結果論で振り返るJ1→J3
相模原戦での結果により、松本山雅のJ3降格が決定した。
これでJ1にいた2019シーズンから、3シーズンで2カテゴリー降格したことになる。
山雅は決して資金に恵まれたクラブではなく、残念ながらJ1への残留はまだ難易度の高すぎるミッションだと言わざるを得ない。
ただJ2の中ではトップクラスの予算を持つ中でこういった結果になってしまったことには、やはり何らかの掛け違いがあったように思う。
2019シーズンのオフ以降の山雅の動きを思い返しながら、何が失策だったのかをいま一度整理したい。
①立ち戻るスタイルを知る選手の放出
2019シーズン、反町監督の集大成となったシーズンでJ1残留を成し遂げられなかった時点で、クラブはスタイルの転換に踏み切る。
その意図としては、
•ボール保持のクオリティを高めることで防戦一方になるパターンを打開すること
•ピーキーなスタイルから脱却し普遍的なスタイルを指向することで、選手を集めやすくすること
•若い選手を育てて高値で売りながらクラブを成長させるモデルを構築すること
などがあったように思う。
その流れの中で、反町監督時代の山雅スタイルを象徴し、貢献度が高かった選手にも別れを告げてきた。
代表的な事例として、飯田、藤田、パウリーニョ、岩上あたり。
人によっては高崎、宮阪あたりもそれに含まれるかなと思う。
(ここでは上位クラブからオファーを受けて去った選手は含めない点に注意)
問題は、これによってボール保持が上手くいかなかったときに立ち戻るスタイルが失われてしまったこと。
先に名前を挙げた選手たちがいれば残留できたのかは、正直なところ分からない。
ただ彼らがいれば、少なくとも現実策への回帰は図りやすかったのではないか。
この点については、非情に徹し、極端になり過ぎたことが裏目に出たんじゃないかと思う。
②監督人選とオーダー、交代タイミング
スタイルの転換を図るにあたり、監督の人選は重要だった。
しかし「攻撃的なスタイル」という合言葉のわりに、それで結果を出した実績に乏しい人選だったことは否めない。
当時のスタイルからボールを握るスタイルへ、というのは180度ターンを決めるようなものであり、自由に人を選べるわけではない状況の中で、そもそものハードルが高過ぎたのは背景としてあったと思う。
最初にセレクトしたのは布監督。
当初志向したかったと思われるボールを握るスタイルではなかったものの、縦に早い攻撃で群馬をリーグ最多得点でのJ2昇格に導いた実績があった。
クラブ的にはその再現を期待しつつ、まずは手堅くマイナーチェンジできる人選というイメージはあったと思う。
布監督はこれまでやってこなかった4バック導入などに着手したが、橋内の離脱で最終ラインで軸になる選手が不在だったことや、超過密日程でコンディションが安定せず選手起用を固められないコロナ禍特有の状況もあり、次第に目指すべき方向を見失い、チグハグなまま下位に低迷。
若手を粘り強く起用してじっくりとチーム作りを進めようとする布監督だったが、序盤に結果が出なかったこと、上手く行かなかった時に立ち戻る場所が用意されていなかったことが大きく響いたと思う。
琉球になす術なく1−6での大敗を喫した時点で解任が決まった。
布監督でのスタイル転換が上手く行かず、緊急登用されたのは編成部長を担当していた柴田さん。
バランスを失ったチームをリスタートさせるためにハードなスタイルを取り戻すことが期待された柴田監督は、主力の怪我からの復帰という追い風もあり、終盤の復調に貢献して役割を果たした。
ただ問題はその後で、2021シーズンも引き続き指揮を取らせるという判断をしたこと。
柴田さんの緊急登用を延長したことで、まだ強化担当としての経験の浅い鐡戸さんが、編成の中心を担わざるを得なかった。
そしてよりにもよって、そのタイミングで、上位クラブからの引き抜きにより主力が大量流出(杉本、塚川、高橋諒、鈴木雄斗など)してしまった。
この編成の難易度が高過ぎたということが、次に挙げる問題に繋がってくる。
そして成績不振から2021シーズン中盤で名波監督へとバトンタッチ。
