一人はやや小柄で眼鏡をかけている。
サッカー部「避けろー!」

眼鏡の生徒「ひゃあっ!」
悲鳴を上げる眼鏡の生徒。
もう一人は振り返って片手の平でボールの勢いを殺し、受け止める。
主人公の颯太である。
ほっとする眼鏡の生徒。
ボールは足元に落下。受け止めた生徒はそれをサッカー部員に蹴り返す。

きれいに弧を描き返ったパスをトラップするサッカー部員。
サッカー部員「ナイスパス! 颯太もサッカー部入れよ!」
颯太「俺はいいよ、じゃあな!」
颯太は軽く片手を振ってそのまま眼鏡の生徒と学校を出ていく。

【2】ファーストフード店

颯太と眼鏡の生徒がドリンクだけ頼んで4人席で雑談をしている。
ファーストフード店の名前は「ベーカーキング」
眼鏡の生徒は携帯ゲーム機で遊んでいる。
颯太「瑛士は家で何してる?」
瑛士「勉強ですね。うちはゲームもテレビも親が快く思わないですから」
瑛士「ベカキンのWiFiでゲームやるこの時間が唯一の楽しみですよ」

颯太「たいへんだなー。うちなんか何しても別に怒られないもん」
瑛士「その割には颯太くんゲームも漫画もドラマもネットもあんまり興味ないですよね…」
颯太「なんかあんまりピンと来ないんだよな。うちの親も、何か打ち込めるものはないのか? 好きなものはないのか? っていつも聞いてくるけど、そーいうのが重いんだよ」
瑛士「自由って難しいですよね……あーっ!」
ゲームオーバになって頭を抱える瑛士。

颯太「さっきから何のゲームやってんだ?」
瑛士「パブロです」
瑛士「なに?」
瑛士「パブロ・ザ・ウォンバット。愛らしい毛むくじゃらのパブロが走ったりジャンプしたり滑空したり地面を掘ったりと活躍するゲームです。ご存知ない!?」
颯太「あ、いや。知ってたわ。流星ラパンがなんか言ってた気がする」
瑛士「ラパン! 何も興味ないわけじゃないんですね」
颯太「いやなんか、なんとなく流してるだけだけどな」
瑛士「あーっ!」
またゲームーオーバーになってがっくり来る瑛士。

颯太「パブロってそんな難しいの?」
瑛士「本編はほどよい難易度でがんばれば誰でもクリアできる絶妙な難易度設定なんですけど」

瑛士「クリエーションモードでユーザーが投稿したステージの中にめっちゃ難しくて話題になってるのがあるんですよ」
瑛士はそこで急に思いつく。
瑛士「颯太くんやってみてください」

颯太「え、俺? やったことないし」
瑛士「いやー、だからこそ。なんでもできる颯太くんですがさすがにこれは僕のほうが上でしょう」
颯太「ふーん、まあせっかくだから」
颯太は瑛士からゲーム機を受け取る。ゲーム機にはTreckと書かれている。
颯太「やってみるか!」

パブロは横スクロールのアクションゲーム。左から右へ進んでいく。
画面上にはChaotic Pandemoniumとステージ名が書かれている。
パブロはウォンバットがベースのデザインで探検家っぽい服を着ている。
もっさりした外見に反してきびきびと動きダッシュもジャンプも豪快である。

颯太「これで左右に動いて……これでジャンプね。なるほど」
颯太の操作するパブロが右へと動いていく。床に穴が空いているのでジャンプして着地……というところで急に下から敵が現れてパブロがやられてしまう。
颯太「なんだこれ!」
瑛士はにやにやする。
瑛士「いやー、ひどいですよね。絶妙に難易度が調節されたパブロにおいてわざわざ初見殺しのトラップを置きまくり、あらゆる基本に反したステージが投稿されているっていうのでめちゃめちゃ話題なんですよ!」
颯太「なんだと!瑛士、お前なんでこんなのやってるんだよ!」
瑛士「めったにゲーム買えないのでしゃぶりつくさないといけませんから!」

