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本記事は、医療用医薬品利益供与・贈収賄規制ハンドブック「第一章 医療関係者等への利益供与・贈収賄規制の基本的構造」のうち、2️⃣贈収賄規制の内容をまとめたものです。

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(1)法律による規制

1)刑法

 公務員に対し,その職務に関し,賄賂を供与し又はその申込み若しくは約束をした場合,贈賄罪が適用される(刑法第198条)。

 刑法上の「公務員」とは,「国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員,委員その他の職員」と規定されている(刑法第7条第1項)。また,刑法以外の法律についても,贈収賄罪の適用との関係において,一定の者を公務員とみなすとの規定がある(いわゆる「みなし公務員」)。例えば,独立行政法人国立病院機構の職員(独立行政法人国立病院機構法第14条),国立大学法人の職員(国立大学法人法第19条)は,いずれも「みなし公務員」とされている。

 また,「職務」とは,公務員の取り扱うべき一切の執務及びそれと密接に関連する執務を指し,それが当該公務員の一般的職務権限の範囲内の行為であるならば,内部における事務配分の詳細は問題とならない。

 「賄賂」とは,公務員の職務行為への対価としての不正な利益のことを指す。当該利益には,金銭的利益だけではなく,接待やきょう応等の人の欲望または需要を満足させるに足りる一切のもの(非金銭的利益)が含まれる。

2)不正競争防止法

 「外国公務員に対し,その外国公務員の職務に関し,国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために,金銭その他の利益を供与し,又はその申込み若しくは約束をした場合,外国公務員贈賄罪が適用される」とされている(不正競争防止法第18条)。

 不正競争防止法上の「外国公務員」とは,外国の政府または地方公共団体の公務に従事する者やそのエージェント等が含まれる。
 また,「職務」とは,基本的に刑法における定義と同一であり,外国公務員の取り扱うべき一切の執務及びそれと密接に関連する執務を指す。

 「金銭その他の利益」とは,刑法における「賄賂」の定義とほぼ一致し,金銭や財物等の財産上の利益にとどまらず,あらゆる人の需要・欲求を満足させるに足りるものを意味する。 なお,外国公務員贈賄については,経済産業省より「外国公務員贈賄防止指針」(2017(平成29)年9月改訂)が発出されている。

(2)倫理基準による規制

1)公務員倫理規程とは何か?

 国家公務員倫理法及び国家公務員倫理規程(いわゆる公務員倫理規程)は,国家公務員の職務に対する国民の信頼を確保することを目的として2000(平成12)年に制定された。これらは一般職の国家公務員が利害関係者から受けてはならない贈与などについて定めている。 

 一般職の国家公務員である医療関係者であれば,公務員倫理規程の適用を受ける(地方公務員は地方公務員法をはじめ,個別の倫理規程や倫理条例の適用を受ける)。また,国家公務員倫理法第42条において,独立行政法人等は「倫理の保持のために必要な施策を講ずるようにしなければならない」と定められているほか,地方公共団体や地方独立行政法人も同法に準じた施策を講じる努力義務がある(国家公務員倫理法第43条)。そのため,国家公務員に直接該当しない施設であっても,公務員倫理規程に準じた倫理ルールが定められているため,所属施設の倫理規程を確認する必要がある。なお,国立病院機構や地域医療機能推進機構(JCHO)では,別途「独立行政法人国立病院機構職員の倫理に関する規程」*5や,「独立行政法人地域医療機能推進機構役職員倫理規程」が規定されている。

2)利害関係者

 利害関係者とは,国家公務員(職員)が接触する相手方のうち,特に慎重な対応が求められるものであって,当該職員が現に携わっている事務の相手方をいう(国家公務員倫理規程第2条第1項)。なお,過去3年間の官職の利害関係者や,当該職員にその影響力を行使させることにより,自己の利益を図るために接触していることが明らかな他の職員の利害関係者も,当該職員の利害関係者とみなされる(国家公務員倫理規程第2条第2項)。

 製薬企業の社員は,一般的には国立病院等の職員にとっての事務の相手方には当たらないが,自社製品の販促活動は,医療機関と契約関係のある医薬品卸売企業の利益につながる代理行為になることから,利害関係者に該当するとされている。

 また,直接の契約担当者でなくても,医薬品の購入や選定に影響を与えるとみられる立場の医師,薬剤師,看護師,臨床検査技師,契約担当の事務員等は事務の相手方に該当する。

3)禁止行為とその例外

国家公務員の場合,次の行為が禁止されている(国家公務員倫理規程第3条)。

❶ 利害関係者から金銭,物品又は不動産の贈与(せん別,祝儀,香典又は供花その他これらに類するものとしてされるものを含む)を受けること。
❷ 利害関係者から金銭の貸付け(業として行われる金銭の貸付けにあっては,無利子のもの又は利子の利率が著しく低いものに限る)を受けること。
❸ 利害関係者から又は利害関係者の負担により,無償で物品又は不動産の貸付けを受けること。
❹ 利害関係者から又は利害関係者の負担により,無償で役務の提供を受けること。
❺ 利害関係者から未公開株式を譲り受けること。
❻ 利害関係者から供応接待を受けること。
❼ 利害関係者と共に遊技又はゴルフをすること。
❽ 利害関係者と共に旅行(公務のための旅行を除く)をすること。
❾ 利害関係者をして,第三者に対し❶~❽の行為をさせること。

