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Audibleでゆる読書ライフに革命が起きた話

なぜ本を読むのか

みなさんは普段、本を読んでいるだろうか。

この質問を私の身の回り(20代中盤くらいの年齢層)に投げかけてみると、いつからか決まって「時間がなくてね〜」「昔は読んでたんだけどな〜」という文句が返ってくるようになり、いわゆる"本離れ"が進んでいるような印象を受ける。

しかしよく考えてみれば最近の我々はかつての日本人と比べ圧倒的に多い活字を読み、情報を目にし、耳にしているような気もする。列車の座席に座る人々を眺めていれば最もわかりやすく、なんのことはない、あのころ新聞や本で摂取していた情報が手元の端末に集約されただけのことで、知識量で言えば30年前に生きる私とは雲泥の差で今の私の方が明らかに多くを知っているはずだ(そのほとんどが猥雑なインターネット・ミームやオタク知識なのは目も当てられない事実だが)。

それが最も効率よくノイズレスに情報を表示するという理由で紙の本を教育に導入し始めたのは活版印刷が普及する明治時代以降のようだ。その思想が色濃く残る現代でも本を読むと言う行為だけが独り歩きで神聖視され、本を読めば偉い、本を読まないとバカだ、という短絡的な決めつけも違和感なく罷り通る状況になった。

すると、これに反発して疑問が生じる。なぜ紙の本でなければならないのか。インクで複製された活字でなければならない理由は何か。電子書籍を許すとしても、それとウェブサイトとの決定的な違いはあるのだろうか。小難しい文字を眺めるよりもゆっくり魔理沙の講釈を聞いている方が楽しく知識が身につくのではなかろうか。

つまり尋ねたいのは「本の本質とは何か?」ということ。それはここで無駄に文字数を費やして演出を作り引っ張るほどの価値もなく明らかに「情報」と言い切っていいだろう。我々人間は身体の外に情報を求め、自ら新たな情報を紡ぎ出すために呼吸をしている。

もちろんその源がスマホだって構わない。今や無料でアクセスできる教育系サイトや論文も腐るほどある。それにYouTubeを開けばTED Talkが人生を変えるし、ずんだもんの喋りで得られる学びも多い、煩雑なタイムラインや永遠に終わらない縦型の動画からは一生かかっても見切れない情報をこれでもかと食い続けることができる。

さて、ここでひとりのインターネット・ジャンキーが誕生したところで思考が一周する。もっと、効率よく良質な情報を探せる方法はないのだろうか。煩わしい通知や極彩色の広告に邪魔されず、ただ目の前の情報に向き合う時間は作れないものだろうか、と。そこで街に出れば、知識の海を携えた書店ないしは図書館にたどり着く。体系化された学問に則り、ある程度人の目によるチェックを経て市場に流通した紙媒体の本が並ぶ。ベストセラーであれば多くの消費者に買い支えられるだけの理由がその「情報」にはあると判断もできる。

だから私は本を手に取る。ただの情報ならタダでいくらでも手に入るが、それらで日々脳みそを焦がしているだけではどこか物足りない。無料にあふれた現代だからこそ、良質な情報に集中する時間も"買う"。結局、身近に全知全能の師を持たない多くの人々にとっては知識の幅を広げる最も手っ取り早い方法のひとつが本を読むことで、それは決してコストを支払っても惜しくない行為だと考えている。

ぜひ本を読もう。

補足:もちろん自分の興味関心を金銭的負担なく気軽に広げられるのがインターネットの素晴らしい点だ。あくまで踏み込んだ学びは本にも頼りたいが、新鮮な価値観や学びはそれ以外の部分からも大いに吸収できるだろう。


紙の本か、電子書籍か

紙の本はコレクション性が高い反面、管理コストが高い

本を読むとなったら、現代においてはおもに二つの媒体を選択できる。紙の本か、電子書籍だ。どちらが優れているかを決定すべくそれぞれのメリットを比較する作業は世に蔓延るいかがでしたかブログに任せておくとして、結論としてはどちらにも一長一短があり、併用したって構わない。単純に好みの問題だ。

