短篇小説 『信頼 堀さんの訪問介護』 [第2話] 衛生面からも整理整頓は大切
一人暮らしの脳性まひ・松田さん(男性48歳)のお宅。間取りは1Kのマンションに住んでいる。
入室して松田さんの部屋までに台所を通ります。そこには目を背けたくなる光景が待ち構えている。まるで台風が過ぎ去ったかのような悲惨な状態。なぜお皿が散らかっており、シンクが水浸しで布巾がベチョっと置かれ干されてないのか。
僕は心の中で「今日もかぁ」と呟きながら通過した。部屋のドアを開けてカバンを椅子に置く。眠気まなこの松田さんに挨拶をする。
「おはようございます」
松田さんも僕を見て「おはよう」と言ってくれる。言語障害もあるが松田さんの介助に入り10年は経つので聞き返すことは今ではほとんどなくなった。初対面の人だとおそらく何を話しているか分からないだろう。
挨拶を終え「手を洗ってきます」と言い洗面台へ。コロナ対策でできることは限られている。手洗いとうがい、そして菌を外から持ち込まない、換気等々。そして自らの体調管理だ。
洗面台には歯ブラシが横たわって本来入れられるべきコップに入ってなく、これを口に入れていいのか?と不安になる信じられない置き方。衛生上、歯ブラシのブラシが洗面台にくっ付いていたら不衛生だろう。しかもそこでヘルパーは手を洗うのに。バイ菌をつけてどうするのだ。
そしてよく見ると、昨夜の夕食は鮭を食べたであろう、魚の身がブラシにまだ挟まっている。ちゃんと洗っていないことも判明した。
昨夜入ったヘルパーの後片付けから始まるモーニングケアっていったい。職員もコーディネーターも利用者の《自己決定・自己選択》に任せっきりだから現状を把握していないし、松田さんも毎日ヘルパーが変わるからいちいち注意してられないのか、もう諦めているのか、いつも笑って「みんな違うんだよね、面白い」と言うだけ。
利用者である松田さんにそう言われたら何も言えなくなってしまう。それ以上僕が言うと管理する側になり、それは自立支援ではなくなるから…… 振り返るとそんな日々が10年も。本当にこれでいいのだろうか、と自問自答しながら片付けの手は休むことはない。
洗面台の横は浴室になっている。見ると案の定片付いていない。足湯される桶がゴム製のお風呂用の椅子に乗せてありカビの繁殖を増加させている。桶をどけ水気を切る。しかし片付けばかりしていてもしかたがない。お昼になってしまう。
そろそろ松田さんのお着替えタイムだ。その後はトイレに行き、その間ベッドメイキングを済ませ、血圧や体温を測ったり髭を剃って朝食の用意もある。片付けをほどほどに済ませ、次のステップへと進める。
訪問介護というか、家事代行の方が向いているのでないか、と思う今日この頃。こないだ松田さんの介護に入ってるヘルパー村川さんに、引き継ぎの際こんなことを言われた。
「堀さんが入った後、自分が松田さんのところに入ると家事が完璧にされていて、まるでここは高級ホテルか?と見間違えるぐらい全てがピカピカして、いつも松田さんと一緒に驚いてるんですよ。隔週の日曜日入ってる中村さんも同じこと言ってました、俺たちも堀さんを見習おうって!」
僕がいないところで、自分のことを褒めてもらっていたなんて嬉しかった。そんなことを思っていた松田さんも意外だった。この言葉、いつか小説で使わせてもらおう。
嫌なことがあっても、この称賛の言葉を思い出すと半日は上機嫌で過ごせたりするものだ。人に褒められるって凄いことなんだとあらためて実感する。僕も人を褒めよう、どんな人だって必ず一つはいいところがある。
でも、昨夜のヘルパーを褒めるところはあるのだろうか、と頭を悩ませるのであった……
続く
【第2話の登場人物】
堀:介護福祉士、作家(男性41歳)
松田:脳性まひ、ほぼ全介助、会社員(男性48歳)
村川:松田さんのところに入っている介護士(男性45歳)
中村:松田さんのところに入っている介護士(男性52歳)
次回 第3話
引き続きモーニングケア、お楽しみに!
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現在、執筆準備中の長篇小説の練習用で書き始めた短篇です。映画の脚本とは違うので、勉強しながら週①ぐらいのペースで更新しています。自伝的な物語になる予定。
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スタジオウーニッシュ代表
映画監督 / 作家 / 介護福祉士:堀河洋平
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