引用:e-GOV法令検索 国家公務員倫理規定
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412CO0000000101

なお,私的な関係がある者であって,かつ利害関係者に該当するものとの間においては,職務上の利害関係の状況,私的な関係の経緯及び現在の状況並びにその行おうとする行為の態様等に鑑み,公正な職務の執行に対する国民の疑惑や不信を招くおそれがないと認められる場合には,❶~❽の禁止行為を行うことができる(国家公務員倫理規程第4条第1項)。

❶ 利害関係者から宣伝用物品又は記念品であって広く一般に配布するためのものの贈与を受けること。
❷ 多数の者が出席する立食パーティー(飲食物が提供される会合であって立食形式で行われるものをいう。以下同じ)において,利害関係者から記念品の贈与を受けること。
❸ 職務として利害関係者を訪問した際に,当該利害関係者から提供される物品を使用すること。
❹ 職務として利害関係者を訪問した際に,当該利害関係者から提供される自動車(当該利害関係者がその業務等において日常的に利用しているものに限る)を利用すること(当該利害関係者の事務所等の周囲の交通事情その他の事情から当該自動車の利用が相当と認められる場合に限る)。
❺ 職務として出席した会議その他の会合において,利害関係者から茶菓の提供を受けること。
❻ 多数の者が出席する立食パーティーにおいて,利害関係者から飲食物の提供を受けること。
❼ 職務として出席した会議において,利害関係者から簡素な飲食物の提供を受けること。

引用:e-GOV法令検索 国家公務員倫理規定
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412CO0000000101

また,次の行為は禁止行為の例外として許容される(国家公務員倫理規程第3条第2項)。 

4)利害関係者と共に飲食をする場合の届出

 国家公務員は,自己の飲食に要する費用について利害関係者の負担によらないで利害関係者と共に飲食をする場合において,自己の飲食に要する費用が1万円を超えるときは,次に掲げる場合を除き,あらかじめ,倫理監督官が定める事項を倫理監督官に届け出なければならない。ただし,やむを得ない事情によりあらかじめ届け出ることができなかったときは,事後において速やかに当該事項を届け出ることとなっている(国家公務員倫理規程第8条)。

❶ 多数の者が出席する立食パーティーにおいて,利害関係者と共に飲食をするとき。
❷ 私的な関係がある利害関係者と共に飲食をする場合であって,自己の飲食に要する費用について自己又は自己と私的な関係がある者であって利害関係者に該当しないものが負担するとき。

引用:e-GOV法令検索 国家公務員倫理規定
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412CO0000000101

5)特定の書籍等の監修等に対する報酬の受領の禁止

 国の補助金等や費用で作成される書籍等,国が過半数を買い入れる書籍等について,国家公務員は監修又は編さんに対する報酬を受けてはならない(国家公務員倫理規程第6条第1項)。

6)講演等に関する規制

 国家公務員は,利害関係者からの依頼に応じて報酬を受けて,講演等をしようとする場合は,あらかじめ倫理監督官の承認を得なければならない(国家公務員倫理規程第9条第1項)。

(3)違反に対する制裁

 贈収賄罪は刑法事案であり,警察・検察による捜査・起訴が行われる。罰則としては,単純収賄罪については「5年以下の懲役」とされ(刑法第197条),贈賄罪については「3年以下の懲役又は250万円以下の罰金」とされている(刑法第198条)。

 また,不正競争防止法違反も刑事事案であり,警察・検察による捜査・起訴が行われる。罰則としては,個人に対しては「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金(又はこれの併科)」とされ,法人に対しては「3億円以下の罰金」とされている(不正競争防止法第21条第2項第7号)。

(4)実際の違反事例:枚方市民病院事件

 実際の公正競争規約違反事例として,枚方市民病院で起きた贈収賄事件の概要を示す。

事例:枚方市民病院事件
 2000(平成12)年,枚方市民病院の薬事委員会委員長であった前院長(前年に院長職を退いた後も自らの意向で残留)が,医薬品の採否に絡んで製薬企業Aの社員から現金約20万円を受け取り,現金の授受があったとされた日の翌月の薬事委員会において,A社製品の採用を指示する旨の発言をしたというものである。また,任意の事情聴取に応じた製薬企業約30社のMRの大半が前院長に対し,飲食やゴルフ旅行などの接待や金品の提供をしていたことも明るみになった。本件では,前院長が収賄罪で起訴されるとともに,前院長に利益提供をした製薬企業8社のMRら8人が贈賄罪で略式起訴された。

 本件に対して公取協は,これらの行為は公正競争規約第4条(提供が制限される例)第1項に規定する「医療担当者に対し,医療用医薬品の選択又は購入を誘引する手段として提供する金品,旅行招待,きょう応」に該当し,公正競争規約第3条(景品類提供の制限の原則)に違反するとして,当該行為を行った会員会社9社に対し,「厳重警告」1社,「警告」7社,「指導」1社の措置を採った。その他に,公正競争規約違反とは認められないものの,違反防止の助言を行うことが適当と判断された2社に対しても「注意」の措置がなされた。


■(参考資料)公取協TOP 医薬品業等告示および公正競争規約、同施行規則、同運用基準
http://www.iyakuhin-koutorikyo.org/index.php?action_download=true&kiji_type=1&file_type=2&file_id=2355

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