主食の好みにパン派と答えた人に対して「碇さん今日からごはんだけは食べんでくださいよ」と強制する必要はない。これはイデオロギーの戦いではないのだ。

私はミニマリスト的人間かつ節約好きなので、コレクションの楽しみよりも管理コストや収支を考えてモノを手に入れる。試行錯誤の結果、電子書籍で漫画を、紙で活字本を買っていた。

半永久的に読み返す可能性の高いお気に入りの漫画作品は綺麗な状態を保つため電子。一方でほとんどの場合読み返さず、売却できる活字本は紙で読む。本棚を充実させる楽しみも充分理解できるが、私にとっては割り増し家賃を払ってまで書斎を構える必要を感じない。それにたとえ数冊の本であってもそれを長期所有していると湿気管理・虫害のリスクが発生する。

では全てを電子にしたらよいのではとも思うが、紙の本はやはり売却である程度支出を回収できる点、電子機器から目を離す時間を持てる点において優れている。結果的に1年間でいえば100冊程度を電子、紙合わせて購入していた。


オーディオブックという選択肢

購入していた。と過去形で表したのには理由がある。ここまで書いてようやく本題に入るが、結論から言えば私はここ最近、第三の選択であるオーディオブックこそが自分に最も合う読書の形態なのではないかと感じ始めている。

さまざまなプラットフォームが存在するが、私は定額制の最大手Audible(オーディブル)を契約している。¥1,500/月。話題書も多く、しばらくは聴き放題の範囲で時間を潰せそうだ(Kindleに対するUnlimitedの位置付けであり、聴き放題対象外の買い切り商品も多い)。

やれ紙の本は質感がどうだ、いやいや電子書籍こそ現代の読書だ、といった論争に私もずっと参加した気になっていたのだが、全然これが一番かもしれない。耳で聴くのがいちばんいい。

以下にその理由をいくつかに分けて記す。

理由1:耳は比較的暇である

近年、ラジオがブームだ。一時期はテレビやインターネットに押されて陰り気味だったもののradikoの登場等でむしろ現代人の生活に寄り添うスタイルが提案された。Podcastを含むネットラジオの類も豊富で、若者から大人までを巻き込んだカルチャーの一端を作り上げているといっていい。

SNSのチェックや新着動画の視聴などに追われ現代人の可処分時間は目を酷使するコンテンツに費やされ続けている。視覚的娯楽サービスによるユーザーの奪い合いが激しさを増す一方でラジオならばディスプレイすら不要で耳へと情報をどんどん流し込んでいける。

それをAudibleに置き換えてやればいい。移動中、運動をする時間、皿洗いの時間、洗濯物を干す時間、目を休めて眠りにつく時間…….。本が読めたらどれだけページが進むだろうか。時間がない我々現代人の生活の中に紙の本も電子書籍も入り込めないスキマがまだこんなにも存在しているが、オーディオブックならそれらを埋めることができる。

私の趣味のひとつに散歩がある。もともとは音楽を聴いたりネットラジオを聴いたりしていたが、最近はずっと本を読みながら(聴きながら)歩いている。適度な運動でクリアになった頭へ内容がどんどんと入ってきて、この上なく集中できるのでおすすめだ。

理由2:手が伸びやすい

本を読み始めるのが面倒くさいと思ったことはないだろうか。私は結構そのタイプで、本を読むのにある程度気持ちを入れねばと思うと億劫になって結局放ったらかしににしてしまうことが多かった。

やっぱりせっかく本を読むなら集中する時間を作って、その前にちょいとお茶を淹れて、お香を炊いて、おしゃれな読書灯で照らして……とやらねばならないような気がしても、結局そんな大層なことができる日など限られているから本が読み進められないという状況に陥ってしまう。つまり読書をある種のセラピーのようなものとして捉えているとハードルがぐんぐんと上がって結局手につかないパターンが多いと思う。

