2-4 物品等の提供に関する規制
本記事は、医療用医薬品利益供与・贈収賄規制ハンドブック「第二章 医療関係者等への利益供与・贈収賄規制の具体的内容」のうち、4️⃣物品等の提供に関する規制の内容をまとめたものです。
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(1)医療に関連する物品等の提供
1)医薬品の使用に際して必要・有益な物品等
「自社の医療用医薬品の使用に際して必要な物品若しくはサービス,及び,自社医薬品の効用,便益を高めるような物品若しくはサービスの提供は公正競争規約に違反しない」とされている(公正競争規約第5条第1号)。
ここでいう「自社の医療用医薬品の使用に際して必要な物品若しくはサービス」とは,当該医薬品の本来の効能を十分に発揮させるため,あるいは当該医薬品を使用・利用するため必要な物品もしくはサービスのうち,「特別に付加されたもの(特典)」との認識を持たないものであって,次の要件を備えたものをいう(運用基準「Ⅲ-1 必要・有益な物品・サービスに関する基準」)。
また,「自社医薬品の効用,便益を高めるような物品若しくはサービス」とは,その医薬品の保管や使用の際に,その有効性や安全性,品質を確保するためや利便性を高めるために必要な物品やサービスであって,次の要件を備えたものをいう(運用基準「Ⅲ-1 必要・有益な物品・サービスに関する基準」)。
IFPMAコードでは,医薬品の使用に際して必要・有益な物品等について,「控えめな価格で日常業務の肩代わりとならず,かつ,医療サービス及び患者ケアの向上に有益である場合は,医療に役立つ物品を提供できる」としつつ,「個々の物品が適切であっても,頻繁に提供されるべきではない」としている(IFPMAコード「7.5.2 医療および患者ケアに役立つ物品」)。また,「聴診器,手術用手袋,血圧計,注射針等は通常の業務において購入される物であり,医療関係者もしくは職員が自ら購入すべきものである」とし,その提供は「費用との肩代わり」と見なされるとしている(IFPMAコード「Q&A15.1 医療に役立つ物品」)。
2)医薬品の情報提供に関連する物品等
医療用医薬品に関する医学・薬学的情報,その他自社の医療用医薬品に関する資料,説明用資材等の提供は,公正競争規約違反とはならない(公正競争規約第5条第2号)。
「自社の医療用医薬品に関する」とは,自社の医療用医薬品の有効性,安全性及び品質に関するもののほか,当該製品の薬物療法に関するもの及び自社の医療用医薬品の適正使用に必要と考えられる疾病の診断,治療,予防等に関するものを指し,次の事項が含まれる(運用基準「Ⅲ-2 医学・薬学的情報に関する基準」解説)。
また,「資料,説明用資材」とは,情報提供(伝達)の際に使用する媒体のことであって,印刷物,スライド・ビデオ・写真等の視聴覚資材及びCD-ROM,フロッピーディスク,インターネット,電子メールなどの電子媒体等をいう(運用基準「Ⅲ-2 医学・薬学的情報に関する基準」)。
自社医薬品に関する情報は,経済上の利益に当たる媒体を使って提供する場合であっても,原則として公正競争規約違反とはならないが,次については,医療機関等に提供することはできない(運用基準「Ⅲ-2 医学・薬学的情報に関する基準」解説)。
なお,自社製品に関連しない一般的な医学・薬学的情報の提供であっても,次の要件を満たす限り公正競争規約違反とはならない(運用基準「Ⅲ-2 医学・薬学的情報に関する基準」解説)。
3)試用医薬品
公正競争規約施行規則で定める基準による試用医薬品の提供は,公正競争規約違反とはならない(公正競争規約第5条第3号)。試用医薬品とは,医療用医薬品として承認を受け,販売許可を取得した後に製造され,医療機関等に無償で提供されるもので,次の2種がある(運用基準「Ⅲ-3 試用医薬品に関する基準」)。
・製剤見本
医療関係者等が当該医療用医薬品の使用に先立って,剤形及び色,味,におい等,外観的特性について確認することを目的とするもの。
・臨床試用医薬品
医療関係者等が当該医療用医薬品の使用に先立って,品質,有効性,安全性,製剤的特性等について確認,評価するために臨床試用することを目的とするもの。
なお,製品の説明もないまま,医療関係者等の勤務先に試用医薬品を置いてくるだけということはあってはならない。試用医薬品を提供するための基準については,次のように定められている(運用基準「Ⅲ-3 試用医薬品に関する基準」解説)。
◆製剤見本
◆臨床試用医薬品
(2)医療に関連しない物品等の提供
1)IFPMAコードによる制限
IFPMAコード「7.5 医療関係者に対する贈り物およびその他の物品」では,「医療関係者等の個人的な利益となる贈り物」及び「プロモーション用補助物品」を医療関係者等に提供することが禁止されている。IFPMAコードで認められているプロモーション用補助物品は,「主催または第三者が開催する会合」において,「廉価」であり,「企業名のみが掲載されている」,「会合のために必要な分だけ」の「ペンやメモ帳」であり,付箋紙(例:ポストイット)やマウスパッド,カレンダー等の配布は禁止されている。
2)公正競争規約による制限
公正競争規約では医療機関等への不当な利益供与を禁じているが(第3条),公正競争規約施行規則第5条では,次のような経済上の利益の提供は,不当な利益供与に当たらず,公正競争規約には違反しないとされている。
