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夏目葉大賞 2022上半期編

 2021年末に、その年にわたしが読んだ各ジャンルの中で最も優れていた本を表彰する〈夏目葉大賞〉という記事を作りましたが、今回はその2022年上半期編です。
 年末に通期での大賞を決めたいと思っていますので、暫定版としてとらえていただければ幸いです。なお、2021年版は以下リンク参照。

ベストミステリ賞

『死まで139歩』(ポール・アルテ著 早川書房) 
 
ミステリ作家の殊能将之が敬愛するフランスの作家、ポール・アルテによる作品。殊能氏をしてアルテの最高傑作と評価するのが本作です。
 ロンドンを中心とした舞台にしゃがれ声の謎の男、屋敷に残された死体とおびただしい靴…などなど、むせかえるほどの古色蒼然たる本格ミステリぶりに圧倒されます。
 そしてなんといってもラストは必読! わたしは作者のポール・アルテの生真面目ぶりにいたく感動した次第です。


ベストSF賞

『ロボットには尻尾がない』(ヘンリー・カットナー著 竹書房文庫)
 酔えば天才科学者の主人公、ギャロウェイ・ギャラガーと彼が作るロボットが巻き起こすドタバタを描いた短編集です。
 泥酔しているうちに彼が作り上げた発明品とそれがもたらす騒動、しかし主人公のギャロウェイはなぜそんな発明をしたのかを全く覚えていない。なぜなら酩酊していたから・・・
 なぜそんな発明をしたのか、を解き明かすという点ではミステリ的な要素もあり、そして奇想天外なユーモアもあり。SFファンだけでなく、ミステリやユーモア小説のファンにも広くお勧めできる名作です。


ベストノンフィクション賞

『べリングキャット』(エリオット・ヒギンズ著 筑摩書房)
 同名の調査集団の成り立ちと活動について、創設者自らが書いた一冊。インターネットに残された画像、動画を手掛かりにして権力者のウソを暴いていくという調査手法は、ネットサーフィンによる素人探偵という印象を与えますが、シリアの戦争犯罪、ロシアによる暗殺といった国際的な大問題を暴くという成果をあげているのです。
 2022年に起こったロシアによるウクライナ侵攻においても、その活動が大きく注目されているべリングキャットを知るという意味でも必読です。


ベスト海外文学賞

 『リャマサーレス短編集』(フリオ・リャマサーレス著 河出書房新社)
 
スペインの作家による短篇集は人生の皮肉を強調した作風を感じさせる一冊。
 描かれるのは過酷な、あるいは悲惨な状況に陥った登場人物たちが、その困難を毒に満ちたユーモアによって受け流す(あるいは受け止める)というありさまです。とくにそれが顕著なのが冒頭に置かれた「冷蔵庫の中の七面鳥の死体」です。まるで北野武の『アウトレイジ』のワンシーンを思わせるような、残酷で、けれども笑ってしまうような描写には読者を戦慄させずにはおきません。この短編、河出書房新社のサイトで無料で読めますので、ぜひ一度味わってみてください。


ベスト日本文学賞

『ヒカリ文集』(松浦理恵子著 講談社)
 
同じ劇団に所属していた6人それぞれが、〈ヒカリ〉という女性にまつわる文章を書くという小説。それぞれの視点から語られることで〈ヒカリ〉という存在が多面的、重層的に理解されるようで、決して小説はそうした方に向かうわけではない、というような企みに満ちた一冊です。
 本作については、ちょっとした文章も書いているのでこちらも是非読んでみてください!

まとめ

 以上、5つの部門に分けてご紹介いたしました。他にも面白い本はいろいろと読みましたので、またどこかでご紹介の機会を作りたいですね。
 年末には下半期に読んだものも含めて年間ベストを発表したいと思います。それではまた年末にお会いしましょう!

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