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本記事は、医療用医薬品利益供与・贈収賄規制ハンドブック「第二章 医療関係者等への利益供与・贈収賄規制の具体的内容」のうち、6️⃣その他の規制の内容をまとめたものです。

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(1)広告の提供

1)基本的な考え方

 広告料は,広告宣伝という役務の対価として支払う金銭であり,それ自体は景品類に該当しない。したがって,広告料として相応の対価を支払うことは,公正競争規約違反とはならない。ただし,広告料に名を借りて金銭を提供することは不当な利益供与に当たり,公正競争規約違反となる(運用基準「Ⅰ-1 景品類提供の原則に関する基準」)。

 通常,一般的な広告募集は出版社や,広告代理店等が広告主から広告を集めるものであり,その限りにおいては医薬品の取引とは関連がないので問題は発生しない。しかし,医療機関等が作成する媒体への広告は,医療機関等が広告と称して金銭を集める(医療機関等に入金が発生する)ため,公正競争規約に基づく判断が必要となる。広告掲載の対価として相応の額を超える広告料は,不当な利益供与に当たる(運用基準「Ⅰ-1 景品類提供の原則に関する基準」)。

 医療機関等が作成する媒体において広告を集める場合,その広告料が媒体の作成費用を超えることはあり得ないといえる。仮に媒体の作成費用を大幅に超える広告料が設定されており,余剰金が出ることが明らかな時は,医療機関側に税務上の問題が発生するおそれがある。また,それと同時に広告主である製薬企業側も,広告料に名を借りた不当な利益供与を行ったとみなされるので注意が必要である。

 広告募集への対応にあたっては,広告募集案内などで内容を確認し,それが実質的に広告であるかどうかを判断する必要がある。また,広告募集案内には,媒体名,媒体趣旨・内容,発行部数,配布対象(広告対象),広告スペースごとの料金・募集数,作成諸費用,申込先などが明記されていなければならない。なお,広告募集に応じる際は,次の事項を満たす必要がある(運用基準「Ⅰ-1 景品類提供の原則に関する基準」解説)。

❶ 広告料の額の判断は,税務上広告宣伝費として処理できる範囲を目安とすること。
❷ 医薬品等適正広告基準に適合していること。
❸ 一方的な割り当て,強制には応じないこと。
❹ 広告料に名を借りた金銭提供は行わないこと。
❺ 広告料の総額は媒体作成費用の範囲内であること。
 ・印刷媒体での広告料は媒体作成費用を目安とする
 ・印刷媒体以外は,その広告料が社会通念を大幅に超えるものでない相応の対価とする 
 ・学会参加者の個人費用に充てることはできない
❻ 広告料を支払った事実を証明する資料(広告募集案内,広告掲載誌等)を保管すること。

2)広告媒体ごとの規制

① 医療機関等の機関誌,研究誌など
 原則として,医療機関等が作成する機関誌,研究誌などであっても,製薬企業がその媒体に広告を掲載し,広告料として対価を支払うことは不当な利益供与ではなく,公正競争規約違反とはならない(運用基準「Ⅰ-1 景品類提供の原則に関する基準」)。

 しかし,広告掲載する媒体が,「院内機関誌」,「院内医薬品集」,「職員名簿」など,医療機関等が独自に作成するものであり,その利用者も当該医療機関等に所属する者に限られる場合,当該媒体は広告掲載にふさわしいものとは認められず,また,広告料として対価を支払うことは不当な利益供与に当たり,公正競争規約違反となる(運用基準「Ⅰ-1 景品類提供の原則に関する基準」)。

② 教育用印刷物,スライドなど
 医療機関等が,病気の治療や予防の教育用として作成し,患者や健康診断受検者などの多数の人々に配布,展示するための印刷物やスライドなどの広報用資材に製薬企業が広告を掲載し,広告料として相応の対価を支払うことは不当な利益供与には当たらず,公正競争規約違反とはならない(運用基準「Ⅰ-1 景品類提供の原則に関する基準」)。

