見出し画像

大学入試の早慶本命率は高校の入学難易度に対して負の相関をする

子供の高校受験の際に、高校の難関大への進学者数を分析したことがあります。分析対象の難関大は、東大・京大、一橋大・東工大、国公立医学部医学科、地方旧帝大(北海道・東北・名古屋・大阪・九州)、早稲田大・慶應大です。これまでの記事で引用しているイブリースさんの定義で言うところの、Lv3以上の大学群です。

その時に苦労したのが、進学者数の推定です。多くの高校は大学の合格者数を公表していますが、進学者数は公表していません。難関国公立大は合格者と進学者はほぼ一致するのですが、併願受験の多い私立大は合格者>進学者であり、合格者数だけではその高校の学力レベルはわかりません。

早慶への進学者数を推定するデータがないかと探した中で見つけたのが、大学通信が行っている早慶上理(早稲田・慶應・上智・東京理科)の現役合格者の本命率の調査結果です。「本命率=進学者÷合格者」です。

あくまで現役合格者の本命率ですが、この一般傾向がわかれば、この調査にない高校でも、難関大への進学者数を推定できます。そのため、当時の進学者数の分析はここから推定した早慶進学者数を用いて、気になる高校の進学状況を比較していました。

この本命率の推定モデルはしばらく使う必要なかったのですが、別の分析をする中で、難関大の進学者数の推定値を用いる必要が出てきました。せっかく作った推定モデルなので、今後の分析の前提として、今回は高校の入学難易度と早慶本命率の関係について、改めて整理してみます。

0. まとめ

  • 大学入試において、高校の早慶本命率(=進学者÷合格者)は、その高校の入学試験時の駿台中学生テスト・確実圏偏差値に負の1次相関をしている。ただし、相関係数=0.4624であり、強い相関ではない。

  • 駿台中学生テスト・確実圏偏差値が10高くなると、本命率は15%下がる。

  • 私立高校と国公立高校で1次係数(傾き)はほぼ同じだが、切片が私立>国公立であり、私立高校の早慶本命率は国公立よりも6〜7%高い。

  • 早慶の主要学部の本命率の加重平均は約37%である(約3人に2人が併願合格で辞退)。回帰式の逆関数から、この本命率となる確実圏偏差値は60.5と推定される。このことから、高校入試時点でみた大学入試の早慶のレベルは、駿台中学生テストの確実圏偏差値で60.5に相当する、と考えられる。

1. データ整備

早慶の本命率ですが、大学通信が早慶上理の現役進学者の調査を行っており、朝日新聞 EduAの会員になると確認できます(以前は会員でなくても確認できました)。私が過去に分析したのが2022年度入試結果だったので、今回もその時のデータを用います。

一方、高校の入試難易度は駿台中学生テストの合格ラインの偏差値を用います。全国の主要進学校の合格ラインは、確実圏(80%)、可能圏(60%)の2種類が一覧表で公開されています。一覧表にない高校も、一定レベル以上の高校であれば、「もしプラス」から検索することできます。私が2022年冬に調べた時点では、1,126校のデータを入手できました。男女別に設定されていることもありますが、その場合は単純平均を用いることにします。

これら2つが分析データになるのですが、高校募集をしていない一貫校は、本命率のデータがあっても、高校入試の合格ラインが設定されていません。逆に高校入試の合格ラインがあっても、本命率のデータが掲載されていない高校もあります。

当時は簡易な分析だったので、このどちらにもデータがある数十校を抽出したサンプルで分析をしていました。今回もその時の分析対象を基本として、多少手を入れたもので分析します。具体的には、以下の28校で今回の分析対象(標本)です。

  1. 東京都立の進学指導重点校
    日比谷、西、国立、八王子東、戸山、青山、立川

  2. 東京都立の進学指導特別推進校
    小山台、駒場、新宿、町田、国分寺、小松川

  3. 東京の国立附属高校
    学芸大附属、お茶大附属、筑波大附属、筑波大駒場

  4. 東京の私立進学校
    開成、桐朋、城北、巣鴨、広尾学園、國學院久我山、淑徳、錦城、成蹊、江戸川女子、拓大第一、桐朋女子、東京都市大等々力、東京農大第一、明治学院、桜美林、朋優学院
    ※駿台中学テスト確実圏偏差値45以上、早慶・ICU・MARCH附属除く

