本記事は、医療用医薬品利益供与・贈収賄規制ハンドブック「第二章 医療関係者等への利益供与・贈収賄規制の具体的内容」のうち、5️⃣寄附に関する規制の内容をまとめたものです。
■関連記事は以下をご参照ください。
(1)基本的な考え方
製薬企業は「医療機関等に対し,医療用医薬品の取引を不当に誘引する手段として,景品類を提供(利益供与)してはならない」とされている(公正競争規約第3条)。一般的に「寄附」とは,取引に関係なく無償で金品を提供することを指し,協賛金,賛助金,援助金,その他名称のいかんを問わない。法律上,寄附金は法人税法第37条第7項において「寄附金,拠出金,見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず,金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」と定義されている。
すなわち,寄附の本来の定義によれば,寄附は一切の対価性を有さず,取引を不当に誘引することには結び付かないものである。しかし,現実において製薬業界が行う寄附には,製薬企業が取引への影響を考慮してきたという面があるため,公正競争規約第3条の運用基準「Ⅰ-2 寄附に関する基準」が設けられ,原則として寄附は「景品類」の一部とみなし,その可否が判断される。
なお,次のような寄附は,医薬品の取引に付随しないものとして取り扱われている。
(2)医療機関等に対する寄附金
医療機関等への金銭提供であっても,医学・薬学等の研究,講演会等に対する援助であれば,業界内の正常な商慣習に照らして適当と認められる範囲内であり,取引を不当に誘引する手段には当たらず,原則として公正競争規約違反とはならない。
しかし,医療機関等が自ら支出すべき費用の肩代わりとなるものなどは,不当な利益供与として公正競争規約違反となる。
1)拠出が制限される寄附金
拠出が制限される寄附金(不当な利益供与)には,次の5類型がある。
2)拠出が制限されない寄附金
「研究活動への寄附金」,「講演会などへの寄附金」及び「その他の取引を不当に誘引する手段とは認められない寄附金」は,医薬品の取引に付随するものの,取引を不当に誘引する手段には当たらず,公正競争規約違反とはならない。
① 研究活動への寄附金
研究機能を有する医療機関等が研究を行う目的は,医学・薬学の進歩のためであり,当該医療機関等の利益のためではない。したがって,製薬企業が拠出する研究に対する援助としての寄附金は,その過程に医療機関における臨床研究が含まれていたとしても,公正競争規約には違反しない。 ただし,自社医薬品に関する臨床研究への金品の支援は,製薬企業が当該研究に対して何らかの利益を受けることを期待して実施するものと考えられることから,無償で提供する金品には当たらず,かつ,直接的な取引誘引(処方誘引)につながるおそれも否定できないため,このような寄附を行うことは公正競争規約違反となる。 製薬協は,「製薬企業による臨床研究支援の在り方に関する基本的考え方」(2018(平成30)年5月28日更新:「臨床研究法施行に伴う『製薬企業による臨床研究支援の在り方に関する基本的考え方』の更新について」)において,次のように示している。
◆臨床研究への支援の在り方に関する基本的考え方
◆奨学寄附金の提供の在り方
また,大学附属病院や,法令上研究機能を有する病院(国立研究開発法人国立がん研究センターなど),医療機関を開設する法人の研究部門(研究所)への寄附(いわゆる奨学寄附金)においては,次の要件を満たす必要がある。
なお,製薬企業が医療関係者等の医学・薬学等の研究を公募して助成する寄附金(いわゆる研究助成)については,次の要件を満たす必要がある。
② 講演会などへの寄附金
医療機関等が行う講演会は,医学・薬学の知識の普及や,公衆衛生の向上を目的としており,当該医療機関等の利益を目的としていないため,次に該当する講演会への寄附は,取引を不当に誘引する手段には当たらず,公正競争規約違反とはならない。
③ その他の取引を不当に誘引する手段とは認められない寄附金
