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読書録#3『昭和史 1926-1945』半藤一利

概要

日本は、1905年の日露戦争勝利による満州権益の獲得をピークに、1945年の第二次世界大戦の敗戦にかけて落ち目の一途をたどった。本書では、その40年間のうち後半部分の歴史を概観し、その節目となった様々な事件の経緯を追いかけることで、政治家や軍部、マスコミ、そして誰あろう国民たち自身がいかに不合理なの意思決定や行動をとってきたかをあぶり出す。そして現代の日本人にも通ずる弱さを見つめ直し、歴史から教訓を得ることの大切さを説く。

所感

筆者は、この暗黒の40年と引き換えに得るべき5つの教訓をあげている。①国民的熱狂を作ってはいけない②意思決定は抽象的な観念論ではなく、具体的で理性的な方法論に基づかなければいけない③小集団主義に陥ってはいけない④国際的常識を理解しなければいけない⑤大局観を失ってはいけない。ここに全てが集約されていると思う

個人的に換言・追加するなら、昭和史には換骨奪胎が随所に見られる。天皇は、敗戦までを通じて、形式的には国務と軍務の双方のトップであったのにもかかわらず、実質的な意思決定を行っていなかった。それには、二・二六事件などが、沈黙の天皇を作り上げてしまったから。

そのほか、一度起こってしまったら後に引けない。若槻禮次郎首相は満州事変の際、当初は朝鮮部隊による加勢を許さない姿勢だったが、部隊トップが独断で進行を開始してしまったあとには「なら、しょうがない」とあっさり認めてしまった。別の意味では、サンクコストに囚われすぎる。アメリカと戦えば必ず敗ける(米内海軍大臣の言葉を借りれば「ジリ貧をさけてドカ貧になる」)とわかっているのに、国民の流血と苦心の末に勝ち取った満州を手放すのは「忍びない」という思いが開戦を後押しした。

本書では、ピッタリする言葉があると国民が一致団結するということも指摘されており(八紘一宇、大日本帝国、皇軍・皇国)。これはもろに現代にもあてはまりそうだ。逆に言えば、うまい言葉を作り出すことができればチームをまとめやすいということの現れでもあり、その危険さを十分に認識しながら上手に使えるようになりたいとも思った。

講義録の形式をとっていて、語りかけるような文章で読みやすい。中学生とかが読むのにピッタリだとおもう。

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