① 少額で,正常な商慣習に照らして適当と認められる範囲を超えない物品類の提供
「少額で,正常な商慣習に照らして適当と認められる範囲を超えない景品類」については,次のように定められている(運用基準「Ⅳ-1 少額・適正な景品類に関する基準」)。
② 慶弔に伴う物品類の提供
慶事(叙勲祝い,結婚祝いなど),弔事,見舞い,餞別などとして金品を送ることは,社会的儀礼行為として通常,行われることであり,公正競争規約においても「社会通念上華美,過大にわたらない範囲」であれば認められている。ただし,慶弔に名を借りて金品の提供を行うことや,慶弔をプロモーションの手段とすることは禁止されている(運用基準「Ⅰ-1 景品類提供の原則に関する基準」)。
慶弔に際して,どのくらいの金額を提供すべきかについては,慶弔の種類,当事者の社会的地位,関係の度合,地域の慣習などによるため,一概には決められず「社会的儀礼の範囲」,もしくは「社会通念上,華美,過大にわたらない範囲」ということが基準になっている。しかし,こうした慶弔に関する贈り物は,その実施する頻度や金額によっては取引を不当に誘引する可能性があるため,結婚記念日,誕生日祝いなどは「慶弔」には該当しないなど,一部については次のような具体的な基準が定められている(運用基準「Ⅰ-1 景品類提供の原則に関する基準」解説)。
③ 中元・歳暮等の提供
製薬企業から医療関係者等へ送られる中元や歳暮,また,製薬企業の担当者(MRなど)の上司が医療機関等を訪問する際の手土産については,正常な商慣習に照らして適当と認められる社会的儀礼行為であり,その内容が華美,過大にわたらない範囲において認められている。 ただし,製薬企業の担当者が日常業務の中で,担当する医療関係者等に手土産などを提供することは,ここで認める社会的儀礼行為には該当せず,公正競争規約違反となる(運用基準「Ⅰ-1 景品類提供の原則に関する基準」解説)。
④ 行事における物品等
「慣例として行われる親睦の会合,あるいは自己又は医療機関等の記念行事に際して提供する社会通念上華美,過大にわたらない贈答,接待」は,公正競争規約違反とはならない(公正競争規約施行規則第5条第2号及び第3号)。
慣例として行われる自社の主催する親睦の会合(忘年会,新年会,賀詞交換会など)や,自己の記念行事(創立○○周年記念,支店・営業所開設披露,社長交代等に伴う行事)に際し,医療関係者等を招待して提供する景品類(贈答品や懇親会等)は,「社会通念上華美,過大にわたらない範囲」であれば公正競争規約に違反しない。また,自社医薬品発売○○周年記念等のように,製品に直接関係する記念行事に伴って提供する記念品の価額は,5千円を超えない額を目安とする(運用基準「Ⅳ-3 記念行事に関する基準」解説)。
医療機関等が主催する親睦の会合(医療機関等や院内組織(診療科,いわゆる医局など)が組織全体で行うもの)に対しては,名目のいかんを問わず金品を提供することはできない。また,医療関係者等の個人的な集まりや,同好会などの私的グループが行う会合も公正競争規約施行規則第5条第2号に規定する「親睦の会合」には当たらず,これらの会合に対しても金品を提供することはできない(運用基準「Ⅳ-2 親睦会合に関する基準」解説)。
一方で,医療機関等の記念行事(社会一般に慣例として行われる落成記念,開設○○周年記念,施設の功績表彰(地域医療の貢献等)など,施設全体で行う行事であって,他の業界や社会一般的にも広く認知されているもの)については,「社会通念上華美,過大にわたらない範囲」であれば金品を提供することができる。ただし,この場合,社会的批判や誤解を受けないために,趣意書,案内状,招待状等,行事の内容が確認できる文書を入手する必要がある(運用基準「Ⅳ-3 記念行事に関する基準」)。
3)国家公務員の場合の特則
国家公務員は,次の場合を除き,利害関係者から金銭・物品等の贈与を受けることができない(国家公務員倫理法第3条第2項及び第4条)。
4)IFPMAコードと公正競争規約による規制の調整
現状ではIFPMAコード上のルールと,公正競争規約ないし国家公務員倫理法上のルールが一致していないことになるが,この点に関して,日薬連から通知が発出されている。
このように,実務上は,ほとんどの製薬企業がIFPMAコードに従った運用をしているため,医療関係者等に医療に関係しない物品等を提供する例は少なくなっている。
■(参考資料)2019年 IFPMAコード・オブ・プラクティス 日本語(4.5MB)PDF
https://www.jpma.or.jp/basis/code/lofurc0000001duv-att/ifpma_code_2019.pdf
■(参考資料)2019年 IFPMAコード・オブ・プラクティスQ&A 日本語(356KB)PDF
https://www.jpma.or.jp/basis/code/lofurc0000001duv-att/ifpma_code_qa_2019.pdf
■(参考資料)公取協TOP 医薬品業等告示および公正競争規約、同施行規則、同運用基準
http://www.iyakuhin-koutorikyo.org/index.php?action_download=true&kiji_type=1&file_type=2&file_id=2355
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