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褒める言葉と土器

突発的に縄文土器の話をする。
科学の話でも美術の話でも歴史の話でもない。好きなものの話だ。

数年前に初めて現物を見た。
よっぽど驚いたのか、かなり鮮明な記憶として残っている。
教科書の写真でずっと前から知っていたはずなのに、福岡の博物館に収められた見事な形状の土器に強く心惹かれた。
火焔型土器と説明書きにある。
もちろん他のタイプも縄文土器も好きだ。
明らかに実用を超えたデザイン性。
基本デザインは壺で、食べのもを煮たり焼いたり、あるいは保存したりするのに向いていそうだ。だけど、燃え上がる炎を模した縁の形状は別になくていいだろう。
直接生存に関わらないことにコストを払っていたのだから、彼らは文化を持っていた。
彼らの作り出す土器のデザインは、野放図であって繊細だし、動的であると同時に静謐だ。
部分的な形は非対称なのに全体は対称として調和しているし、抽象的で具体的で、情熱と洗練を同時に感じさせる。
平面的な要素を持ちつつ立体的に展開されており、記号的なのに緻密な具象としてそこに存在していた。
全てのアンビバレントな要素が、数千年前の人の手でこねられた粘土に宿る。
美術館で見た他のどの焼き物よりもわたしの心を捉えた。
素焼きの土器なので、釉薬による表面の光沢やら色彩という点では後代の素晴らしい陶磁器に劣るけれど、それを考慮に入れても縄文土器が好きだ。
見れば見るほど興奮して口から変な声が漏れる。

わたしには潔いほどに美術の知識がないので、感動の一部もうまく書き表せられない。
けなすより褒める方がむずかしいのは承知しているけれど、それにしても言葉を持たない。
二回目に行った時には写真撮影が許されていたので、ひたすら写真を撮った。
火焔型土器の写真を撮りながら、あまりのビジュアルのエモさに心の中で「火焔たん尊い」というフレーズがループしていた。
もう萌えキャラ化するくらいしか、縄文式土器に対する気持ちを言い表わす方法を思いつかない。
可愛いくて尊い。完成されたキャラクターデザインだと思う。

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