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本記事は、医療用医薬品利益供与・贈収賄規制ハンドブック「第二章 医療関係者等への利益供与・贈収賄規制の具体的内容」のうち、3️⃣業務委託に関する規制の内容をまとめたものです。

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(1)講演,執筆,コンサルティング等の委託

1)基本的な考え方

   製薬企業は,医療関係者等に対し,研究,臨床試験,製造販売後調査,コンサルタント及びアドバイザー,会合への参画,講演会等での座長や講演,研修講師等の業務を委託し,報酬,費用等を支払うことができる。ただし,これら業務の委託にあたっては契約を交わし,当該契約は次の基準をすべて満たさなければならない(製薬協コード・オブ・プラクティス(製薬協コード)「8.業務委託」)。

❶ 業務の目的及び業務に対する報酬,費用等の支払根拠を明記した書面による契約を交わすこと。
❷ 業務を委託する前に業務に対する正当な必要性を明確に特定すること。
❸ 業務の委託先は,特定された必要性に直接関連しており,また,その業務の提供に必要な専門知識を有していること。
❹ 業務を委託する人数は,特定された必要性を達成するのに妥当な人数であること。
❺ 特定の医薬品の処方,購入,推奨等を誘引するものでないこと。
❻ 業務に対する報酬は,委託した業務の対価として妥当であること。

当該要件はIFPMA*コード・オブ・プラクティス(IFPMAコード)の要件(「7.4 業務に対する報酬」)とほぼ同義であり,海外においても同様の基準が設けられている。 

   なお,適正な業務対価については,国際的にはFairMarketValue(FMV)という概念が用いられ,FMVの算定は製薬企業にとって重要となりつつある。この点は各種のベンチマークにより,客観的・複合的にFMVを定める企業もあれば,演者等のクラスや拘束時間等によって定める企業もあるが,いずれにしても報酬基準が事前に定められており,業務委託ごとに恣意的に決定されないことが重要である。

*IFPMA= International Federation of Pharmaceutical Manufacturers & Associations: 国際製薬団体連合会

2)自社医薬品の講演会等における講演の委託

 自社医薬品の講演会等の会合の実施に際して,報酬・旅費を支払う場合には,次の点に留意する(運用基準「Ⅲ-5 自社医薬品の講演会等に関する基準」解説)。

❶ 講演の依頼が名目的でないこと。
❷ プログラム等に役割担当者名が記載されていること。
❸ 依頼したことが取引誘引になっていないこと。
❹ 講演料の額が社会通念上妥当であること。
❺ 委受託契約書又は依頼書,応諾書を交わすこと(書面で依頼すること)。
❻ 所属医療機関等における出張に関する所要の手続きを確実に行ってもらうこと。

3)その他の講演・執筆等の委託

 医学・薬学的調査・研究に伴って,製薬企業が医療関係者等に講演や執筆を委託する場合,それに相応する講演料,原稿料を支払うことは認められている。ただし,次の事項に留意する必要がある(運用基準「Ⅲ-4 調査・研究委託に関する基準」)。

❶ 講演,執筆の依頼が名目的でないこと。
❷ 依頼したことが取引誘引手段になっていないこと。
❸ 講演料,原稿料の額が社会通念上妥当であること。
❹ 書面で依頼すること。
❺ 講演開催記録を残すこと。

   国家公務員の場合,あらかじめ倫理監督官の承認を得なければ,利害関係者の依頼により,報酬を受けて講演等を行うことはできない(国家公務員倫理規程第9条)。また,講演等の打合せ時間,配付資料作成時間や講演等関係者との懇親目的の意見交換会等について報酬を受けることはできない。

 なお,次に該当する場合,国家公務員は,書籍等の監修や編さんを行ったことに対する報酬を受領できない(国家公務員倫理規程第6条)。

❶ 国の補助金や経費で作成される書籍等の場合。
❷ 自分が属する国の機関が所管する行政執行法人が,書籍の作成に補助金等を支出している場合。
❸ 国の機関のどこかが書籍等の作成に補助金等を支出している場合。
❹ 国が過半数を買い入れる書籍等の場合。

e-GOV法令検索 国家公務員倫理規定
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412CO0000000101