次に例示するものは,背景や状況を総合的に勘案しなければならないため,取引を不当に誘引する手段か否かについては,そのつど判断することとなる。
(3)団体に対する寄附金
医療機関や医療関係者が参加する「団体」は,公正競争規約で定義する「医療機関等」には該当しないため,これらの団体への寄附は,原則として医療機関等への不当な利益供与には当たらず,公正競争規約違反とはならない。
しかし,これらの団体は医療機関や医療関係者が会員であること,寄附の要請が医療関係者からなされることなどから,寄附行為と医薬品の取引に付随性が生じるおそれも否定できない。これらの団体への寄附金が,その本来の趣旨を外れ,個々の医療機関や医療関係者に対する不当な利益供与になる場合は,公正競争規約違反となる。
1)団体性の判断
団体には,医療機関や医療関係者とは別個の「団体性」が認められる組織と,それが認められない組織がある。団体性が認められない組織への利益供与は,医療機関や医療関係者への寄附として判断される。
団体性を判断するための基準は,運用基準で次のように定められている(運用基準「Ⅰ-1 景品類提供の原則に関する基準」)。
2)学会開催に対する寄附
団体性を備えた団体に寄附をする場合は,当該団体が適正に運営されていることを確認したうえで,募金趣意書などを事前に入手し,募金の目的がその団体の事業目的に合致しているかなどを確認することが必要である。
団体の活動には「会員を対象とした会合」(学会の開催等)と,それ以外の活動(機関誌の発行や団体の研究,講演会活動)がある。学会等の「会員を対象とした会合」の開催に際して,製薬企業が寄附金を拠出し,参加する医療関係者の個人費用(自己負担すべき交通費,宿泊費,懇親会費,弁当代など)を賄うことは費用の肩代わりとなり,公正競争規約違反となる。
なお,寄附金が個人費用に使われていないといえるには,会合開催における総収入から製薬企業の資金(寄附金,広告料,展示料,共催費等)を引いた額が,個人費用の総額を上回っている必要がある。
学会等の「会員を対象とした会合」の開催に対する寄附が個人費用の肩代わりとならないためには,募金趣意書(内容例:団体等の名称,開催日時,開催場所,開催目的・内容・プログラム,募金する理由,参加人員,寄附金振込先,担当事務局),収支予算書,学会などの組織,役員名簿を事前に入手し,会合開催費用(個人費用を除く)の過半が自己資金で賄われていることを確認する必要がある。また,寄附金を拠出した場合は,学会終了後に決算報告書を入手し,拠出した寄附金が適正に使用されたことも確認する必要がある。
3)団体性を備えた団体への寄附
寄附の相手先が,団体性を備え,医療機関や医療関係者とは別個の団体であっても,次の場合は取引を誘引するための不当な利益供与に該当する。
4)賛助会費
医療機関等及び医療関係者等が主催する研究会等の団体に製薬企業が賛助会員として加入し,会費(いわゆる賛助会費)を支払う場合は,その会費の使途が当該研究会の基本的運営のための「通常会費」であるか,「通常会費以外の会費」であるかによって,その拠出の可否が判断される。
① 通常会費
構成員である正会員・賛助会員が,当該研究会の運営等のために経常的に要する費用の分担金として支出する会費(賛助会費を含む)は,企業活動を行ううえにおいて必要な経費であり,税法上損金扱いとなる。したがって,次の要件を満たす当該会費の支払いは不当な利益供与には当たらず,公正競争規約違反とはならない。
② 通常会費以外の会費
通常会費以外の会費は,名目のいかんにかかわらず,不当な利益供与とされる場合があるため,提供の可否については「会費」と称されるものの実質が何に該当するのかによって判断する。
■(参考資料)公取協TOP 医薬品業等告示および公正競争規約、同施行規則、同運用基準
http://www.iyakuhin-koutorikyo.org/index.php?action_download=true&kiji_type=1&file_type=2&file_id=2355
■関連記事は以下をご参照ください。
■全文及び添付資料は以下より入手可能です。