失敗しない不耕起栽培の始め方

(表題は「失敗しない」とありますが、家庭菜園ではどんなにうまくいかなくても「失敗」ではないですね。上手に出来ても出来なくても作物を育てることは楽しいです。しかし、noteでは表題をキャッチーにしないとなかなか読んでもらえないのであえて「失敗しない」という言葉を付けてみました。)

土壌生態学的観点による不耕起栽培の実践編です
(メリットやデメリットについては別稿)。

用意するもの

  • スコップ

  • 堆肥、腐葉土、枯れ草、落ち葉その他大量の植物性有機物

  • 有機質肥料、化学肥料(8-8-8とか安いので十分ですが緩効性の化学肥料だともっと楽です)、有機石灰

  • 種や苗

  • 支柱やネットなど

  1. まずは畑もしくは畑予定地の土の色を見ます。

    ずっと畑をやっていて土の色がこげ茶っぽいなら普通に堆肥や石灰を混ぜ込んで終わりです。2.に進みます。

    畑でも何でもないただの地面で、色が白いとか赤いなら、畝にするところに深さ20~30cmの穴を掘ります。深けりゃ深いほど良いような気もしますが、植物の根が主に張るのは表層から10cmくらいまでのところですし、色々混ぜ込んで畝が10cm位の高さにはなるので、根の張る深さは30cm位確保できます(地上10cmプラス地下20cm)。この位あれば大根などでもぎりぎり大丈夫でしょう。後で浅すぎたと思ったときは用土を上に足していく方向で考えます。

    穴に有機物を投入します。落ち葉や家庭から出る生ごみなどは根の触れなさそうな底の方に入れます。落ち葉は表層近くに混ぜると苗を植えるときなどガサガサして扱いにくいです。生ごみは水分が多いので、分解の進んでいない生ごみのかたまりに植物の根が突っ込むと根が窒息してよろしくありません。

    掘った土は堆肥や腐葉土、石灰、有機質肥料、化成肥料などを混ぜて埋め戻します。量はそれぞれの規定量に従います。堆肥や腐葉土は安いので十分です。質より量で勝負です。

    土を見るとこれは堆肥を混ぜただけの土だということが判ります。ここまでは土作りでも何でもなく、土壌生物の為の餌をまいただけです。ここから土を作っていくのは土壌生物の仕事ですが、残念ながら数年の時間を要します。

    また、いわゆる菌資材にはロマンがありますが、実際には必要ありません。どんなに瘦せたように見える土でも数限りない種類の微生物がいますし、有機物資材にも微生物はくっ付いています。何なら空気中にも菌類の胞子が飛んでいます。種類だけではありません。必死で生存競争している土壌中の微生物群にのほほんと培養された少数の微生物を投入しても生き残れる可能性は僅かです。必要なのは微生物の餌です。菌資材を買う位なら堆肥を買いましょう。

    (重要)穴を掘るのは最初の一回だけです。

  2. 苗を植えるか、種をまく

    畑の土なら種からまいてもちゃんと発芽しますが、堆肥を混ぜただけの土だとなかなか発芽しませんので、苗を植えた方が無難です。

    植物は根毛の生え変わりや根からの分泌物によって土中に有機物を供給します。畑を遊ばせず、植物がずっと植わっている状態を出来るだけ保ちます。

    植えるのは最初は丈夫な作物、トマトやゴーヤなどがお勧めです。

  3. 有機物でマルチをする

    土の温度や湿度を保つために枯れ草、稲わら、カヤ、ウッドチップ、堆肥などで土の表面を覆います。土壌生物が活動しやすい環境を保つために必要です。土の表面から徐々に有機物や肥料成分、微量栄養素を供給する役割も担います。

    どんな有機物がマルチとしていいのかという話ですが、C/N比や形状が関わってきます。

    C/N比はその有機物中の炭素と窒素の割合を示したものです。一般にC/N比が高いと分解しにくく、低いと分解しやすい。上に挙げた例だとC/N比が高い方からウッドチップ>稲わら>カヤ>堆肥や枯れ草となります。分解しやすい方が早く肥料成分を供給できることになりますが、一方でマルチの補給は大変になります。それでも野菜だと収穫物として畑から持ち出す部分が多いので、C/N比が低めのものを使うと良いと思いますが、ここでも質より量です。手に入りやすいものを使いましょう。