気を取り直して再び始める颯太。
颯太「よし、ここで立ち止まって……大きくジャンプ。よし! あーっ!」
瑛士「そこは上から敵が降ってくるので着地したらすぐダッシュです」
颯太「もう一回……次こそは……あっ……」
瑛士「慎重すぎると後ろから床が崩れてくるんです」

何度も何度もチャレンジする颯太。
瑛士「そこは2番目の敵だけ踏めます!」
颯太「あー!」
瑛士「そこで着地と同時にスピンし、飛び上がったらすぐキャンセル着地してダッシュ!」
颯太「あー!」

まだ続ける颯太。
瑛士「そこはいい感じの強さでジャンプしないと!」
颯太「うがー!」
瑛士「蹴った敵が壁に当たって跳ね返ってくるんでその上に乗って網一回ジャンプです!」
颯太「うひー!」

しばらく時間が経過。
もはや無言になっている颯太。
瑛士「そこでスピンからの滑空……!」
無言でプレイを続ける颯太。
瑛士「斜面を滑って3番目のトゲの向こうにギリギリ着地して……」
瑛士「ここから先は……」
真剣な眼差しでそれを見つめる瑛士。
瑛士「僕も動画でしか見たことがありません……!」
瑛士、もはや声もあげずに拳を握りしめている。

もはや画面中敵だらけ、罠だらけのステージ。
横でプレイを見ながら息を飲んだりほっとためいきをついたりする瑛士。
颯太の操作するパブロが大量の敵と火山弾が降ってくるところを駆け抜け、大ジャンプする。そしてゴールの旗にギリギリ着地する。

颯太、大きく息を吐き出し、一度テーブルに突っ伏す。
そして顔を上げる颯太。
颯太「なんとかやりきったー!」
瑛士はガッツポーズ!
瑛士「すごい、颯太くんすごいよ!」

颯太「でもさ、瑛士」
颯太は瑛士にゲーム機を返しながら言う。
颯太「せっかくのゲームなのに、楽しくない!」
瑛士「あんなに集中してやってたのに……!?」
若干引きぎみの瑛士。

【3】颯太の家・帰宅

住宅地の中にある颯太の家。2階建てで車が置いてある。
表札には「月森」とある。
1Fが玄関とLDKと洗面風呂、2Fが颯太の部屋と夫婦の寝室。
颯太には姉がいるが大学生になり家を出ていっているため二段ベッドのある部屋を一人で使っていてやや広い。

颯太「ただいまー、ごめん遅くなっちゃった」
颯太の母「おかえりー」
キッチンで夕食の用意をする母。はつらつとしたタイプ。
颯太「なんか手伝う?」
颯太の母「もうすぐできるから先にお風呂入っといで」
颯太「はーい」

颯太の父「あ、おかえり」
風呂から出てきた父は柔和でやや線が細いタイプ。
颯太「ただいまー」
そのまま颯太は2階に上がって荷物を置く。
荷物の中からはみ出しているゲーム機。

【4】颯太の家・夕食

颯太「ごちそうさま!」
父と母は食事中。母は缶ビールを飲んでいる。
颯太の父「あれ、なんか今日は早い」

颯太は食器を台所に下げて洗い始める。
颯太「今日ちょっとやることあってさ」
颯太の父「じゃあ食器置いといていいよ。後で父さんが洗うから」

颯太「サンキュ!」
2Fに上がっていく颯太。
颯太の母「へー、珍しい!」
おいしそうにビールを飲む。
颯太の父「なんか夢中になれることが見つかればいいんだけどね」

