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仕事の役に立った学問③ 経済学(何でも数理モデルにする力業)

自分の20数年の職業経験において、大学で学んだことが役立ったものを紹介するシリーズです。第3弾は経済学です。

私が卒業したマイナーな人文科学系の学部とは違って、経済学部はメジャーな学部なので、大学で経済学を学んだ人は多いと思います。私は30歳を過ぎてから、夜間大学院で学びました。

経済学を学んでない人からすると、実学っぽいので仕事に役立つのは当然だろうと思われるかもしれません。でも、経済学の授業で学ぶ内容は、表面的にはビジネスとほど遠いです。

仕事をしていて、IS-LM分析とか全く使いません。売上分析をするときに、計量経済モデルを作って、変数の独立性や誤差項を吟味することもありません。

そんなわけで、マクロ金融や一部のデータ解析に関わる人以外は、経済学を直接使わない仕事をしていると思います。

でも、経済学は基本的には仕事に役立つはずです。教科書や授業に出てくる理論そのものというより、その背後にある演繹的にモデルを作る力が役立つのです。

そんな経済学が具体的にどのように仕事に役立つかを書いてみます。

どんなことを学んだのか

私が経済学に興味を持ったのは、ある大学の公開講座で「ソロー・パラドクス」を知ったのがきっかけです。その後、その時の講師の書籍を読みあさり、経済学の定番の教科書(学部1-2年レベル)を一通り読みました。

でも、本を読むだけだと物足りなくなって、30代前半に法政大学・大学院の経済学研究科に入学しました。法政を選んだのは、夜間大学院で経済学研究科があるのが、法政の他にほぼなかったのが理由です(MBAの夜間大学院は山ほどあるのに)。

法政の大学院では、改めて経済学の基礎を学び、計量経済学の授業をいくつか取りました。大学院なので少人数授業が基本でした。

教科書や論文を読んで、経済学のモデルや理論についての見解を発表して、ディスカッションする。あるテーマが与えられ、自分で計量モデルを作って、分析を行ってみる。

大学院なので、自分の研究計画を見直して、先生や学生とレビューする授業もありました。自分より10歳くらい若い学生(年下の博士課程の先輩もいる!)と一緒に勉強し、大学の先生と議論するのは、とても楽しかったです。

ただ、ある事情で通学を続けられなくなり、2年目に中退しました。でも、その後も興味のある経済学の本があると読んでいます。

大学で経済学の教育を受けたのは限定的ですが、なんだかんだで、15年くらいは経済学の勉強を続けています独学+大学院中退でも、経済学部卒の人と同等の勉強をしていると自負しています。

仕事にどのように役立つのか?

会社の成長は利益やキャッシュの成長です。これは数値化できます。それを企業価値という概念を介して、市場の自由取引で決めているのが株価です。

利益を生むための活動も数値化できます。販売を行う、モノを仕入れる、社員を増減する、設備投資する、一人当たりの生産量を工夫で増やす、など、色々な活動が数字に紐づきます。

一方、経済学で研究しているのは、人間の経済活動であり、社会の富の成長です。経済学が凄いのは、経済活動や富というものを力技でも数値化(変数化)します。

そして、その数値(変数)を用いて、経済全体を表すモデル(数式)を作ったり、個人や企業の活動を表すモデルを作ります

例えば、ソローの経済成長理論では、GDPの成長を「GDP成長率=α×労働力成長率+(1−α)×資本成長率+全要素生産性成長率」という形でモデル化しています。

この数式は、労働力(人口)が増えるか、資本(道路とか)が増えるか、生産性が増えれば、経済は成長するということを言っています。

社会全体の経済活動はこんなにシンプルではありません。それをわかった上で、ある意味で力技で、経済成長をシンプルなモデルにしたのが、ソローモデルです。

また、これはあくまで、国家レベルのマクロ経済のモデルです。企業の経営の話ではありません。

でも、このモデルの考え方や導出ロジックを知っていれば、同じように力技で企業の成長をモデル化して、分析することができるのです。

例えば、製造業であれば、会社の利益を成長させるには、社員を増やすか、生産設備などに投資するか、技術開発で全要素生産性を上げればよい、と置き換えられます。

ソフトウェア産業であれば、投資するのがソフト資産やサーバなどになります。

全要素生産性を上げるのは、プロセス改革やITシステム(いわゆるDX)ということでも可能です。

このようにソローモデルを使って考えていくと、会社の経営を良くするには、やることは3つしかないことがわかります。社員を増やす(増えなければ残業する)、何らかの投資を行う、仕事のやり方を高度化する、の3つです。

3つに絞れたら、自社の強みや弱みと照らし合わせて、どこに手を打つかという方策の検討ができます。方策が決まれば、後は実行すればいいだけになります。

本来は会社の成長するために要素は、複雑に絡み合っていて、こんなにシンプルではありません。そうした複雑な要素を解きほぐして行く時に、経済学のソローモデルが参考になるのです。

他にも、入札とかの駆け引きはゲーム理論のモデルが参考になったり、社員の待遇の増減幅の検討に行動経済学のモデルが参考になったりします

このように、経済学のモデルを学び、自分でモデルを作る訓練をしたことは、複雑な仕事へのアプローチを検討する際に、とても役に立ちました

まとめ

経済学を学ぶと、抽象的な理論やモデル化した数式に、たくさん触れます。その理論やモデルは、そのままでは仕事に使えません。

でも、自分の直面する仕事に照らして、解釈して組み直していくと、実は仕事を進める上でのアプローチのヒントが山ほど見えてくるのです。

経済学は多くの大学で授業がありますし、それどころか山ほど本が出ています。学ぶ機会はたくさんありますので、是非、経済学を一度は学んでみることをお勧めします。



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