  5. 神奈川・千葉・埼玉公立上位校
    横浜翠嵐、船橋(県立)、浦和、大宮

  6. 千葉の私立進学校
    渋谷幕張、市川

  7. 愛知県の進学校
    明和、千種、向陽、岡崎、時習館、滝、名古屋
    ※筆者の出身県なので土地勘あるためアンテナ的に追加

2. 分析結果

まずは、確実圏偏差値と早慶本命率の散布図です。点が分析対象の高校となり、X=確実圏偏差値、Y=早慶本命率でプロットされています。

一番右下の確実圏偏差値72くらいにあるが筑波大駒場高校、その隣の69くらいにあるのが開成高校です。偏差値60代には、公立トップ校や国立附属・私立の難関校が並んでいます。そして、そこから左に少し離れた偏差値55前後に、公立・私立の2〜3番手校がボリュームゾーンを形成しています。

グラフを見ると、ぱっと見た感じでも右下に向かって分布していることがわかります。回帰式は何パターンか試しましたが、1次回帰が最も相関係数が高かったので、1次回帰を採用しています。ただ、見た目ほど相関係数は高くなく、0.4624です。

回帰式を見ると、確実圏偏差値50で本命率は55%前後であるのが、偏差値60では本命率は40%を下回っています。1次回帰係数が-0.159(-16%)なので、偏差値が10上がると本命率は16下がることなります。

次に可能圏の分布図です。X軸のデータが違うだけです。

グラフ2

可能圏の分布は確実圏の分布を左に偏差値5ほどシフトした形ですが、分布が少し疎らになった印象です。可能圏の相関係数は0.4086と確実圏より下がっています。なぜかはわかりませんが、早慶本命率は確実圏偏差値で見る方が良さそうです。

次に分布図を国公立と私立に分解してみます。相関係数が高い確実圏で実施します。

グラフ3

オレンジが私立、グリーンが国公立でそれぞれ1次相関の回帰グラフも記載しています。直線の回帰グラフは見事に並行であり、確実圏偏差値の上昇に対する本命率の下落の傾向は、国公立と私立でほぼ差がないことがわかります。

一方、私立が国公立の上にある(回帰式の切片が大きい)のが特徴的です。私立と国公立の差は6〜7%です。私立高校の方が国公立高校よりも早慶に合格した時に進学する確率が高いことを意味しています。ここから、私立高校の方が私立大学志向が強く、国公立高校の方が国公立大学志向が強いのだろうと推察できます。

3. 考察

これまでの分析で、高校の駿台中学生テストの合格ラインに対して、大学入試での早慶の本命率は負の相関をすることがわかりました。言い換えれば、「入学難易度の高い高校ほど、大学入試では早慶に進学しない」とも言えます。

そうなると、どこが早慶進学の分岐点なのか知りたくなります。過去に「早慶入学者は何人が東大に合格できるのか?」という記事を書いた際に、早慶の合格者を集計していました。全ての学部ではないですが、過半数は対象に分析しています。

この時の分析データを見ると、入学者(=定員)7,145人に対して、19,187人に合格を出していました。本命率を計算すると、7,145÷19,187=36.8%です。この数字が一つの基準になります。

本命率がこれより低い高校は辞退率が高いことになるので、それは早慶以外に本命合格していることになります。つまり、早慶よりも上の東京一工を志望する生徒が多いことになります。

逆に、本命率がこれより低い高校は辞退率が低いことになるので、早慶が本命である受験生が多いことになります。逆に見れば、早慶にチャレンジ受験しても、MARCH以下に進学する生徒が多いことになります。

こう考えると、本命率36.8%となる駿台中学生テストの偏差値が、早慶を本命とする層の学力レベルとも言えます。回帰式から逆関数を作って計算すると、確実圏偏差値60.5となります。

表1

このことから、高校入試時点でみた大学入試の早慶のレベルは、駿台中学生テストの確実圏偏差値で60.5に相当する、と言えます。確実圏偏差値60.5前後の高校は、今回の分析対象だと、都立西(62.2)、お茶大附属(62.1)、横浜翠嵐(60.8)、浦和(58.5)、大宮(59.3)です。分析対象外では、首都圏以外も見ると、金沢泉丘(58.5)、東海(59.0)、堀川(60.5)、広島大附属(61.4)、愛光(62.4)、熊本(60.3)などが該当します。

4. 最後に

今回の分析で、大学入試における早慶本命率は高校の駿台中学生テスト合格ラインに負の相関をすることがわかり、さらに1次回帰式も算定しました。この回帰式を用いることで、高校の難関大学への進学率を推定でき、高校間の学力レベルの比較が可能になります。

また、高校入試時点で見た大学入試の早慶のレベルも評価することができました(駿台中学生テスト確実圏偏差値60.5に相当)。ここはもう少し分析が必要な印象はありますが、検討を発展させると、高校入試と大学入試での早慶の難易度対比が可能になります。

次は別の観点で早慶レベルの高校を分析してみます。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?