冷蔵庫に行きビールを取り出す父。
颯太の父「僕も飲んじゃおう」
母と軽く乾杯する。
颯太の母「またあっというまに飽きなきゃいいけど……」

リビングに飾ってあるいくつかのトロフィーと賞状。
読書感想文コンクール銅賞、水泳大会小学生の部自由形3位、卓球大会2位など。1位の賞状はない。

【5】颯太の部屋

自室の机に座っている颯太。広げていた教科書を閉じて伸びをする。
颯太の部屋は二段ベッド(家を出た姉のもの)、本棚、学習机など。学習机の他にパソコンデスクがある。
颯太「よーし、宿題終わった!」
時計は21時少し前。颯太は机のまわりを片付け、ゲーム機を机に置く。

【6】回想 ファーストフード店

颯太「楽しくない!」
瑛士「あんなに集中してやってたのに……!?」
ちょっと不満げな颯太。

颯太「うーん、なんかこうクリアしたいとは思うんだけどさ、なんか敷かれたレールの上を走ってる感じだろ?」
瑛士「うーん、まあ究極の死にステージとか言われてますし」
颯太「瑛士が横で一喜一憂してくれるからいけたけど、一人だったら序盤でやめてたぞ!」
瑛士「ネットではめちゃはやってますけどね……」
小声で返す瑛士。

颯太「横で見てハラハラするほうが楽しいのかも? そういうのって配信すると伸びるだろ?」
瑛士「なるほど……なるほどね。颯太くんのお説ごもっとも」
瑛士「でもね、けっこうステージ作るの難しいんですよ!」
瑛士「ぼくも作ったけどほとんど『いいね』つかなかったし……」

そこでちょっと意地悪な表情になる瑛士。
瑛士「だったら颯太くんも作ってみてくださいよ」
颯太「えっ……?」
瑛士「そうすればこのステージがどれだけよくできてるかわかりますから!」

考え込む颯太。
颯太「よーし、じゃあやってやるよ!」
すっと手を出す颯太。
瑛士「だから明日までTreck貸して!」
笑顔の颯太。

【7】颯太の部屋

颯太「とは言え、俺このゲームのこと何も知らないしな」
颯太はタブレットを取り出すと動画投稿サイトMTubeを開く。
「パブロ 流星ラパン」で検索すると動画が出てくる。
颯太「そうそう。この回だ」

流星ラパンはCGのアバターを使ってMTubeで動画配信を行う配信者、通称VTuberの一人。アニメ調の女の子でうさぎモチーフのカチューシャをつけている。衣装は名前の通り流星をあしらったもの。
ラパン「やっほー! 流星ラパンのおしゃべりの時間がやってまいりましたー! みんな元気〜?」
ラパン「ラパンはねー、そんなにゲーマーじゃないけどパブロのシリーズは大好きなんだ!」
ラパン「と、いうわけで今日は発売されたばっかりのパブロ・ザ・ウォンバット フォースリミックスを遊んでみます!」

颯太、ラパンのプレイを見ながらぶつぶつ言う。
ラパン「久々のパブロだけど爽快に走って気持ちいいー!」
ラパン「ここでジャンプっと!」
颯太「なるほど……障害物が出てきて……それからやり方を教える」
ラパン「穴を飛び越えて……ここも!」
颯太「ジャンプってけっこう余裕あるように作ってるんだ?」
ラパン「あー、なんか怖そうなの出てきたよー! ぶつからないように……っと」
颯太「そうそう、組み合わせて難しくするんだよな」

しばらく時間が経過。
ラパン「っというわけで今日の配信はここまででーす! みんなもパブロ、遊んでみてねー!」
配信が終わった部屋がしーんとなる。

考え込む颯太。
颯太「パブロについてはわかってきたけど、今学んだのってごく基本的な当たり前のことだよな」
颯太「スタンダードに面白いステージ一通りゲームの中で揃ってるから作っても意味ない」
颯太「だからセオリーから外れた極端なものが評価されたりする」
颯太「そもそもクリエーションモードってどんなことできるんだっけ……」