③ 医療機関内設備への広告
 本来,医療機関等が負担すべき設備,物品(病院案内,待合室の椅子,テレビ等)の経費に関し,製薬企業に肩代わりさせる目的で,形式的とはいえ当該製薬企業名を設備や物品に掲載する場合,それが広告料などの名目であっても不当な利益供与に該当し,公正競争規約違反となる(運用基準「Ⅰ-1 景品類提供の原則に関する基準」)。

(2)便益,労務その他の役務の提供

1)基本的な考え方

 製薬企業は,「医療機関等に対し,医療用医薬品の取引を不当に誘引する手段として,景品類を提供(利益供与)してはならない」(公正競争規約第3条)とされており,「利益供与」には「便益,労務その他の役務」の提供が含まれる(公正競争規約第2条第5項第4号)。

 「便益,労務その他の役務」には,引越し手伝い,製薬企業が所有する宿泊施設等の無償利用等が該当する。これらの内容が過大である場合,またはその行為が組織的,継続的である場合などは不当な利益供与とされ,公正競争規約違反となるが,その判断については,通常の手段における委託(当該便益,労務等を業とする業者への委託)によって支払われる価格(正当な価格)が基準となる(運用基準「Ⅰ-1 景品類提供の原則に関する基準」)。

 また,医療機関等が本来の業務(労務)として雇用,あるいは委託によって行うべきものを製薬企業が提供する場合,当該業務(労務)は費用の肩代わりとなり,不当な利益供与として公正競争規約違反となる(運用基準「Ⅰ-1 景品類提供の原則に関する基準」解説)。

2)学会会合に際しての労務提供

 学会会合に際しての労務提供について,製薬企業は「取引を不当に誘引する手段として・・・」との誤解を受ける場合がある。当然ながら,労務提供の内容が過大であれば,不当な利益供与として公正競争規約違反となる。学会会合における労務提供にあたっては,次の基準に従う必要がある(運用基準「Ⅰ-2 寄附に関する基準」)。

◆原則
❶ 提供の量及び内容が過大にならないよう留意する。
❷ 要請に応じるときは,不当な取引誘引とみなされることのないよう,複数社で対応する。
❸ 労務提供に代わる金銭提供は行わない。
❹ 提供の要請が強制的とみられる場合は,公取協各支部において対処する。
❺ 提供に関する手続を遵守する。

◆「過大にわたらない範囲」の基準
❶ 提供の人数 地域の実状も勘案して,1社,1日当たり1~2名を目安とする。
❷ 提供の場所 当該公取協支部の区域内を原則とする。
❸ 労務の内容 学会会場における「手伝い」程度の簡易な作業とする。「簡易な作業」に当たらない作業とは,OA機器類の操作,金銭を扱う業務(会費徴収等)などをいう。

◆手続
❶ 事前届出
  労務提供の要請に応じる会員会社は,複数社に要請されていることを確認し,労務提供依頼状を添付して,事前に公取協支部に届け出る。
❷ 特別の事情がある場合
  ❶の基準に拠りがたい特別の事情がある場合は,当該会員会社の申出により,公取協支部の相談グループでその提供の可否を判断する。

3)その他の労務提供

 製薬企業が自社の会議室等を医療機関,研究会組織等に貸与する場合,当該製薬企業に新たな金銭的支払いが生じないのであれば「便益,労務その他の役務」には該当しない。ただし,継続的に貸与する場合や過大な労務提供を伴う場合には,不当な利益供与に該当し,公正競争規約違反となる。また,情報端末機器を人数分揃えて貸与すること,あるいは製薬企業の社員が同席してOA機器等の操作を行うことも不当な利益供与となり,公正競争規約違反となる(運用基準「Ⅰ-1 景品類提供の原則に関する基準」解説)。

