1-3 医療関係者等への支払いの公開
本記事は、医療用医薬品利益供与・贈収賄規制ハンドブック「第一章 医療関係者等への利益供与・贈収賄規制の基本的構造」のうち、3️⃣医療関係者等への支払いの公開の内容をまとめたものです。
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(1)法律による公開(公表)
1)臨床研究法とは何か?
いわゆるディオバン事案の発生を受けて,わが国の臨床研究に対する信頼を回復するため「臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会」において,製薬企業から医療関係者等への臨床研究にかかる資金提供に関し,透明性の確保のための法規制が必要との結論に至った。これを受けて,2018(平成30)年4月1日から臨床研究法(平成29年4月14日法律第16号)が施行されている。
臨床研究法は,「臨床研究の対象者をはじめとする国民の臨床研究に対する信頼の確保を図ることを通じてその実施を推進し,もって保健衛生の向上に寄与すること」を目的とし(臨床研究法第1条),製薬企業に対して,特定臨床研究に関し,臨床研究に対する資金提供の際の契約締結(臨床研究法第32条)及び資金提供の公表(臨床研究法第33条)を義務づけている。
2)公開(公表)の対象と方法
製薬企業は,研究資金等や寄附金,原稿執筆・講演料等について公表しなければならない。公表対象となる提供の相手先は,臨床研究を実施している責任者に加えて,その責任者が所属する機関や,研究資金の管理やマネジメントを行う団体も含まれる。
2019(令和元)年10月1日以降に始まる事業年度から適用され,公表は,各事業年度の終了後1年以内に行わなければならない。なお,公表期間は5年間とされている。
(2)自主基準による公開
1)透明性ガイドラインとは何か?
世界医師会(WMA)は「医師と企業の関係に関するWMA声明」において,「医師と企業の連携は新薬や治療の開発など,医学の大いなる進歩につながる可能性があるものの,企業と医師の間には利益相反が生じ,それは患者のケアと医師の評判に影響する恐れがある」とし,そのうえで「医師と企業の関係を禁止するよりも,その関係についてのガイドラインを確立することが望ましい。このガイドラインには,情報公開,明らかな利益相反の回避,患者の最善の利益のために行動する,という医師の臨床上の自律性についての主要原則を定めなければならない」として,医師と企業の適切な連携のための指針を示した。
また,薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会の「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)」(2010(平成22)年4月28日)では,利益相反状態の適切な管理と,海外において試みられている透明性を高めるための対応を求めている。
これらの背景を受け,製薬協では2011(平成23)年に「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」(透明性ガイドライン)を策定した。最新の透明性ガイドラインは,臨床研究法の施行を受け,2018(平成30)年9月に改定されている。
透明性ガイドラインは,会員会社の活動において医療機関等との関係の透明性を確保することにより,製薬産業が医学・薬学をはじめとするライフサイエンスの発展に寄与していること及び企業活動は高い倫理性を担保したうえで行われていることについて,広く理解を得ることを目的とし,各製薬企業は同ガイドラインを参考に自社の「透明性に関する指針」を策定することが望ましいとされている。
2)公開の対象と方法
公開対象先は,次のとおりである。
また,公開対象は次の①~⑤となっている。
① 研究費開発費等
医療用医薬品の研究・開発,製造販売後の育薬にかかる費用等を各項目の年間総額と共に,次の要領で詳細公開する。
② 学術研究助成費
学術研究の振興や助成等を目的として提供される資金等を各項目の年間総額と共に,次の要領で公開する。
③ 原稿執筆料等
自社医薬品をはじめ医学・薬学に関する科学的な情報等を提供するため,もしくは研究開発に関わる講演,原稿執筆や監修,その他のコンサルティング等の業務委託の対価として支払われる費用等を,次の要領で公開する。
④ 情報提供関連費
自社医薬品をはじめ医学・薬学に関する科学的な情報等を提供するために必要な費用等を,次の要領で公開する。
⑤ その他の費用
社会的儀礼としての接遇等の費用を,次の要領で公開する。
(3)違反に対する制裁
臨床研究法において,厚生労働大臣は,情報公開義務に違反した製薬企業に対して,情報の公開を勧告することができ,さらに,勧告に従わない場合には,その旨を公表することができる。
また,厚生労働大臣は,必要な限度において,特定臨床研究を実施する者等に対して,必要な報告・帳簿等の物件の提出を求めることや,厚生労働大臣の指定する者に事業場に立ち入らせ,その帳簿等の物件を検査させること及び関係者に質問させることができる(臨床研究法第35条)。なお,製薬企業が報告徴収を拒否し,または虚偽報告を行った場合は,30万円以下の罰金が科される(臨床研究法第42条)。
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