再び検索する颯太
「パブロ ステージクリエーション」
するとリコメンドされてきたのは流星ラパンの動画である。
颯太「お、さすがラパン!」
ラパン「やっほー! 流星ラパンのおしゃべりの時間がやってまいりましたー! みんな元気〜?」
ラパン「パブロは全面クリアしました! ゴールドにんじんも全部とったぞ! なので今日はステージクリエーションに挑戦したいと思いまーす!」

ラパンがステージを作る様子を眺める颯太。
颯太「お、なんかけっこう簡単そう」
颯太「へー、これだけでパブロのステージ全部作れるんだ?」
颯太「けっこうシンプルな要素の組み合わせでできてるんだな〜」

関心する颯太。
拳と手のひらをパンと打ち鳴らす。
颯太「よーし、じゃあやってみるか!」
颯太「と……思ったけどどんなステージ作ればいいんだ?」
颯太「まあいいや、とりあえず……」

ブロックを置いてステージを作っていく颯太。
颯太「このくらいで……ちょっと遊んでみるか」
颯太の作ったステージを疾走するパブロ。
颯太「お、なんかちょっとおもしろいぞ!」
颯太、珍しくテンションが上っている。
颯太「いやでもこれは自分で置いたものが実際に画面に出ているからだよな……」
颯太「これだと通常のステージとそう変わらない」
颯太「そもそも俺、通常ステージもそんなに知らないしなー!」
考え込む颯太。

不意に思いついて指を鳴らす。
颯太「そうだ、あの超難易度面を自分でも作ってみればいいんだ!」
しばらく作業を続ける颯太。
颯太「ええと、こんな感じ?」
颯太「ダメだ……ただ敵が落ちてくるだけじゃ」
颯太「なるほど、安心するタイミングを作ってそこに次の仕掛けをつくるのか」
颯太「時々爽快なところもあるんだよな〜」
颯太「思ってたより考えることが多い……」

一息つく颯太。
颯太「なんかそれっぽいものはできたけど……」
颯太「これじゃあのステージのコピーだ……」
颯太「でもわかった。瑛士みたいに一通りのパターンをクリアした後だとあのステージは新鮮なんだ」
颯太「パブロのステージは安心するところと緊張するところがかわりばんこにくるようにできてる。けどあのステージはずっと緊張してる。でも緊張の中に強弱のリズムがあった」

颯太「俺はパブロほとんどやったことないから、もうずっと緊張しっぱなしで、ずっと試されている感じがして楽しいというところまでいかなかった。たぶんたくさんプレイしてると緊張感の強弱が感じ取れるんだ!」
颯太「ごめん瑛士、やっぱあれ良く出来てたわ!」

時計を見る颯太。23時を過ぎている。
颯太「そろそろ寝るか〜」
と伸びをする。
そこでもう一度ゲーム機を見る。
自分が高難易度ステージを遊んでいた時に横で瑛士が一喜一憂し、最後に手に汗握っていたことを思い出す。

思い立って急に机に戻る颯太。

無言で一心不乱にゲーム機でステージ作成をする瑛士。
時計12時、1時、2時と流れていく。まだ作業をしている瑛士。

【8】通学路

ふらふら歩いている颯太。
瑛士「颯太くん!」
颯太「おふぁよ〜」
あくびをしながら返す瑛士。

にやにやしながら瑛士が言う。
瑛士「もしかして颯太くん、パブロにはまっちゃいました?」
颯太「うーん。そうかも。作る方だけど」
瑛士「えっ、ほんとに作ったんですか? Chaotic Pandemoniumを超えるステージはできました?」
颯太「そのことだけどさ……やっぱりあれよくできてたわ。面白さがよくわかった」
拍子抜けする瑛士。
瑛士「あ、そうですか。伝わったなら何より……」
颯太「あと俺、寝不足だから今日は学校終わったら速攻帰るわ……」