4)海外への派遣を伴う委託

 製薬企業が,医療関係者等を海外で開催される自社医薬品の会合や,製品開発の調査・研究に関する会合などに派遣する場合には,次の各要件を満たさなくてはならない(運用基準「Ⅲ-4 調査・研究委託に関する基準」)。

❶ 海外に派遣する合理的な理由が明確であること。
❷ 派遣に当たっては,会合の開催目的にふさわしい場所・会場,プログラム及び適正な渡航スケジュールであること。
❸ 目的や役割から見て,派遣する人数が適正かつ妥当であること。
❹ 報酬・費用の額が社会通念上妥当であること。
❺ 派遣に当たっては,学会等への出席の便宜を図るようなものではないこと。
❻ 委託に際しては,書面による委受託契約を締結すること。
❼ 委託する内容に応じて,次の要件を具備すること。
 a. 海外で開催される会合での役割者
        座長,研究発表・講演,討議・意見交換等の役割を委託する場合は,帰国後に報告書を受領するか,あるいは議事録を作成し,保管すること。
 b. 海外で開催される会合での一般参加者
   a. 以外で,出席・聴講等を委託する場合は,帰国後に会合に関する報告書を受領し,保管すると共に,帰国後に自社が主催する講演会等での座長,研究発表・講演等や,自社の研究・開発部門及び学術部門への講演等(専門的見地からの指導・助言を含む),自社の学術資材の原稿執筆その他これらに準じた役割を担うことを委受託契約書等に明記すること。

(2)データ収集,調査及び研究等の委託

1)治験に関する研究委託

 治験に関する研究委託とは,製薬企業が医薬品の製造販売承認または承認事項の一部変更承認を申請するに際し提出すべき資料の収集を目的とし,特定の医療機関及び医師に対し委託することをいう(運用基準「Ⅲ-4 調査・研究委託に関する基準」)。

 治験は,製造販売後の医薬品の取引とは関係なく行われるものであるので,その研究費の支払いや,治験の実施に必要な範囲での物品提供は,不当な利益供与に当たらず,公正競争規約違反とはならない。ただし,研究費の支払いや,治験の実施に必要な範囲での物品提供であっても,医療用医薬品の購入に関連づけて行われる場合は,公正競争規約違反となる(運用基準「Ⅲ-4 調査・研究委託に関する基準」)。

2)製造販売後の調査・試験等

 製造販売後の調査・試験等とは,GVP省令*1,GPSP省令*2でいう「市販直後調査」,「製造販売後調査等」(使用成績調査(一般使用成績調査,特定使用成績調査,使用成績比較調査),製造販売後データベース調査,製造販売後臨床試験)及び「副作用・感染症報告」をいう(運用基準「Ⅲ-4 調査・研究委託に関する基準」)。また,製造販売後の調査・試験等の報酬及び費用の支払いは,公正競争規約違反とはならない(公正競争規約第5条第4号)。

 なお,製造販売後の調査・試験等における症例報告の報酬等においては,次の要件を満たさなければならない(公正競争規約施行規則第3条)。

*1 Good Vigilance Practice: 医薬品,医薬部外品,化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令
*2 Good Post-marketing Study Practice: 医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令

❶ 調査対象医薬品を採用・購入していない医療機関等に症例報告を依頼しない。また,調査対象医薬品の採用・購入の継続又は購入量の増加を条件として依頼しない。
❷ 調査予定症例数は,調査目的又は調査内容に照らして適正な数とする。
❸ 調査の目的を十分に果たし得る医療機関等に依頼する。
❹ 調査目的,調査内容に照らして,依頼先が特定の地域,特定の種類の医療機関等に偏らないようにする。
❺ 医療機関又は医師等の実際の診療例に比して過大な数の依頼をしない。
❻ 症例報告の依頼は文書で行う。
❼ 症例報告の報酬の額は,合理的に算定された客観的な適正な額を超えてはならない。また,同一内容の調査票で,依頼先の医療機関等により報酬額に差を付けてはならない。
❽ 報酬は,調査目的に照らして必要な全ての項目に必要な事項が完全に記載された調査票に対して支払う。
❾ ❽の調査票を受け取る前に報酬を支払ってはならない。ただし,国立又は地方公共団体立の医療機関等に委託する場合などにおいて,契約の確実な履行を条件に対価を前払いする旨を約束したときは,この限りでない。

