見出し画像

草野球的な意味での草トークに必要なもの

『いんよう!』というPodcast番組を、ヤンデル先生とはじめて2年ほどたつ。
始める2ヶ月前、学会で札幌を訪れた。
会が終わった夜、ヤンデル先生と一緒に狸小路にある居酒屋へ行き、「ラジオやらない?」と言ったことは覚えているが、始めた理由はよく思い出せない。
ヤンデル先生は理由も内容も聞かず、やりましょうとふたつ返事で答えた。
その様子は忘れていない。

始めた理由を記憶していないのだから、番組の方向性や雰囲気をどうしたかったのかも当然あやふやになってしまった。
ただ、日常のふとしたことを話す雑談ではなく、突っ込んだ面倒な内容を雑談したいと考えていたのだと思う。
そういうややこしいことに付き合ってくれる人はかぎられる。
だから自分より面倒そうなヤンデル先生に声をかけてみようと思った。
彼が放っておくとずっと話し続ける部類の人間だと知っていたので、ふたりでラジオをやることに不安はなかった。
自分がうまく話せなくてもきっと番組として成立すると思っていた。

100回ほどやってみた現時点で、少なくとも『いんよう!』においては、自分が何を理想の音声コンテンツと考えているのか見えてきた。

1, 複雑な話題を取り上げるときは、真正面から説明する。
専門的な、あるいは話が入り組んでいる話題は、当然、説明に苦労する。
それでも取り上げるのであれば、筋にそって話し進めるようにしたい。

イメージや雰囲気に寄った説明をしない。
ストレートな説明をせずに、比喩だけで押し切らない。
分かった気にさせる説明をしない。
説明を省略するときは、そう明言した上で結論だけ述べる。

もしこれらを完璧に行えるのであれば、面白いかどうかは保証できないが、分かったような分かっていないようなモヤモヤした気持ちにはならない。
完璧にできるのなら、だけれど。
つながっているのかどうか微妙な理屈や、比喩的な表現を積み上げて説明をされるくらいなら、「詳細は省きますがとになくこうなります」と言われたほうが個人的には気持ちが良い。

2, 説明は短く。
人間の話を聞く集中力なんて、5分もないと思う。
実際、私は、興味の持てない学会発表を聞いている最中よく記憶がとぶ。
数分に一度、笑いや、驚き、感心を誘う言葉を混ぜ入れつつ話せれば最高だけれど、それはもうプロってものでしょう。
難しくてもややこしくてもいいので、せめて一通りの説明は短く。
一度そのあたりで区切って脱線したり、まったく別のアプローチから説明したりできるといいなと思う。

3, 同じ話を二度しない。
酔っぱらったときの目標のようだが、数秒以上、無音の許されない収録中は、わりと同じ話題をぐるぐるしてしまう。
まったく同じ話を時間を置いてしてしまうのではなく、話題が同じところで、少しずつ表現や語彙を変えながらとどまってしまう。
話はすすまず新しい刺激もなく、ようはグダってしまう。
グダりつつ面白いコンテンツはもちろんある。
しかしあれは、すべり笑いと同じくらい難しい高度なテクニックなので素人がやると99%はつまらない。

4, 余計なメタ発言を控える。
「ちょっと今、緊張してますが」
「今、すべってましたけど」
「流れ的にこの話をしていいのか迷いますが」
「今日とりあげる話題についてまずはお話したいと思います」
その場や自分の置かれた状況を自分で説明する発言が多いと話の集中が阻害されるし、多くは余計だ。
テーマ発表ならば前置きせずに、「今日は〜について話します」と言えば良いと思う。
自分の置かれた状況を揶揄して笑いをとる方法は「自分つっこみ」として比較的、一般的だしそんなに難易度も高くない。
だからときどき入れるぶんには有効だと思う。
ただし繰り返されると飽きる。
緊張しているときに、「緊張してます」と言うのは間違いなく笑ってくれないし、聞く方のストレスが増すだけだ。

5, 雰囲気笑いをしない。
音声中の笑い声は結構判断が難しい。
実際の会話ではしばしば、相手の言ってることやその場で起こったことが面白いからではなく、相手に友好を示すために笑う。
相手がなにか言うたびに笑い声を返す。
愛想笑いほどじゃないにしても、収録された音声でこのたぐいの笑い声は思いのほか邪魔に感じる。
その場を共有していると気にならないのに不思議だ。
まったく笑い声がないと盛り上がりに欠けるように聞こえることもあるから、本当に楽しいときに笑えばいいんじゃないかと思う。

6, 相手の話を聞いて、相手の聞いていることに答える。
なんというか会話の基本だ。
すでにラジオや収録、話す内容からどんどん離れてしまっている。
でも、同じ話をしないのと同じく、収録中に相手の話を理解し質問に対してまっすぐ答えるのは難しい。
同じく無音が許されないので考える時間が限られている上、進行について最低限、意識を割かなければならないからだ。
今何分くらい話しているのか、全体の中でこの話はどういう意味を持つか、次はどの話題にいこう、などと考えながら相手の話を聞いていると内容がぼんやりとしか入ってこない。
すると、自分の考えの中から似たようなものを探してきて安易に当てはめてしまう。
相手のいいたいことから微妙にずれた理解の上で答えるのだから、当然、明後日の方向というほどひどくないにしても、相手の首が30度くらいは傾いてしまう。
手っ取り早い解決方法はない。
強いていうならば、相手の発言を反復したり要約したり、あるいは質問をぶつけて自分の理解が正しいのか確認し、それから答える方法はとりえるかもしれない。
相手の発言の要旨を瞬時に掴み、言語化したり質問したりするのはそれはそれで難易度が高いのだけれど。


サンキュータツオさんが月に一度来ていただけるようになって、「話すって難しいな」とより強く思う。
タツオさんが素人相手に手加減してくれているのはひしひしと感じる。
それでも許される「間」はより短く、よりまとまった話を要求される。
早く答えないと怒られるとか、まとまらない話に機嫌を悪くされるわけでは当然ない。
むしろこちらの至らない点をフォローしようとした結果、タツオさんが話し続ける展開になる。
それは申し訳ないのでなんとかしないとなと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?