そんな二人を女子生徒が颯爽と追い抜いていく。
瑛士「あ、鷹野さんおはよう」
鷹野つむぎ「おはよう若狭くん。あと月森くん」
颯太「あ……おはよう」
つむぎ「大丈夫? なんかやる気なくなるから授業中居眠りとかやめてよね?」
颯太「あ……ふぁい……」
テンション低く応じる颯太。
去っていくつむぎを見ながらつぶやく瑛士。
瑛士「鷹野さんってなんか颯太くんに当たり強いですよね……?」
颯太「優等生はやる気ないやつ嫌いじゃんじゃない? ふぁー」
あくびをしながら答える颯太。

【9】颯太の家・夜

眠そうに食器を洗う颯太。
※食洗機なので水をさっと通すだけです
食卓でテレビを見ている父と母。
颯太「俺もう寝るわー」
母「昨日は何してたの?」
颯太「ちょっと……ゲームとか」
言いながら2Fに上がっていく颯太。
母「ゲーム……ゲームか〜」
父「いやー、いいんじゃない。今はゲームのプロだっているわけだし」

【9】颯太の部屋・夜

電気を消し、ベッドにひっくり返って寝ている颯太。

時間は23時。颯太の枕の近くに置いてあるスマホが鳴る。
相手は瑛士である。

何度か鳴ったあとようやく目を覚ました颯太、スマホを取る。
颯太「もひもひ……」
瑛士「颯太くん! 見てます?」
颯太「何を……?」
瑛士「配信! 流星ラパンの!」
颯太「いや見てないし、寝てたし……」
瑛士「いいから見て、今すぐ!」

のっそりと起き上がる颯太。
暗いまま机まで行ってタブレットを取り出す。
MTubeのAppを立ち上げると流星ラパンが配信をしている。

流星ラパン「いやー、もうこのAC Specialめちゃめちゃおもしろいよねー!」
ラパンの操作するパブロがめちゃめちゃに敵が出る中、当たりそうになったり落ちそうになったりしながらギリギリ生き残っている。
流星ラパン「あー! 死ぬ! いや死なない! あ、生き残ってる! あー! 私これ天才かもー!?」
瑛士が電話の向こうから叫ぶ。
瑛士「これ、颯太くんの作ったステージですよ!!!」
びっくりして目が覚める颯太。大はしゃぎする流星ラパン。

第一話 完

物語の最後まで(補足)

月森颯太は一通りのことはできるが器用貧乏を自認する中学生。
帰宅部仲間の若狭瑛士とファーストフード店で雑談している中、颯太は一心不乱に瑛士がプレイするゲームに注目する。
ゲームはパブロ・ザ・ウォンバット。世界的に人気を誇る作品で瑛士が遊んでいたのはユーザーが作ったステージを投稿するクリエーションモードだった。瑛士に勧められて超難易度のステージに挑戦する颯太。最初はぎこちなかったものの瑛士のアドバイスでなんとかクリア。だが面白かったかと尋ねる瑛士に颯太は「すごいけど楽しくない!」と答える。

自分のおすすめステージを否定された瑛士はムッとしてそれなら作ってみると颯太にゲーム機を押し付ける。家に返った瑛士は人気VTuber流星ラパンの配信でパブロのことを調べながらクリエーションモードでステージを作っていく。そうするうちにステージを作ることの難しさ、超難易度ステージの出来の良さを理解していく。

次の日、徹夜でステージを制作したために眠い颯太は瑛士にゲーム機を返し、早々に帰って寝てしまう。
だが夜中に瑛士からの電話を受け、言われるままに流星ラパンの配信を見るとそこでラパンが遊んでいたのは颯太が作ったステージだった。

瑛士は颯太の作ったステージに感動しオンラインに投稿していたのだ。その日の夜までに話題になったステージは流星ラパンにまで届き、ラパンは颯太の作成意図を見抜いき、褒め称える。
人を楽しませることの喜びを知った颯太。

