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仕事に役立つSF思考③ 非連続仮説から人間集団の反応を考察 小松左京の作品群

早川書房の「世界のリーダーはSFを読んでいる」にあやかって、「日本企業のミドルリーダーもSFを読んでいる」というシリーズで、仕事の役に立ったSF的な考え方(SF思考)を紹介しています。

第3弾は「非連続仮説から人間集団の反応を考察」する思考法です。紹介するのは、小松左京の作品群です。

作品群としたのは、同じような構想で描かれた作品が複数あるためです。その構想は、「ある日、想定外の天変地異が発生したら、人間集団(社会)はどう反応するか」というものです。例えば以下のような作品が該当します。

  • 復活の日(1964年)
    未知の致死性のウイルスが世界中に蔓延。残されたのは、南極基地のメンバーのみ。人々はウイルスにどう抗うのか。残されたメンバーはその先にどうするのか。

  • 日本沈没(1973年)
    日本列島が火山活動で引き裂かれて、水面下に沈むことが判明した。沈没までの期間は2年。科学者、政治家、国民はどう動くのか。

  • こちらニッポン(1976年)
    ある朝に目覚めると、自分の周囲の人間が消えていた。電力や交通機関など無数の人間が支えていた社会インフラが機能しなくなる。日本各地に「消え残った」人々は、社会集団としてどう行動していくのか。

  • 首都消失(1983年)
    東京周辺が円状の雲に覆われて消失した。国家行政の中枢を突然消失した日本国民は、国際関係もある中で、どう対応していくのか。

作品ごとに天変地異の設定は異なります。しかし、日常の延長にない非連続な外部変化に対して、人間がどう動くかを描いている点は共通してます。

これらの作品を読んで培われたSF思考は、「非連続仮説から人間集団の反応を考察する」というものです。このSF思考は仕事で役立ってきました。どのように役立つのかを具体的に説明します。

非連続な変化を仮説設定する

以前にも書きましたが、成長した企業は強固なビジネスモデルを持っています。しかしながら、そのビジネスモデルは永続するわけではありません

ハードウェア商品を製造販売してきた企業で、今の商品の競争力がなくなることがあります。請負でソフトウエア開発をやっていた企業で、顧客が特注開発でなく、パッケージソフトに切り替えることがあります。

そうした際には、これまでとは違う仕事をやらなくてはなりません。今の延長ではなく、あるべきビジネスの姿を思い描くことが求められます。新商品の開発、新たな顧客の開拓、経営の変革などです。

これを検討する時には、天変地異ほど飛躍はしなくても、自分の仕事の日常からかけ離れた発想を行い、新たなビジネスや経営変革の仮説を関係者が理解できる形で示す必要があります

そうした発想の飛躍と仮説の具現化に、小松左京の小説群で身につけたSF思考が役立ちました。SFを読むことで、この非連続な発想の訓練ができるのです。

企業活動=人間集団の活動の反応を考察する

それでは、新たなビジネスや経営変革の仮説を描いたとします。そして、その仮説を実行するには、多くの関係者の協力が必要になります。

ところが、関係者が直ちに協力して、実行に移してくれるわけではありません。中には反対する人も出てきます。無関心な人も出てきます。

企業活動は人間集団の活動であり、人間集団の活動を変えるのは一筋縄ではいきません。それも非連続な変化であれば尚更です。

ビジネスモデルを変えて、新たなビジネスをスタートする。これまでと違う経営管理を行う。人間集団である企業でこれを実行に落とし込むには、ハードルがあります。

そのハードルを乗り越える際に、小松左京のSF小説で身につけたSF思考が役に立ちました。

日本が沈没する。首都が消失する。そんな天変地異に社会=人間集団がどう反応していくのか。

もちろん、小松左京のSF小説に描かれた内容はフィクションです。でも、そうしたSF小説を読むことで、非連続変化に対して、人間集団の行動を想定する思考訓練ができるのです。

仮説を仮説で終わらせずに、企業活動として実行に落とし込む。その過程では、関係者の反応を想定しながら、様々な手立てを打っていく必要があります。そうした際に、SF思考が役立つのです。

まとめ

天変地異に対応する人間の活動を描いているのが、小松左京の一連のSF作品です。こうした作品を読むことで、「非連続仮説から人間集団の反応を考察」するSF思考が身につきます。

このSF思考は、新たなビジネスや経営変革などの非連続仮説を設定し、関係者の反応を想定して、企業活動として実行に落とし込む際に、非常に役立ちました。

2011年の東日本大震災、最近のコロナ蔓延など、小松左京が「日本沈没」や「復活の日」で設定したような、想定外の非連続な事態が起こっています。

こうした時代だからこそ、小松左京の作品が注目されて、多くの方が彼のSF的な思考法に触れることを、ファンとしては願っています。


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