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臨床医から大学院へ6: 研究テーマ続

救急医である自分が大学院生活を振り返っていきます。大学院進学を考えている臨床医の参考になればと思います。

この記事では自分の大学院生活における「臨床研究のテーマの決め方」について前回に続いて紹介します。

参考)前回の記事:

前回の記事で、大学院に入って研究テーマを考える上で臨床研究の初心者がデータあつめることの難しさについて書きました。もう少し研究テーマについて書きます。

本命と保険と練習

臨床医が4年間の大学院生活で無事に論文を出版し卒業し、学位を取得するために、研究テーマには本命と保険と練習を設定するのが良いと思います。

(注:下記は岡田が勝手に定義したものです。)

本命:自分が主たる研究者として引っ張るテーマ。自分の臨床疑問に基づくゼロから育てる研究テーマ。研究計画、チーム構築、データ収集、解析、論文作成まで独立して主体的に行うテーマ。ただし4年間で到達できるか不確定というリスクがある。

保険:研究室のプロジェクトや学会主導研究に相乗りするテーマ。すでに研究が開始されていてデータも集まっている。

練習:すでにデータが利用可能な既存のデータベースを用いる研究テーマ。解析がすぐに開始でき論文作成まで1年以内に到達できそうなテーマ。

本命のテーマ

学位の記事(下参照)でも書きましたが、博士の学位に求められるものは、

「研究の着想、計画、倫理委員会の承認、研究チームのマネジメント、データの収集、加工、解析、結果の解釈と考察を行い論文として発表し、査読者に説明、納得させたことがあるので、一応、次から研究者として研究を企画、遂行できると思います」の証明

だと思っています。

で、この学位に求められるものを達成するのが本命のテーマだと思っています。

しかしこの本命のテーマで研究を開始しても4年間では論文を書くまで到達できないかもしれません。そこで、「研究の着想、計画、倫理委員会の承認、研究チームのマネジメント、データの収集」までは本命のテーマで体得することにして、他のことは保険・練習のテーマで学ぶというのが一案です。

保険のテーマ

上に書いたように「研究室のプロジェクトや学会主導研究など既に枠組みができている研究に相乗りする」が保険のテーマとなり得ます。このようなテーマは自分が本当に研究したいテーマとぴったり合致しない場合もあるかもしれません。

こうした学会主導研究や研究室のプロジェクトなど枠組みが既に決まっている研究に参加することによって、研究チームをどうやって立ち上げ運営するかというノウハウを得ることができます。また同じ研究領域のコネクションが増えてさらなる研究の契機となることもあるでしょう。データベースの構築に関与する機会などがあれば、自分の研究にその経験を応用することができると思います。また研究資金の確保などについて学ぶことができるかもしれません。

自分はこうしたノウハウは自分が主体的に実践した研究よりも研究室のプロジェクトや先輩の研究に相乗りさせていただき、諸先輩方の研究チームの運営と実践を学ぶことができました。これは貴重な機会になったと思います。

救急領域であれば、JAAM-OHCAなどの多施設院外心停止レジストリや救急医学会の熱中症、低体温症のレジストリなどに参加するのが一案です。

練習のテーマ

保険のテーマでも論文を書ける機会は限られているかもしれません。学会主導研究などに参加してもテーマを申請できるのは一年に一回とかの場合もあります。

また解析、結果をまとめて論文にするのも一朝一夕にはできません。論文を書いた経験がなければ、本命のテーマでデータが集まったとしてもなかなかスムーズに論文作成から出版まで行きつかないかもしれません。

そこで、すでに公開されている既存のデータベースを利用して論文を書くというのも一つです。救急領域では外傷学会の外傷データバンク(JTDB)や消防庁が公開している心肺蘇生統計(ウツタイン統計)などは比較的アクセスへのハードルが低いデータベースです。こうしたデータを用いて解析から論文作成までの過程を学ぶテーマを設定するのも一つです。

また、論文を書く練習としてはシステマティックレビューとメタ解析論文に挑戦するというのも一案です。システマティックレビューやメタ解析も経験者の指導者がいないと実施するのは難しいですが、学会の診療ガイドライン作成メンバーの公募に応募することによって、経験者の指導を受ける機会があるかもしれません。それ以外にはコクランのワークショップに参加するなどの方法があります。(この辺りも興味があればご連絡ください。)

その他

DPCなどの診療報酬のデータを用いた研究などについては経験がないのですが、データの加工が大変だけど、データを新規に集める必要がない研究と聞いています。こうした研究も4年間のうちに論文作成まで達成しやすいのかなと思います。(この辺りは是非経験者に聞いてみたい)

まとめ

研究テーマについて本命、保険、練習といった考え方でテーマ設定することを紹介しました。4年間で論文を書いて卒業して学位を取得するためには、こういう割り切りも必要かなと思います。

最後に「研究は真実を見極め、医学の発展のために行うものであって、論文を書くため、学位をとるための打算的な研究はするべきではない」というご意見、ご批判があります。これはごもっともではあります。しかし、現実問題、医学を飛躍的に進歩させるホームランのような研究ばかりを考えていて、結局論文もかけず、卒業もできない、その結果、若手研究者が育成されず、その研究領域が発展しないということもあるかと思います。

個人的にはまずは練習試合でもいいので、試合にでて経験を積み、その経験を生かしてさらに医学の進歩、医療の質の向上につながる研究へと発展していくことができればと思っています。

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