瑛士のおしゃべりによりラパンの配信で颯太のステージが取り上げられたことがクラスで知られ、少し注目された颯太。以外な事にそこで話しかけてきたのはクラス委員で優等生の鷹野つむぎだった。つむぎは颯太に公式のステージコンテストに応募してみてはと進めるが、何をやってもそこそこ良い結果を残すがトップになれない経験を積み重ねてきた颯太はそんなことをしても先がないと一蹴してしまう。がっかりしたつむぎは去っていく。

一方、颯太は自分が何をすればいいのか答えが見つからず悩んでいた。
そんな中、たまたま流星ラパンの配信をリアルタイムに見た颯太はそこでラパンがゲーム開発について熱く語る様を眼にする。
「ゲーム開発の技術は世界の様々な場所で使われている。ゲームの技術には未来がある!」

数日後、ゲーム開発をやってみたいと両親にプレゼンする颯太。反対を覚悟していた彼だったが両親は颯太にやりたいことが見つかったと大喜びする。
拍子抜けする颯太。流星ラパンは中高生がゲーム開発を始めるために親を説得するための資料まで紹介してくれていた。

颯太がポジティブになった様子をながめ、つむぎは密かに喜んでいた。
保育園、小学校低学年を颯太と同じクラスで過ごしたつむぎにとって、颯太はヒーロだった。何にでもチャレンジし、1位になれなくてもすぐに新しいことを始めていた。つむぎはそんな颯太を見習ってプログラミングを始め、天才少女として注目を浴びるようになったのだ。自身をつけた彼女はポジティブになり、プログラミングのためにした勉強で成績は上がり、クラス委員長を務めるまでになった。

つむぎは家に帰って真面目に勉強をし、それを終えるとPCのスイッチをつける。そして機材をセットし、配信を始めた。
「こんばんは。流星ラパンです!」
鷹野つむぎこそが流星ラパンの正体だったのである。つむぎはラパンとしてゲーム開発について熱く語り、颯太を焚き付けたのだ。つむぎの次の目標は高校生以下のゲームコンテストで優勝することだった。

PCを購入し、ゲーム開発のためのソフトウェアを揃え、いざ開発を始めようとする颯太だったが何をすればいいのか考えつかない。学校で瑛士に相談する颯太。たまたまそれを聞いていたつむぎはプログラミングの世界にはハッカソンという短期間の開発イベントがあり、それのゲーム版を探して見るとよいのではとアドバイスする。

奇しくも流星ラパンの配信でゲーム開発のイベント、ゲームジャムの存在を知りそのオンライン版に挑戦する颯太。だがなれないプログラミングに四苦八苦する。なんとかビジュアルプログラミングやすでにあるサンプルを駆使し、プレゼンテーションソフトの図形を組み合わせてグラフィックを作り、最低限の体裁を整えてなんとか提出する颯太。ゲームをプレイしてくれたユーザーは少なかったが、よくできていないのになぜか面白い、長い時間プレイしてしまうというような評価をもらって大喜びする。

一方、つむぎも同じゲームジャムに作品を提出していた。つむぎは算数を学習する子供向けのゲームを作っていたが、評価の多くは良く出来ている、技術があるなどで面白いという一言がない点にがっかりしていた。

夏休みに入り中高生向けのゲーム開発イベントに参加する颯太。瑛士も厳しい親を説得し、ゲーム開発を始めていた。颯太と瑛士は同じ中学生のゲーム開発者と出会い、意気投合していく。グラフィックが得意、曲作りが趣味、アニメーションを制作しているなどそれぞれの得意分野で勝負する個性的な面々を見て自分の得意分野がないことにあらためて悩む颯太。

だが、高校生以下のプログラミングコンテスト優勝者として講演にきたつむぎは颯太の制作物を見て苦手がないことをうらやましい、それに加えてあれだけのステージを作れるなら面白いゲームが作れるはず、と正直な感想を言う。自分の作ったパブロのステージをつむぎが遊んでいたことに驚く颯太。そこを軽くごまかすつむぎ。