しかし読書のすべてがそうである必要はなく、もっと雑な読み始め方をする日があってもよいだろう。最初の一頁になかなか取りかかれず時間だけが過ぎていくが、始めて仕舞えばノってくるという学生の頃の勉強と同じで、まずは"読み始める機会を増やす"ことが読書生活を充実させる方法のひとつなのではないか。

オーディオブックならアプリへ入って再生ボタンを押すだけだ。メガネに手を伸ばす必要も明かりを確保する必要もない。さまざまな携帯の読書の中で、一行目をスタートさせるハードルが最も低いと感じる。

しかしこれは私の趣向が文学的雰囲気を重視しない新書・選書・教養書のジャンルに偏っているからこその提案かもしれない。私もたとえば好きな作家の待望の新作小説であったらじっくりと紙の本で丁寧な読書をしたいと思うだろう。読書を非日常の特別な時間としたいのであれば、それ相応の環境を揃えていくのももちろん楽しい。逆にいえばオーディオブックは本を最も日常的体験に落とし込みやすい媒体だ。

理由3:聴いている最中は他のことが手につかない

先ほど述べた内容と矛盾しているではないか。オーディオブックは片手間に聴けるのが利点なのではなかったか。

それはその通り。散歩中や家事の途中などある程度頭を空っぽにできる状態ならば聴き疲れせず読み進められる(変な日本語だな)。しかし集中して聴いている状態でスマホを見たり他の文字を読んだりは全くできない。

聴いている最中は脳のリソースをほとんど持っていかれるので、自分を邪魔する誘惑を視野に入れる余裕がない。スマホで電子書籍を読んでいるとどうしても通知が目に入ってSNSのアプリを開いたりしてしまいがちだが、オーディオブックなら画面を伏せておけるのでその心配がない。

スクリーンタイムを最も削減できる方法は耳に言語情報を流し込むことなのかもしれない。スマートフォンを使い過ぎている自覚がある方にもおすすめで、紙の本と並んでデジタルミニマリズム的思想とも相性がいいだろう。ここは電子書籍にないメリットを享受できる部分といえる。

理由4:そこそこ理解もできる

電子書籍よりも紙の方が内容を記憶しやすい、とはよく言われる話だ。実際にディスプレイで追うフォント群よりも、本に書かれている文章の方が落ち着いていて明瞭で頭に入ってきやすい気もしなくもない(プラセボ効果もあるだろうが)。

どうせ時間をかけて同じ本を読むならより深く理解できた方がいいと思って電子書籍を避けていたフシもあった。では果たして耳で聴く場合はどうなのだろうか。今回全く同じ本(『サピエンス全史 下』)をオーディオブックと紙で読み比べてみたのでその個人的感想を発表しようと思う。

まずオーディオブックの特徴。目で見る情報がない分、新しい用語や耳慣れない単語が登場した時に一瞬の考慮を要する。

エジプト人も、ローマ人も、アステカ族も、異郷に宣教師を送って、オシリスやユピテル、ウィツィロポチトリ(アステカ族の主神)の礼拝を広めようとはしなかったし、その目的で軍を派遣することは断じてなかった。

ユヴァル・ノア・ハラリ (2023) サピエンス全史 下 文明の構造と人類の幸福 (河出文庫)

これがオーディオブックだとこうなる。

えじぷとじんも ろーまじんも あすてかぞくも いきょうにせんきょうしをおくって おしりすやゆぴてる うぃつぃろぽちとり あすてかぞくのしゅしん のれいはいをひろめようとはしなかったし そのもくてきでぐんをはけんすることはだんじてなかった

