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階段

「最後の親孝行だと思って着なさい!」
成人式の1ヶ月前、式に参加するつもりもなかった私は、着物姿を撮影しようと持ちかけた母に「めんどくさい」と断りを入れた時に言われたこと。

一週間ほど揉めて、最終的には「最後の親孝行」の言葉に負け、用意された振袖に袖を通した。写真撮影の前日はバイト先でもある実家のスナックで常連さんと夜を明かし、二日酔いのまま姉が経営している美容院で着付けをして、最高にむくんだ顔にメイクを施し、写真館に向かった。

今もその写真はA4の立派な冊子で残っているが、それを見るたびに少し恥ずかしい。顔も、あの頃の大人気なかった私自身も。

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娘の好きな色は緑。
お世話になっている美容院は、ちょっとした撮影スタジオも併設していて、「試着会」のパンフレットを手渡されて「娘さんもいかがですか?」と案内されていた。最近は2年前から振袖の予約が始まるようで「いいものから無くなってしまいますので…」のスタイリストさんの声にほだされた私は、娘を連れて試着会場に足を運んだ。

美容院が提携している着物のレンタル会社の方が、様々な着物をスタンバイする中、着物、帯、羽織に髪飾り。草履などの服飾品を楽しそうに試着している娘がいた。

色鮮やかな風景。試着中の娘を初めてガラケーから機種変更したスマートフォンで撮影する私がいた。2時間ほどして、レンタルする着物などの詳細と振込先が記載された見積もり表を手渡され帰宅した。

背中にじんわりと、嫌な汗が流れた。脳裏には学費と分割で支払っていた主人の治療費。

「お母さん。私着物はいいや。みんなも式には出ないし、その日は友達の家でパーティーするからさ。その代わり卒業式は、みんなで袴を選ぼうって決めたの。その時お願いね。」

成人式などしなくても、娘は充分大人だった。私よりも。

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成人式を迎える皆様。

何を以って「大人」と言うのかは、私から言えませんが

人生の階段はどこまでも続きます。その先には必ず「終わり」があります。

友と登り、家族と登り、時には独りで登ります。

一段一段登るには、力もいるし苦労もします。

が、一段上に上った先にしか見えない景色があります。

私もまだ登り続けています。

成人式を迎える皆様。

その先にある景色を

笑ってみることが出来ますように。

(階段-Fin-)

読んでいただきありがとうございました。これをご縁に、あなたのところへも逢いに行きたいです。導かれるように。