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臨床医から大学院へ4:研究の時間

前回のつづきで、救急医である自分が大学院生活を振り返っていきます。大学院進学を考えている臨床医の参考になればと思います。

前回までの記事:

臨床医から大学院へ1

臨床医から大学院へ2:学位とは?

臨床医から大学院へ3:MCRコース

この記事では自分の大学院生活における時間の確保について紹介します。

時間をいかにして確保するか?

大学院生活、研究生活をする上で「時間」を確保することは非常に重要だと思います。先日、大学院の同期に研究成果出すために必要なものについて、アンケートを取ったところ「時間」の回答が圧倒的でした。

当たり前ですが、時間は誰にとっても有限で、個人として使える時間はさらに限られています。育児家事もしないといけないし、家族を養い生活するために一定の収入が必要で、そのためには働く必要があります。

臨床医として働くと当直、緊急手術、急変、トラブル対応、研修医の指導、オンコール、病棟からの指示の確認、紹介状の作成、入院診療計画書の作成、退院サマリの作成・・・・など、やるべきことが無限に発生します。落ち着いて机に座る時間はありません。

一方で臨床研究の遂行にも時間が必要です。そもそも臨床研究をやるための疫学、統計などの基礎知識の勉強もしないといけないし、データの収集も必要です。Rなどの解析ソフトを叩けばエラーメッセージがでてきて、そのエラーを解消するために頭を悩ませながら取り組むと、数時間、数日という時間が、まるで夏場の氷のように一瞬にして溶けてなくなります。

経験を積めば論文を書くのも早くなりますが、最初の一本目の論文を書くのには何ヶ月と推敲を重ねながら執筆が必要になるかもしれません。

研究を遂行し成果を出すためには時間をどのように使うかは重要な課題だと思います。大学院生活で自分なりに時間を確保するのに考えたことを紹介します。

優先順位をつける

使える時間には限りがあるので、自分のやるべきことに優先順位をつける必要があります。

臨床医の頃は自分が使える時間のなかでも「臨床業務」は最も優先度の高いものでした。

救急医になった頃は、人不足もあり、またできるだけたくさんの経験を積みたいという思いから、毎日、朝から晩までずっと病院にいました。夏休みと学会以外は病院から半径1kmよりも離れることはほぼありませんでした。救命センターの初療室と手術室とICUとを往復するだけの毎日を過ごしていました。(これはこれで勉強になりました。)

そんな生活をしていましたが、大学院生になってからは臨床に関連する時間は優先順位を下げ、極力制限しました。もちろん臨床能力が向上することなどなく、下がる一方です。しかし、大学院生活では研究に関連することのみを優先することにしました。

私の所属する京都大学大学院医学研究科の博士課程は、一般に常勤職として勤務することは禁止されていました。(附属の大学病院でも大学院生の臨床業務の従事は時間制限がありました。)

また、自分の所属していた研究室でも、「大学院の4年間は平日の80%を研究など学術に使う」という教室内のルールがありました。

これはいろんな意味で厳しいルールなのですが、4年間過ごしてみて、このルールがあったからこそ、逆にどっぷり浸かっていた臨床の毎日から、優先順位を一旦整理し、勉学や研究に集中することができました。

時間とお金

当たり前ですが、臨床医が臨床をやらなければ収入はなくなります。お金がなければ生活できません。勉強や研究のために時間を使えば生活費がなくなります。大学院に入学してすぐには、日々の授業、研究などで働く余裕もなく収入がガタ落ちし、追い込むように税金や社会保険料の支払いが迫ってきて、ろくに貯金もなかったのでガタガタブルブル、生活の困窮にビクビクしました。

家族の理解と支援

家族の支援と理解はもちろん重要です。奥さんが同業の仕事をしていたので、大学院の初年度は奥さんがしばらく生活の維持をしてくれました。毎日奥さんに感謝して暮らしました。

研究して論文を書くなどなんの経済的なメリットもありません。仕事やめて漫画を描きたい!とか仕事やめて漫才やりたいから芸人になる!っていってるのと同じようなものだと思います。子供を養うのにも家にもお金が必要なのにも関わらず、経済的に不安定な状況を容認し、大学院での研究生活を理解し、支援してくれる家族の存在は重要だと思います。

蓄積していた経験とスキル

二年生になると授業もなくなり、今までの経験やスキルを活用して救急外来や集中治療室の仕事を増やしました。遠隔地などの休日夜間の救急業務に連続で勤務することで業務を集約化し、最も効率的に収入を得て研究時間を確保する方法を考えながら働きました。

土日、夜間の当直回数が多く、一人で全科当直、ハイリスクな症例ももちろん一人で診療せざるを得ず、負担が大きかったですが、今までの臨床医としての経験を活用しながら、研究時間を確保しながらある程度の収入を確保することができました。これは社会人を経験してから博士課程に来たからこそのメリットになると思います。

まとめ

研究には時間が必要で、時間を確保するには臨床を制限しつつ、生活基盤を維持することが必要です。そのためには

・優先順位をつけて研究のための時間を確保する

・非常勤勤務で臨床経験とスキルを活用し効率よく収入を得る

・家族の理解と支援

が重要です。

これから大学院に行こうという方がおられたら参考になれば幸いです。


追記)

そんなに臨床にかける時間を制限してしまっていいのか、という気持ちもありました、というか今もあります。常に臨床の最前線で経験と勘と技術を磨いていないといけない、という考えもあると思います。それを否定するものではありませんが、一度臨床から大きく離れることによって見えなかったもの、触れたことのない考え方に触れるということも重要ではないかと思います。

10年間臨床を続けるときっとどこかで中だるみして、全力で走れなくなる気がします。自分もなんだかそんな感じで臨床で息切れしてた気がします。

そんな時には臨床から大きく外れて研究に没頭する、ひたすらに英語の教科書をよみRのプログラミングコードを眺める、なんてこともきっと重要な時間になると思います。長い医師人生のなかで、数年臨床から外れていたことのデメリットより、新しい視野と経験の方がきっと有用だ、なんて、ことを思ったりもします。

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