早熟なスーパーギフテット向けの絵本みたいになってしまったが(知能が高いなら平仮名である必要はないか)、まさにこう言う状態である。まだ一般書だからいいが完全な専門書になってしまったらお手上げだ。読み終えたあともなんとなーく全体をぼや〜っと理解した印象で、細かいクイズとか出されたら怪しいところがありそうな感じ。


▲イメージで言うとこんな感じ。ぼやーっと読んだ。

では紙の本はどうだったか。やはりビジュアルイメージと結びつけて文字が目に入ってくる分、初見時の理解度がものすごく高いのは事実だ。ページを捲る感触やその時座っていた場所まで後々になって思い出せたりするし、文字情報以外の付加情報が記憶をサポートしてくれている感覚がある(よく考えればそれは別に耳で聴いていても一緒か、散歩中景色見るし)。

実はこの本、オーディオブックで聴く一ヶ月前くらいにちびちび読んでいたものの、なんだか進まず途中でメルカリに売り飛ばしてしまったのだった。今回比較対象とするのはそのとき読めた前半の部分。一ヶ月を経た状態で記憶にどのくらい定着していたのか。改めてオーディオブックを聴いた時、どのくらい覚えていたかと言うと……





▲こんな感じでガビガビです。たいして変わりません。

一緒です。机に向かってじっくりノートに書き写しながらマーカーを引いて何度も何度も読み返すようなお勉強スタイルならまだしも、私の脳みそでは電車の中とかで暇つぶしに読むくらいだったら定着度なんて大したことない。読んでいて気になったところはメモを取るようにしているので、記憶はその作業に任せればいい。得た知識の全てを一言一句を諳んじるようになる必要はなく、その知識を取り出しやすい場所に置いておけるかが重要だ。

私の場合はオーディオブックだろうと紙だろうと拾える知識量には大きな違いがなくどちらも読書体験を損なわない十分な水準だ。であればより多くの量をストレスなく読み続けられるオーディオブックの方が有用。普段は1時間しか続かない紙の読書に対して耳で聴くのであれば散歩をしながら2時間でも3時間でも続けられる。これは大きなメリットである。


明らかに読書量が増えた

オーディオブックは散歩との相性がよすぎる。先日は夢中になるあまりいつの間にか時間を忘れ自宅から10km近くも歩いてしまった。こんな素晴らしいサービスにアクセスできる時代でよかった。書を読みながらとなり街へ歩いてしまえるのだから、寺山修司も仰天することだろう。

まとめるとオーディオブックは誰しもが一度は試す価値がある。始めのうちは聴き逃したり眠くなったりして慣れないかもしれないが、まずはなんとか一冊通して聴いてみてほしい。読書の時間がなかなか取れない、本に対する集中力がなくなった、活字が苦手だけど本を読んでみたい、スマートフォンの画面から距離を置きたい……。そんなもやもやを打破できるはずだ。

一冊単位ごとの買い切りもできるが、ナレーターの声が選べず合う合わないがあったりするので最初はいろんな本を試せるAudibleがおすすめ。芸能人や有名声優を起用していたりとなかなか面白いものもあるのでいくつか紹介する。なおここまでAudibleを散々褒めちぎり入会に誘導しているが本記事はアフィリエイト収入等を目的に書かれたものではないことをご承知いただきたい。


▲玉城ティナが朗読を務める芥川賞作品。センシティブな現代女子のやりきれない感じが上手く表現できている。

▲小説『言の葉の庭』には入野 自由、花澤 香菜をはじめ映画版キャストが再集結していてアツい。もはやラジオCDである。新海誠作品はどれも本物の声優を呼んでいるのでファンの方こそ一聴の価値あり。

▲大塚明夫が名作を読むシリーズ。当たり前にものすごく上手いが、それ以上に声が良過ぎることで面白過ぎてしまっている。「呆れた王だ!生かしておけぬ!(CV:大塚明夫)」ってこれもう映画ですやん。


うんちく:Audible創始者の名はドン・カッツ。太鼓の達人が上手そうだ。

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