 なお,レセプト(診療報酬明細書)の搬送は,本来,医療関係者等の業務(労務)であるが,取引の継続及び取引量の増大等を目的として,当該業務(労務)をMRが代行することは不当な利益供与に当たり,公正競争規約違反となる(運用基準「Ⅰ-1 景品類提供の原則に関する基準」)。

(3)行事への参加

1)基本的な考え方

   公正競争規約第3条において,製薬企業は「医療機関等に対し,医療用医薬品の取引を不当に誘引する手段として,景品類を提供(利益供与)してはならない」と規定されている。

 ただし,「慣例として行われる親睦の会合,あるいは自己又は医療関係者等の記念行事に際して提供する社会通念上華美,過大にわたらない贈答,接待」については,不当な利益供与には当たらず,公正競争規約違反とはならない(公正競争規約施行規則第5条第2号及び第3号)。

2)自社の主催する行事

 慣例として行われる自社の主催する親睦の会合(忘年会,新年会,賀詞交換会など)や,自己の記念行事(創立○○周年記念,支店・営業所開設披露,社長交代等に伴う行事)に際し,医療関係者等を招待して提供する景品類(贈答品や懇親会等)は,社会通念上華美,過大にわたらない範囲であれば不当な利益供与には当たらず,公正競争規約違反とはならない(運用基準「Ⅳ-3 記念行事に関する基準」)。

 なお,自社医薬品発売○○周年記念等のように,製品に直接関係する記念行事に伴って提供する記念品の価額は,5千円を超えない額を目安とする(運用基準「Ⅳ-3 記念行事に関する基準」)。

3)医療機関等の主催する行事

① 金品の提供

 医療機関等の主催する親睦の会合とは,医療機関等や院内組織(診療科,いわゆる医局など)が全体で行うものをいう(運用基準「Ⅳ-2 親睦会合に関する基準」解説)。これらの会合は,医療関係者等の組織内部での親睦を目的として実施されるものであり,公正競争規約施行規則第5条第2号に規定する「親睦の会合」には該当せず,名目のいかんを問わず金品を提供することはできない。また,医療関係者等の個人的な集まりや,同好会などの私的グループが行う会合についても,同様に公正競争規約施行規則第5条第2号に規定する「親睦の会合」には該当しないので,金品を提供することはできない(運用基準「Ⅳ-2 親睦会合に関する基準」解説)。

 一方で,医療機関等の記念行事とは,社会一般に慣例として行われる落成記念,開設○○周年記念,施設の功績表彰(地域医療の貢献等)など,医療機関等の施設全体での行事であり,他の業界や社会一般的にも広く認知されているものをいう(運用基準「Ⅳ-3 記念行事に関する基準」)。このような医療機関等の記念行事に対しては,社会通念上華美,過大にわたらない範囲であれば金品を提供することができる。ただし,社会的批判や誤解を受けないよう,趣意書,案内状,招待状等,行事の内容が確認できる文書を入手する必要がある(運用基準「Ⅳ-3 記念行事に関する基準」)。

② 参加費の支払い

 MRが医療機関等の主催する親睦の会合,または記念行事に参加する際に支払う参加費は,実費相当額であれば公正競争規約違反とはならない(運用基準「Ⅳ-2 親睦会合に関する基準」解説)。ただし,参加費に名を借りた不当な利益供与と誤解されないためにも,参加費の支払いに当たっては案内状等を入手するなど,当該会合や行事の内容,参加費の額を確認し,領収書を入手すること。なお,事前に参加費を支払いながら故意に欠席するというような,実質的に参加予定のない行事に参加費を支払ってはならない。なお,医療機関等に対しては,参加に関するルールを事前に確認し,それに則って行動する必要がある(運用基準「Ⅳ-2 親睦会合に関する基準」解説)。


■(参考資料)公取協TOP 医薬品業等告示および公正競争規約、同施行規則、同運用基準
http://www.iyakuhin-koutorikyo.org/index.php?action_download=true&kiji_type=1&file_type=2&file_id=2355

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