見出し画像

ビジネスモデルと同じように、アカデミアモデルも少しずつ変わっていくんだろう

バイオアーカイブ(bioRxiv)と呼ばれるレポジトリがある。
論文になる前の草稿をネット上で公開できる場所のことだ。
内容に興味のある他の研究者は、いち早く研究結果を読めるし、出す側はいち早くレスポンスをもらえる。
物理学の分野などでは以前からこの仕組が使われていたようだけれど、生物学ではそれほどメジャーではない。

普通は、学術雑誌に投稿し、同じ分野の研究者からダメ出し(査読)を受ける。
追加実験をしたり原稿を訂正したりしてようやく、正式に論文は受理される。
bioRxivに投稿した場合でもいずれは学術雑誌に投稿するから、最終目的地は同じで、その前に完成されていない原稿を公開している点が異なる。
少々、雑な例えかもしれないが、bioRxivは小説投稿サイトのようなものだ。
誰かの許可を得なくても自由に載せられるし、取り下げたり内容を改訂することも可能だ。

学術雑誌に送った場合、査読は編集者の選んだ限られた人数(通常は二人から四人)の研究者によって行われる。
一方、bioRxivであれば興味のある人には誰でも見てもらえる。
どちらのやり方にもそれぞれ利点とリスクがある。
bioRxivはよりオープンな場所で議論できるところが長所だけれど、査読を経ないと正式な学術的成果と認められない。
bioRxivに公開してネタをパクられ、先に学術雑誌に掲載されるようなことがあったら大変だ。
だから、積極的に使う人は多くない。
しかしもちろん例外はある。

何かしらの生物現象を研究するわけではなく、それらを明らかにするための実験技術を開発している研究者が少なくない数いて、そういった分野をメソドロジーと呼ぶ。
メソドロジーの人たちにとっては、論文も大切だけれど自分たちの開発した技術が広く使われることこそ実績で、分野での存在感を高められる。
だから、積極的に開発した技術を公開する。
bioRxivだけではなく、研究室のサイトに詳しい実験方法を載せたり、学会で積極的に発表したりして宣伝する。
実際に使ってもらって、使用した人から質問を受けたり、クレームを投げつけられたり、新しい提案を出してもらったりすると、開発者も技術を改善しやすい。

プログラミング業界では、オープンソースのライブラリーがたくさん公開されているけれど、似たようなものだと思う。
なるべく便利な道具を作って、なるべく多くの人に使ってもらう。
アカデミアは利益を求めなくて良いので秘匿する必要はなく、すなわち公開しない理由はない。
本当は、メソドロジー以外の研究もオープンにして、様々な意見を集合して内容を高めたほうが研究は速く進展するのかもしれない。
実際に学会などでは、論文になる前のデータを話して意見をもらったり反応を見たりする。
でもこれは、データを公開しても追いつかれない自信があるか、それとも他にやる人がいないマイナーな研究テーマのどちらかだ。
もし、第一発見者の認定が論文発表以外でも行われるのならば、もっと競争が激しい研究分野でも、よりデータをオープンにできるかもしれない。
bioRxivも発見の主張の根拠として扱われるらしいので、もしかしたら今の体制でも可能なのかもしれない。
だとしたらあとは、生物系研究者全体の文化や習慣次第だ。
でもそれこそが、最も変わりにくく高い壁だと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?