夏休みの終わりのコンテスト応募作品提出に向け、自分のゲームを模索する颯太。つむぎからステージ作りの能力を褒められたことを思い出し、ステージを作ったやり方と同じようにベースとなるスタンダードな作品をプロトタイピングし、そこにオリジナルの要素を加えることで勝負しようと考える。

とは言え、スタンダードな作品自体作ったことのない颯太は四苦八苦するが、イベントで知り合った同年代のクリエイター、そしてちょくちょくゲーム開発技術について配信するラパンの助けを借り、少しずつ作品を作り上げていく。

ゲーム開発をする一方、学校の勉強もしなければならないと考えた颯太は毎日午前中は自室ではなく図書館で勉強をするようにした。だが、そこで顔を合わせるようになったのはつむぎだった。毎日少しずつ話すようになるつむぎと颯太。颯太はつむぎに興味を持ち、少しずつつむぎのことを知っていく。また、プログラミングについて様々なことを教えてもらう。つむぎが本当にプログラミングが好きなんだと実感した颯太はそれをつむぎに告げる。

鷹野つむぎは技術はあるものの面白いと言えるゲームが作れていないことに悩んでいた。だが颯太にプログラミングが好きなんだなと言われ、プログラミングの面白さそのものをゲームにすればいいのではないかと思いつく。

そしてつむぎと颯太はそれぞれ四苦八苦しながら夏休みの最終日に作品提出を終える。

新学期が始まりコンテストの審査までにはまだ間があるため、のんびりとした日々が続く。そんな中、颯太のクラスの担任が産休から戻ってくると知らせを受ける。つむぎは委員長として担任の先生の復帰をお祝いするアイディアを募る。そこに手を挙げたのは颯太だった。颯太は学校で使うタブレットを使ってクラスみんなで画面をタップすることにより花火が上がり、最後にそれが復帰を祝う花束になるというゲームを提案する。そのアイディアにクラスは盛り上がる。
しかしつむぎは颯太にネットワークの知識がないのを知っていた。また流星ラパンの配信で教えればいいかと一瞬思ったつむぎだが、その場で颯太にネットワークプログラミングができるのか尋ねる。当然できないという颯太。つむぎはそこで、ネットワーク部分は自分が担当する、颯太はゲーム部分を作ってと提案する。驚く颯太。二人は初めて一緒にゲーム制作をする。

担任の先生が復帰する日、つむぎはホームルームで颯太といっしょにゲームを披露し、クラス全員が一心不乱にタブレットを叩いて花火を打ち上げ、最後に大きな花束を作る様に感動する。担任の先生もつむぎと颯太を褒める。特に颯太は先生が休んでいる間に大きく変わっていた。

秋になり、コンテストの予選結果が発表される。颯太のゲームは予選を通過していた。だが颯太が驚いたのはつむぎの名前もそこにあったことだった。
つむぎに問いただす颯太。つむぎはプログラミングができるなら当然ゲームだって作れるとすまして返す。ライバルにいろいろ教えたのはなぜだと問う颯太だったが、ライバルってみんな仲間でしょと当然のように答える。
颯太はつむぎが自分よりも早く大きな世界に出て自分よりずっと大人なんだと実感する。

しばらくして本戦出場が決定する颯太とつむぎ。ビデオの提出が必要となる。流星ラパンがビデオの編集教えてくれないかなと颯太は言うが、それを聞いたつむぎは少し不満そうにラパンじゃないとダメか? 教えようかと返すのだった。つむぎからビデオ編集を教わる颯太はつむぎがビデオ編集に詳しすぎるのではないかとやや疑問を持つ。