    C/N比が高い資材は窒素飢餓を起こすといって嫌う人もいますが、窒素が不足するのは土と資材が触れているごく薄い領域だけです。マルチとして使うなら根と資材は触れ合わず、資材のC/N比は幾ら高くても問題ありません。

    形状も重要です。枯葉やもみ殻は割と簡単に手に入るのですが風で飛ばされたりします。畝の肩にも積めるように繊維状やフレーク状になっていると扱いが楽です。

    マルチの厚みは雑草除けも兼ねるなら5cmくらいは欲しい所です。

  4. 有機肥料に加えて適宜、化学肥料や農薬を使う

    特に1年目や2年目は土が出来ていません。せっかく埋め込んだ有機物も分解して植物が利用できるようになるためにはまだまだ時間が掛かります。有機質肥料も良いですが、これも分解に時間が掛かります。一年目から効き目があるのは化学肥料です。化学肥料は微生物を殺したりしません。安心して規定量の肥料を適宜、土の表面から散布します。徐々に溶けるタイプの緩効性の化学肥料だと最初に撒いておくだけでいいので楽が出来ます。

    肥料を表面に散布すると分解によって生じたアンモニアがガスとして空気中に逃げやすくなるため、窒素肥料の有効活用という面では不利になります。表面に散布して土壌生物を守るか、地中に混ぜ込んで肥料の有効活用を取るかの2択ですが、ここでは前者を取ります。

    (化学肥料は買い過ぎないようにしましょう。段々使わなくなるので量が多いと持て余します。)

    虫や鳥が作物を食い荒らすことに関しては基本は物理防除です。苗の根元をプラカップで覆ったり、ネットを張ったりして対応します。

    しかし、地上部を食い荒らす青虫などはなかなか防げません。アシナガバチなどが巡回警備してはくれますが、夜や秋冬は活動しませんし、熱心ではありますが、あまり目敏いというわけでもありません。

    青虫にお勧めな農薬はBT剤です。青虫だけにしか効かず、その他の虫には影響を与えません。適用作物も広く、使用回数にも制限がないなど実に使いやすいです。

    (BT剤のうち幾つかは有機農産物の日本農林規格で使用が認められている農薬に入っています。)

    日本で発売されているBT剤にはコナガに強いクルスターキ系とヨトウに強いアイザワイ系があります。両方を混ぜたもの(商品名バシレックス水和剤)やハイブリッドなもの(商品名ジャックポット顆粒水和剤)は青虫っぽい食害を見つけたときに虫の特定も要らず楽です。

    その他の物理防除出来ない病虫害にも農薬を使用しますが、選択性の強い農薬を選びます。辺り一面の虫を殺してしまうような農薬は避けます(ネオニコチノイド系など)。

  5. 収穫後の残渣、根は畑に残したままにする

    根は地上すぐ上で切ってなるべく地中に残します。収穫物以外の残渣も畑に撒いてマルチの補充にします。見た目がちょっと宜しくありませんが、真冬でもなければ割とすぐに目立たなくなります。

  6. 植え付け、マルチの補充、収穫を繰り返す

    後は2.から5.の繰り返しです。

    3年目くらいから土が良くなってきた感が出ると思います。種を撒いたり苗を植えるためにマルチをどけると土が明らかに黒く艶を持っているように見えます。どこからやってきたのかミミズが顔を覗かせ、小さな虫を狙ってトカゲが走り回るようになります。4年目くらいから化学肥料も要らないかなと思われるかも知れません。5年もすれば、作物が大抵なんでもよく育つ土の出来上がりです。連作障害を恐れる必要もなくなります(誇張が入ってます)。

家庭菜園での不耕起栽培の始め方を方法論だけに絞って書いてみました。ちょっと試してみようかと思って頂ければ幸いです。

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