このセレクトについては、長崎の松田監督、相模原の高木監督のようなライバルたちの手堅い人選よりは、来年以降の再スタイル転換に繋げる前提で、期待値込みの人選だったのではないかと思うし、名波監督もそういったオーダーを受け取っていた節が見受けられる。
クラブの期待に応えて再びボール保持を志向したトレーニングや選手起用で立て直しを図ったものの、編成の欠陥を克服するには至らず降格。
名波監督自身が語っていたように、もう少し早く現実路線に舵を切ればという「たられば」はあるが、「それだと自分が来た意味がない」というコメントがあったように、方向転換は難しい判断だったと思われる。
そして現実路線に切り替えたと思われる終盤においても、結果的に勝つには至らなかったいう点は軽視できない。
つまり、理想と現実のどちらを選んでも難しい状況が、既にできてしまっていたのではないか。
改めて振り返ってみると、初手の失敗から何とかスタイルを元に戻すことで手を打ったが、その後の続投or交代の判断とタイミング、クラブ内の人的リソースの配分の問題はあったように思う。
そしてスタイルを戻すのか押し進めるのかで揺れに揺れ、最後には行くことも戻ることもできなくなってしまった、という感じだろうか。
③バランスを欠いた編成
2020シーズンのオフに鐡戸さんに託された編成が難易度の高い仕事であったというのは②でも書いた通り。
中心を担う選手が複数抜けたことにより、新卒採用やレンタル復帰を除いた新加入だけでも13人となった。
この人数規模だとどうしてもピンポイントというより、移籍する意思があって条件に合致する選手に手当たり次第、というようなオファーの出し方になってしまうのは想像に難くない。
そんなわけで、蓋を開けてみれば編成のアンバランスさが目立った。
ボールを握るには繋げるセンターバックが足りず、蹴るにはガツガツ走って守れるセンターハーフが足りなかった。
どちらにも振り切れない体制は、よりチームのスタイル構築を迷わせ、遅らせる原因となってしまった。
特に深刻だったのはセンターバックだったと思う。
ディフェンスリーダーとして期待された橋内、篠原の長期離脱は運がなかったとしか言いようがないが、2年連続で軸になるCBが不在の状況が続き、それに対して効果的な手を打てなかった。
この2年、橋内1枚がいるだけで守備をある程度安定させられていたことを考えれば、最も補強すべきポイントはここではなかったか。
他にも間受けできるアタッカーや、前線でボールを収められるターゲットマンが不足し、一部選手への負荷が上がり過ぎてしまった。
バランスの歪さはじわじわと響き、後ろから効果的に繋げないからWBは狙われ続けてイップスに陥り、ボールが出てこないからアタッカーの動き出しは減っていった。
そういった負の連鎖の始まりが、編成のアンバランスさにあったと思う。
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と、これまでのことを振り返ってきた。
ただここで重要なのは、それぞれの判断をした時点でこの展開を予期できた人間がどれだけいたのか、ということだ。
実際に「山雅 降格」「山雅 残留争い」のようなワードでTwitterのuntil検索を掛けてみたが、シーズン開始までにこれほどの苦戦を見通したツイートはほぼ見当たらず、むしろ編成に対する本気度をポジティブに捉える意見の方が多かった。
終わった後で「あれが悪かったのでは」というのはいくらでも言える。
だが、始まる前に予期するのは難しい。
これはプロも同じで、J1の上位に常にいるようなクラブでも、読みを外して低迷するケースは枚挙にいとまがない。
監督とスタイルの親和性、選手同士のシナジー、離脱などのアクシデント、チーム状況から受ける影響、ライバルが作り出すリーグの環境。
計画通りに行くことの方が少ないし、ホップステップの段階で選手が一気に抜けるなんてこともある。
強化は不確定要素がかなり多く、難しいことをやっているという自覚は必要だろう。
しかし、だからこそ細部まで備えることが求められる。
この大失敗を踏まえて、繰り返さないために何ができるか。
降格が決まって1日で出てくる言葉なんかより、大事なのはそこだと考えている。
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