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喫茶店と本屋と銭湯。高円寺・小杉湯に感じる、かつての「ゆるいコミュニティの場」。

なんだか最近銭湯が気になる。
そう思ったのは、高円寺の小杉湯という存在を知ってからだった。それまでも、京都の「梅湯」や長野・松本の「菊の湯」など、後継者ではない若者が銭湯を継いだみたいな事例を聞いたりしていたので気になってはいたが、メディアで代表の平松佑介さんの記事を見かけてから銭湯の印象が変わった。一部の喫茶店や本屋が「コミュニティの場」になろうとしている流れと同じものを小杉湯に感じ、そこから気になるようになった。

言うまでもなく、銭湯は年々減っている。

出典:東京商工リサーチ

1968年がピークとなっているが、当時は家に風呂がない家庭もあったためで、いまや風呂なしの家は滅多にないことを考えるとある種当たり前ではある。
一方で、サウナがここ数年長らくブームであることを考えると、銭湯はただ死を待つ業界ではないとも思う。

「小杉湯」が面白いと思ったのは、家業を継いだ平松さんが銭湯をエリアマーケティングの観点から体験価値コミュニティを重視した点だと思う。銭湯周辺の生活者をメインターゲットととし、地域のイベント会場にしたり、となりに持っている土地をカフェやコワーキングスペースにしたり、銭湯自体を企業コラボのプラットフォームとしたりと、周辺住人がファンとなり、日常的に通える場所に育てている。
しかも、銭湯はかつて生活インフラであったことから公衆浴場条例で地域ごとに値段が決まっているので、東京だと520円で入れる。「小杉湯」では、価格帯と体験価値の面からスターバックスをベンチマークに置いているらしいが、たしかに銭湯を体験施設として捉えると520円はだいぶ安い。

「小杉湯」は実際に行ってみると、懐かしい銭湯の建物に風情を感じつつ、掃除が行き渡り綺麗だ。利用者も子ども連れの親子から仕事終わりのビジネスマン、御年配まで幅広く賑わっていて、高円寺でありながら古き良き地域の「コミュニティの場」のようだった。
定期的に通って風呂上がりに一杯やりたくなる、地元の銭湯を改めて探して通いたい気持ちを起こさせる場所だった。

自分は地域と産業とその周辺を取り巻く文化が好きなため、その文化の中心となっているような「場」にも興味がある。
オンラインが発達し、リアルな店舗がどんどん淘汰されているが、一方でオフラインでしかできない体験が店舗にはある。斜陽産業と呼ばれる業種の店舗も、体験価値をつけることで特別な場所になっているお店はある。
かつて地域の住民のゆるい交流の場だった喫茶店、あるいは本屋(異論あるかもしれないが、ぷらっと時間を潰せる街の本屋と考えれば同カテゴリのなかに入ると思っている)は「コミュニティの場」として体験価値をつけることで特別な場所として生き残りつつある。
喫茶店も本屋も客同士が交流することが前提の場では本来ないが、生活圏内の馴染みのお店に馴染みの客が来訪する構造上、適度な「コミュニティの場」になるポテンシャルを持っている。
喫茶店で言えば西国分寺のクルミドコーヒー、本屋で言えば下北沢のB&Bがそのような場として機能していると感じる。

喫茶店も本屋も生活に必需な場所ではないが、あるとほっとする日常の息抜きの場でもある。その点で銭湯も同じだ。しかも銭湯はかつて生活インフラだったことから日本全国津々浦々にある(あるいはあった)。つまりどの地域でも「コミュニティの場」として活用できる可能性があるということだ。

地域活性、地域活性といってもモノ・カネの資源が不足している地域は多い。そのときに大事なのは、ヒトや場所である。新たにカネをかけて箱物を作るのが場所を作る全てではない。
既存の場所にどう新しい価値をつけていくか。たとえばその一つが銭湯なのだと「小杉湯」は教えてくれる。

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