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「残業代、リーマン以来の大幅減 マイナス12%」のニュースの見方

厚生労働省が今月9日発表した2020年の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によれば、基本給や残業代などを合わせた1人当たりの現金給与総額(名目賃金)は31万8299円で、前年より1.2%減少し、特に残業代に当たる所定外給与が12.1%減で、リーマン・ショックの影響を受けた2009年以来の減少幅になったとのことです。

時間外労働は36協定で合意された範囲で、時間外労働の有無について「有」として労働契約等により合意した労働者に対し、就業規則上の根拠条文に基づいて使用者がこれを命ずることが可能です。

従って、労働者には時間外労働を自由に行う権利はありません。

また、具体的必要性に基づいてこれを行わせることが出来るのが時間外労働ですから、使用者は出来るだけ時間外労働を生じさせないように勤怠管理すべきですし、法律もそのような前提に立っています。

従って、コロナ禍が原因であれ「時間外労働時間が減少した」のであればこれは雇用や労働法においては望ましい結果になります。

一方で、「時間外労働時間の減少分以上に時間外労働手当が減少した」のであればこれはサービス残業が増えている事になりますから、業績の悪化をサービス残業で補っている事になり、非常に忌々しき事態と言えます。

この点をよく精査しなければなりません。

また、テレワーク等を効果的に機能させる事で時間外労働時間が減少したにも関わらずこれに比例して生産性が落ちていないのであれば、残業代抑制分を業績給や賞与等に反映させて然るべきです。

一方で、使用者の立場に立てば先が見えないこのコロナ禍においてはその全てを賃金に反映させるのではなく、雇用を守るために一部を内部留保の蓄積に振るという判断は従業員の雇用の安定のためにも否定されるものではないでしょう。

2020年の残業代の減少幅を部門別にみれば、娯楽業や飲食業で特に大きかったとされており、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令され、飲食業を中心に休業や時短営業を余儀なくされたことも一因とみられています。

娯楽業や飲食業は非正規労働者の比率が高いが故、所定内賃金が低水準にあり、多くの企業において時間外労働が「生活残業化」しています。
つまり、使用者は残業を前提としてベースとなる基本賃金を構築し、残業を前提として労働者は生計を立てている実態にあるという事です。

労働時間と生産性が比例する業態にありますから、時間外労働時間が短縮していることは即ち業績も厳しく、賞与や業績給への分配にも到底期待できません。

現状、雇用調整助成金で凌げるとしてもいつまでも続くものではありませんから、今後の状況次第では生活できる賃金を維持するための人員整理や兼業推奨といった雇用施策が必要となってくるでしょう。


〔三浦 裕樹〕

Ⓒ Yodogawa Labor Management Society


社会保険労務士法人 淀川労務協会




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