 これらの調査や試験に対する報酬は,調査や試験の種類や難易度を考慮し,製薬企業が決めることができるが,不当な利益供与とならないため,「過大」にわたらない範囲でなければならない。報酬の範囲については,次のように定められている(運用基準「Ⅲ-4 調査・研究委託に関する基準」)。

❶ 市販直後調査
 調査票の記載作業を伴わないため,医療機関へ報酬を支払うことはできない。
❷ 一般使用成績調査,使用成績比較調査及び副作用・感染症報告
  報酬の総額は,原則として,1症例あたり1万円を超えない。調査内容が特に難しいことなどにより,長時間の作業を要するものであっても,1症例あたり3万円を超えない額を目安とする。
  また,原則として,同一の調査票で依頼先の医療機関及び医師により報酬額に差をつけてはならない。ただし,例外的に,依頼先医療機関に,委受託契約の締結及びその契約の対価の積算方法に関する合理的かつ明確な規定が定められており,その方法によらなければ委受託契約が締結できないという事情がある場合には,報酬額に差が生じてもやむを得ない。
  なお,全症例を対象に調査を実施することが求められている一般使用成績調査においては,一定の要件を満たすことにより,報酬の総額が1症例又は1調査票当たり3万円を超えることも許容されうる。
❸ 特定使用成績調査
  社会通念に照らして過大にわたらない適正な報酬額(調査票の作成費用)を個々の調査ごとに判断するものとする。
❹ 製造販売後データベース調査
  医療機関に対し直接症例報告を求めることはないため,医療機関に対し症例報告の対価として報酬を支払うことはない。
❺ 製造販売後臨床試験
  依頼する試験の内容が個別に異なるので,報酬・費用もそれに応じて個別に算定し,契約書に明記する。特に症例報告の報酬については,自社医薬品の不当な取引誘引に結び付くことのないよう,社会通念に照らして過大にわたらない適正な金額とする。

3)その他の調査・研究等の委託

 その他の調査・研究等の委託に当たっては,次の要件を満たす必要がある。

❶ 調査・研究等の成果物又はその使用権・利用権等を受領すること。
❷ 調査・研究等の内容に照らし,報酬及び費用が社会通念上過大でないこと。
❸ 書面で委受託契約を締結すること。委受託契約書には,委託する調査・研究等の内容・範囲を明確にし,報酬及び費用等の内訳・金額を詳細に記載すること。
❹ 医療関係者個人に対する調査・研究委託については,所属医療機関が研究等の受託を許容していること。

 臨床研究法に基づく特定臨床研究に対して金品などを提供する場合には,委託契約によるものかどうかを問わず,保険償還を伴う医療用医薬品や,検査等費用の提供を行ってはならない。また,症例報告の収集において,自社医薬品の不当な取引誘引となる金品等の提供や施設選定は行ってはならない(運用基準「Ⅲ-4 調査・研究委託に関する基準」)。

4)アンケート調査

 アンケート調査は,製薬企業が市場調査の一環として,医療関係者等に質問形式で行うものである。アンケート調査の謝礼として,回答者1名につき1千円を超えない範囲を目安とした物品の提供することは,公正競争規約違反とはならない。ただし,次の要件を満たす必要がある(運用基準「Ⅲ-4 調査・研究委託に関する基準」)。

❶ 本社,支店,営業所,出張所等で企画・実施する。
❷ アンケート実施責任者を明確にする。
❸ アンケート調査用紙のタイトルには「アンケート」の文言を表示し,企業名,組織名,実施責任者名を表示する。


■(参考資料)公取協TOP 医薬品業等告示および公正競争規約、同施行規則、同運用基準
http://www.iyakuhin-koutorikyo.org/index.php?action_download=true&kiji_type=1&file_type=2&file_id=2355

■(参考資料)製薬協コード・オブ・プラクティス
https://www.jpma.or.jp/basis/code/lofurc0000001dqt-att/code2.pdf

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