次はプレゼンの練習となる。あまりにつむぎに頼りすぎて教えてもらうのに気後れする颯太は大学生の姉を頼る。姉は颯太よりもだいぶ年上で様々な学会で発表を行っていた。プレゼンの練習を一通り行って自身をつける颯太。
颯太の姉は会話の中で颯太のライバルが鷹野つむぎであるということを知る。つむぎは情報科学の世界では有名な存在となっているので姉もつむぎを知っている。そこで颯太はつむぎがプログラミングコンテストで優勝したときの制作物がデジタルアバターを使った配信システムであるということを知る。

いよいよコンテストの当日。緊張する颯太。会場でつむぎと一緒だと思っていたが、席の配置のせいかつむぎは視界の中にいなかった。
実はつむぎには別な緊張があった。流星ラパンは中高生に人気のVTuberである。U-18ゲーム開発コンテストのイベントには流星ラパンがゲストとして招かれているのだ。つむぎはコンテストの運営側と交渉をし、最初と最後には喋り、画面には出ているが途中はずっと黙っているという約束を取り付けていた。

ラパンのトークで会場がわいた後、抽選結果が出る。最初に登壇するのは颯太だった。これまでのことを振り返り、プレゼンの練習も思い出す颯太。だが、壇上に立った瞬間、すべてが飛んで何もしゃべれなくなってしまう。
その時、助け舟を出したのは流星ラパンだった。ラパンの一言ではきはきと喋りだす颯太。颯太はどんなプレイヤーでもドキドキしながら最後まで遊べ、上級者はより魅せるプレイができるハイスピードアクションゲームのプレゼンをする。会場は盛り上がり、拍手に包まれる。

プレゼンターに話しかけないという自分からの提案を破ってしまったつむぎは自ら会場の進行役に全員に対しはげましやコメントをする事を申し出る。友人の颯太にだけコメントしたのでは公平性が保てない。
席に戻ってほっとした颯太だったが、会場につむぎがいないことを気にしていた。これまでの様々な状況からつむぎは流星ラパンなのではないかという疑念を深める。

プレゼンが進み、とりを飾るのはつむぎだった。ラパンはこれまですべての登壇者にコメントをしている。コメントがなければつむぎがラパンだとドキドキする颯太。だが、始まってすぐにラパンはつむぎに声をかける。驚くと同時にほっとする颯太。
つむぎはプログラミングの仕組みを使ってリアルタイムにキャラクターをプログラミングし解いていくアクションパズルのプレゼンをする。会場は関心の声に包まれる。最後にラパンからも質問があり、つむぎが答える。
颯太はつむぎはラパンではなかったのかと驚くが同時に少しほっとする。
実はつむぎはあらかじめラパンの声を録音してあった。ラパンのシステムはカメラの前に人がいなくても声だけでそれなりのモーションを出すことができる。つむぎはPCでプレゼンを操作しながらクリッカーでラパンのセリフを送っていたのだ。

全員のプレゼンが終了し、休憩時間。いつの間にか席に座っているつむぎに颯太は話しかける。これまでの礼を言う颯太。がっちり握手しようとする颯太につむぎはまだ早いと諌める。

結果の発表。10人の登壇者の中で颯太はトップ5に選ばれていた。つむぎは準優勝である。優勝したのは圧倒的なグラフィックのゲームを作った高校生だった。

表彰式で壇上に上がる颯太。颯太はコメントを求められ、イマイチやりたいことがなかったがゲーム開発に出会って未来が広がったと話す。颯太はゴールばかりみて過程を楽しむことを忘れていた。ゲームは過程が楽しませるもの、ゲーム開発を通じ颯太は過程を楽しむこと、過程こそが自分を成長させること、そして人に過程を楽しんでもらうことをおぼえていた。
つむぎはそれを聞いて涙する。嬉しいのか悲しいのか尋ねる颯太につむぎは「バカ!」とつれなく返す。
次は一緒に作るのもありかと尋ねる颯太。つむぎは満面の笑みで颯太と握手をするのだった。

月森颯太は鷹野つむぎが流星ラパンだということをまだ知らない。


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