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【国際競争力#1】凋落する日本の国際競争力

日本の国際競争力の落ちぶれがとても激しいです。国際競争力の指標として知られ、毎年発表されているIMD世界競争力ランキング(IMD World Competitiveness Ranking)によると、2022年の日本の順位は63カ国中34位となっています。これは、かつて開発途上国と言われた韓国(27位)、マレーシア(32位)やタイ(33位)よりも順位が下ですし、中国(17位)にも大きく引き離されています。

本記事では、IMD世界競争力ランキングを基にした日本の状況について紹介します。また、後続の記事で国際競争力強化策の議論を進めます。

IMD世界競争力ランキングとは?

最初に、IMD世界競争力ブックレットの情報を基に、IMD世界競争力ランキングの方法論について簡単に紹介します。IMDとは、International Institute for Management Developmentという私立のビジネススクールで、スイスのローザンヌに位置します。この研究機関の一つとして、IMD World Competitiveness Centreがあり、1989年以降、毎年IMD世界競争力ランキングを発表しています。

IMD世界競争力ランキングとは、企業の競争力を持続させる環境を作り出し維持する各国の能力を評価し、ランキングにしたものです。その前提には、富の主要な創出源は企業レベル(民間企業・公営企業問わず)であるという考えがあります。しかし、企業の競争力はその企業が置かれた国の環境に異存します。それを評価したのが、国単位のランキングであるIMD世界競争力ランキングです。

IMD世界競争力ランキングは以下の4つの領域をカバーし、それぞれの領域の中にはさらに5つの下位の要素があります。
(1) 経済的業績 
(2) 政府の効率性
(3) ビジネスの効率性
(4) インフラ
各領域中の下位の要素については後述します。

4領域、全20要素の中には合計333の判断基準があります。このうち2/3は国が集計・発表するGDPなどのハードデータであり、残りの1/3は競争力がどのように認識されているかを企業のマネージャーなどに調査したデータです。これらのデータを国別に集約・スコア化し、順位付けしたものがIMD世界競争力ランキングとなります。

GDPや企業の時価総額合計などは国際競争力の単一指標となりますが、IMD世界競争力ランキングは複合指標を基にしたランキングとなります。「GDPは高いが、雇用の流動性がない」「企業の効率は高いが、税制や助成金の制度設計が競争力に寄与しない」といった、単一指標のみでは評価しにくい国際競争力の異なる側面を総合的に評価するのがIMD世界競争ランキングと言えます。

日本の現在地と過去からの道筋は?

2022年の日本のランキングが34位であることを書きましたが、これを詳しく見ていきます。まず全63カ国の総合順位と総合スコアは以下の通りとなります。

出典:https://www.imd.org/centers/world-competitiveness-center/rankings/world-competitiveness/

次に日本の軌跡ですが、IMD世界競争力ランキングが始まった1989年から4年間は日本は1位でした。1997年に17位に大幅に順位が落下し、その後の約20年間は16位から27位までの間を上下していました。さらに、2019年に30位に下落し、2020年と2022年には歴代最低記録となる34位となりました。長期的には明らかに下降トレンドを辿っていると言えます。しかもトップの座から下半分のグループへの大幅下落です。

過去データ出典:https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20211007.html 

次に、領域別に見ていきます。前掲の4つの領域の順位(同様に63カ国中)は、以下の通りとなっています。これを見ると、「経済的業績」「インフラ」は20位前後で比較的よく、「政府の効率性」が39位、「企業の効率性」が51位と、かなり悪いことが分かります。各領域の下位にある要素も以下のグラフに示します。特によくない要素は以下になり、これらが全体の足を引っ張っているようにも見えます。

  • 経営実務 (Management Practices):63カ国中最下位

  • 公的資金 (Public Finance):62位

  • 価格(Prices):60位

  • 態度と価値観 (Attitudes & Values):58位

  • 生産性と効率 (Productivity & Efficiency):57位

出典:https://worldcompetitiveness.imd.org/countryprofile/JP/wcy/#attractiveness

なぜ日本の凋落が激しいのか?

30年前は4年連続で1位を誇っていた国がここまで落ちぶれてしまった原因は何でしょうか。安い労働力を武器にして新興国が技術力をつけて台頭したために相対的に日本の競争力が落ちた、日本では少子高齢化が進み労働人口が減少に転じた、科学技術分野における大型プロジェクトが長期間欠落していた、など様々な原因があると考えます。それらの複合的な要因が絡んでいることは間違いありません。

この中でもひとつ言えることは、日本は「インプットをしていないからアウトプットがない」ということです。インプットとは、教育や人材投資も含んだ投資です。「インプット」の指標もたくさんありますが、たとえば、ベンチャーキャピタルの投資額や投資案件の件数は1990年代からベンチャー投資が盛んになった米国と比較すると、投資額では2015年時点で100倍以上、投資件数でも20倍以上の差があります。

出典:https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20180629001_3.pdf

また、対GDPの人材投資額も日本は諸外国と比べ極端に低い水準に抑えられ、さらに年を経るごとにその割合が減少しています。

出典:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/18/backdata/2-1-13.html

他にもインプットの指標は多くありますが、すべてを紹介しきれないため、上記2つに留めておきます。もちろん、ミクロ的に見るとインプットをしていてアウトプットも出ている領域や、インプットはしているがそれに見合ったアウトプットが出ていない領域もあるでしょう。しかし、マクロ的にはインプットが不足している面が圧倒的に多いと考えています。

競争力強化策

インプット、すなわち投資が必要であることは書きましたが、闇雲に投資してもそれに応じたアウトプットが得られることは保証されておりません。たとえば、国間の技術の伝播速度が大きくなった現在では、日本が1980年代までに行ったように先端技術の開発や工場中心のものづくりへの投資を中心戦略として国際競争力を上げていくことは困難です。競争力の強化に寄与する領域に投資を行うことが肝要です。

そこで政府の誘導によって特定の産業の発達や保護を促す政策や、産業界全体、個別業界や個別の企業戦略が重要な役割を果たします。過去の日本の例を見ると、政府主導の産業政策が産業の発展につながらなかったという説もありますが、米国や中国を見ると、政策や産業界による提言がその後の大きな成長につながっており、これらが競争力強化策として重要な役割を果たしたと考えています。

次の記事では米国の1980年代から今までの競争力強化策、その次の記事では中国の競争力強化策について紹介します。その後で再び日本に戻り、日本の競争力強化策を議論します。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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