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買った本、借りた本②:『かわさき民衆の歩み 明治・大正・昭和』

今回は「借りた本」をご紹介します。
向ヶ丘遊園駅近くの多摩図書館で見つけた川崎地域史研究会著 小林孝雄編「かわさき民衆の歩み 明治・大正・昭和」です。

今どきAmazonで紹介される本を買って読む事も増えていますが、図書館や本屋は本との偶然の出会いがあり自分の視野を広げるきっかけになります。
本書は川崎市制70周年を記念して書かれた公式の『川崎市史』とは立場を異にすることを明確にして、「平民の過去の歴史を知る」ことを目的に、23のテーマで川崎の歴史が語られます。
川崎市は「水」を巡って成立します。多摩川の水を田畑に引き込む「二ヶ領用水」の取水口が度重なる洪水で破壊され、管理しきれなくなった農業従事者達が水利権を後に川崎市となる地域の行政に売却します。
そして二ヶ領用水は南部に誘致された工場の工業用水として利用されるものの工場廃液で汚染され、公害が発生します。その対策として上下水道を敷設することになり、その資金を工面するところから大正13年に大師町、御幸村、川崎町が合併、それを核として川崎市が始まります。
本書は各論として、川崎遊郭で働く女性たち、コレラ等の伝染病とその対策、多摩川の堤防建設を巡る市民運動、溝の口にあった村落劇場、戦争中の川崎工業地帯、川崎南部の沖縄芸能などなどを紹介していきます。
学校で学ぶ「歴史」は国全体の歴史を学びますが、私たちが住むエリアで国の歴史と直結する動きがあったことに驚き、今は歴史の上に成り立っているのだと思わされます。
戦後、住宅公団と私鉄各社や大手ディベロッパーの沿線都市開発によって川崎にも住宅が大量に作られ、私達の大半が「新住民」としてこの地に移り住むようになりました。こんな歴史は知らなくても毎日を過ごせますが、ちょっと地域の歴史を知ると、知らぬ間に何かの遺産を引き継いでいたり、逆に知らずに放棄してたりすることに気付きます。
知らずに放棄してしまうよりは自覚的に引き継ぐ/引き継がないを決めた方が良いかもしれないなと思います。いきなり超古い話で恐縮ですが、18世紀イギリスの国会議員を務めたエドマンド・バークという人が、隣国フランスで起きたフランス革命に対して、積み上げられた歴史や制度の中には簡単に変えてはいけない良いものもあるはずだと言っています。これは「保守主義」という立場です。今、再開発により大きく変わっていく登戸エリアこそ知っておいたほうが良い過去もありそうです。
この本自体が地域の遺産になり、手に取った私がそれを引き継いだような気がします。
出来れば「川崎地域史研究会」の皆さんにインタビューしてみたいなと思っています。もしご存じの方がいれば是非ご一報を。

見たもの、聞いたもの:
『喜劇 駅前団地』1961年/東宝スコープ

本が地元の古い話をテーマにしていたので映像も地元関係のものを。古い日本のコメディ映画です。
舞台は今の読売ランド前駅から百合ヶ丘駅あたり。ちょうど団地が作られる頃です。
地元の医師、農家さん、不動産屋さんが開発のため高騰した土地を巡ってドタバタします。
農家さんは田畑を売って団地に転居し悠々自適で暮らすのですが、若い息子夫婦が自分たちは豚を飼育して生計を立てると宣言するのです。
多摩区は今やベッドタウンとなっていますが、ここで生産活動を行うという展開にハッとしました。
リメイクされたら太陽光発電をする展開もあり得るなと思いました。昔の地元が全編にわたって出てきますので良かったら是非。

(本稿は川崎市多摩区の登戸・向ヶ丘遊園付近で配布中のZINE「ノートリボ」に掲載した文章を、加筆修正の上記事にしております)

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