臨床医から大学院へ1:研究室選び
はじめに
そろそろ大学院博士課程も4年生となり、学位の審査も終わったので、今までの大学院生活を振り返ってみます(何個かシリーズで記事をかく)。これから大学院に行こうかどうか迷っている臨床医がいたら参考になれば幸いです。
これを書いている時点で筆者は卒後11年目です。卒後8年目まで救急医、集中治療医、(Acute care surgeon)として、毎日毎日、診療にあけくれていました。そして、卒後8年目から京都大学大学院医学研究科に入学しました。社会健康医学系専攻の予防医療学分野に在籍し、臨床研究者養成コースを修了、そして今年度卒業です。
この記事では、大学院に行こうか迷っている専門医をとったくらいの臨床医を主な対象として想定して、
- 大学院入学前のオープンキャンパス
- 研究室の選び方
について紹介します。
*なお筆者はいわゆるがっつり「大学医局」に入局して人事を管理されるという立場ではなく市中病院で臨床をしていたので、医局に所属する人とは違うこともあるかもしれないがご了承ください。
大学院にいこうかな
大学院に興味を持った経緯についてはまた別に書こうと思うが、端的にいうと「臨床研究をやってみたい、論文を書いてみたい」と思ったからです。
当時、京都大学大学院の社会健康医学系専攻の医療疫学分野の福原教授の「臨床研究の道標」(下参照)をよんで、京大の社会健康医学系専攻(School of Public Health: 通称 SPH)で勉強したいと思いました。京都在住なので引越しの必要もないというのもよかったです。かくして京大のWebsiteをみるとオープンキャンパスがあることを知ったので、早速行くことにしました。
いざオープンキャンパス
京都大学大学院の社会健康医学系専攻(SPH)では毎年5月ころにオープンキャンパスが行われていました。行ってみると、最初は各研究室の紹介があって、その後、希望の研究室に行って現役の大学院生や教員と情報交換をする、もしその研究室に入学を志望する場合は教授面談が行われる、、、ということも行ってから知りました。毎日病院から一歩もでない臨床医であった私は、オープンキャンパスは何をするとこか全く知らなかったのです。
本来なら、教員や現役大学院生の先輩方に質問を準備しておくべきでした。
どこの研究室でも救急の臨床研究はできるはできますが、上の名著の福原教授の医療疫学分野と心停止、蘇生領域の研究をしている石見教授の予防医療学分野の研究室を訪問しました。
博士課程?専門職学位課程?
オープンキャンパスで研究室の大学院生や教員の人と情報交換するとSPHのコースはいくつかあるようでした。
ざっくりいうと、
博士課程(4年制)、後期博士課程(3年制)、専門職学位課程(2年制、臨床研究者養成コース:MCR1年制)の4つがあります。
それぞれ得られる学位が異なります。
*詳細は京大のWebsiteを参照ください。
最初は、1年コースでさくっと臨床研究のエッセンスを勉強して臨床に戻ろうかなと思っていました。しかし、面談してくれた教員の先生は、
「これからずっと研究を続けていきたいなら博士課程がいいと思います」
とアドバイスをくれた。最終的にはいろいろと迷った結果、この言葉が印象的で、博士課程に進むことにしました。(どの課程がいいのかについてはまた別の記事で考察したいと思います。)
研究室をどうやって決めるか
オープンキャンパスで先輩方や教員の先生とお話しして、帰ってきてからいろいろ悩んだが、結局予防医療学分野に進学しようと決めました。
研究室を決めたポイントは、
・大学の先輩がいてその研究室で活躍していたこと
・自分の興味のある研究と親和性があること
・研究の地盤とデータソースがあること
でした。
今から振り返るとこの3つのポイントは自分の大学院生活に非常にプラスの方向に働いたと思います。これから研究室を探す場合は参考になるんじゃないかなと思うので、もう少し詳しく説明します。。
(以下はこれから研究室を探す人向けに情報提供です。)
・研究室の先輩の活躍
自分の研究室には大学時代の先輩がいて、たくさん論文書いていました。すごいなと思っていて、自分の短期目標としてイメージがしやすいというのがありました。また入学してみたら、すごい先輩やOB・OGがいて、その先輩方の背中を追って走り、マイルストーンとして非常に参考になりました。
これから研究室を決めるなら、行ってみようと思っている研究室の大学院生(特に3−4年生)やOB/OG、または、若手の教員が自分の短期目標に近いかを調査するといいと思います。例えば、どんな研究をしてて、どれくらい論文をかいているか、他にもアカデミックな活動をしているか、例えば、診療ガイドライン作成に関与している、留学経験がある、大きい多施設研究を手伝っている、などを調べると参考になると思います。数年後、こうしたアカデミックな活動に興味がある場合、そういう経験がある先輩の存在はとても勉強になります。
また、その研究室から大学院生がコンスタントに博士の学位を取得をして卒業できているのか重要です。学位を取得できずに単位取得退学や中退している先輩がたくさんいる場合は、十分な研究指導をうけれない、研究のサポート体制が整っていないなどの場合があり注意が必要かもしれないと思います。
・自分の興味のある研究と親和性があること
研究内容だけでなく、研究手法も研究室によってさまざまです。自分の興味のある研究や研究手法に詳しい、経験豊富な研究室がいいと思います。
例えば、もし「医療経済についての研究」をしたい、「費用対効果の研究」をしたい場合は、他の研究手法とは異なるので、医療経済の研究手法に詳しい先生や先輩がいる研究室に行くのがいいと思います。
同じように質的研究に興味がある、DPC研究に、感染症疫学に、と研究室の得意な手法は異なるので、どんな研究手法の研究が多いのかを調べておくと良いと思います。
そのためには過去数年間のその研究室の人が筆頭著者の論文の題名くらいは調べておくとよいと思います。
・研究の地盤とデータソースがあること
臨床研究をするのには、
コネ、カネ、データ
が必要です。
何よりもデータ and/orコネがないと、研究が実施できません。臨床研究では、どこか臨床のフィールドを確保してデータを収集しなければなりません。多くの場合は以前に所属していた病院にいって、元上司や元同僚の協力を得て病院との共同研究の形式でデータを収集することになると思います。
私自身は家の近所に昔の職場があり、奥さんがまだその職場で働いていたので共同研究の体制を確立するのが比較的簡単でした。しかし、自分で研究のフィールドを用意できない場合、何らかの方法で研究のためのデータを取得できるようにしないといけないのです。
もし研究室に何らかのデータベースがある場合や研究協力機関へのコネがあれば、それが研究の場につながるかもしれませんが、もしなければ、途方にくれます。(その場合はオープンデータなど一般に公開されているデータを用いて研究するなどの方法もある。)
また、お金に関しては「臨床医がアルバイトして身銭を切る」という方法もないわけではないのですが、できれば研究資金助成などに応募して手元にお金があるのが望ましいと思います。お金があれば、データ収集やデータ管理のためのアルバイトを雇うことができたり、論文投稿の英文校正費や出版費用、国際学会の交通費になります。
こうした条件は研究室選びに重要です。
まとめ
ざっくりと大学院進学のためのオープンキャンパスと研究室選びのポイントを紹介しました。
これから大学院に行ってみようと思ったら、まずはオープンキャンパスに行ってみてはと思います。。
またオープンキャンパスで研究室を訪問した際には、どんな先輩がいるのか、どんな研究をしているのか、コネ、金、データはあるのか、などを確認するとよいと思います。参考になれば、幸いです。
続く
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