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2022/6/18 「ムーラン・ルージュ」

原題:Mouling Rouge!
監督:バズ・ラーマン(『ロミオ+ジュリエット』、『華麗なるギャッツビー』)
脚本:クレイグ・ピアース
キャスト:サティーン…ニコール・キットマン
     クリスチャン…ユアン・マクレガー


※多分ネタバレしてます。


なんとまあ、もう二回も観てしまいました。それぐらいなんか、こう、耳につくし、ビジュアル的にも印象が強い映画でした。(褒めてます)

でも最初に白状します。
バズ・ラーマン監督とは、個人的にもともとめちゃくちゃ相性が悪いと思ってます。なので、めちゃくちゃ腹を括って見ました。
最近の作品だと『エルヴィス』が有名な監督さんです。こちらはまだ未見なので、今度観てみたいと思います。

同監督作品では過去、二回挫折した思い出があります。。。
1回目は『ロミオ+ジュリエット』。
若かりし日のディカプリオ氏を見たいと思い立ち、見始めたは良いものの、序盤20分くらいで、ベタというかなんというか、なんか独特な演出に耐えられず脱落。
2回目はトビー・マグワイア氏を追っていて辿り着いた『華麗なるギャッツビー』。
小説も有名だし、見てみようと思って再生。
ものの5分で脱落しました…(その後、ディカプリオ好きの弟が観賞していたので、横から覗き見はしてました汗)

なんですかね…
あの正面から風ふわぁ、髪ふっわあ、赤い薔薇の花びらひっらあ(あたりに舞い散る。あとなんかちょっとスローになる)
後ろ姿…からの映画のヒーローorヒロインばっちこーん、キッラァ!!
って感じがなんかね。もうダメなんです笑
あのキラキラした感じがなんか、見ていて気恥ずかしくなってしまうというか…笑

そんな思い出から、『ムーラン・ルージュ』もユアン・マクレガー氏が好きだから、見なきゃ…と思い続けてはや2年ぐらい経ってしまいまして。
今回意を決して見始めました。
が、すごく良かったです…(今まで敬遠しててごめんなさい笑)
なんか久しぶりに王道恋愛物で絵巻物的で幻想的な世界に浸りました。寓話的でもあってそこがまた良かったのかも。

あと最近、物語の中で登場人物が葛藤することに興味を持っていて、『ムーラン・ルージュ』はそれがすごく分かりやすい。
障害と葛藤と解決がシンプルに強固に、そして飽きさせないよう描かれていて、それも心惹かれた理由の一つ。自分にとっての良い参考資料になりました。

やっぱり心躍る映画には魅力的なスクリプトが不可欠だなと強く思います。
さて、具体的に最高だった点、それでもやっぱり目を覆いたくなった点などなど、書き散らしていくぜ。

こんな恋がしてみたい。


物語は1900年代、フランスに実際にあったキャバレー「ムーラン・ルージュ」を舞台に進んでいきます。
時代的にはベル・エポック末期でしょうか。

ベル・エポックというのはフランス語で<美しい時代>という意味で、様々な新しい美術様式が開花している時でもありました。
個人的にはこの時代の雰囲気は大好きで、それこそロートレックやミュシャが現役バリバリの時じゃなかったかな。それからサティやドビュッシーなどなど。ちゃんと調べてみないとわからないですが、好きな作家さんが多いです。(劇中でロートレックは役として登場しています。トュールーズがロートレックです。ニコール・キットマン演じるサティーンの口から出た「サラ・ベルナール」はミュシャにポスターを描いてもらった大女優です)

そんな才能に溢れた若者たちが、当時のフランスにはわんさかいたわけですが、ユアン・マクレガー演じるクリスチャンもその一人。
彼はひょんなことから、ニコール・キットマン演じるムーラン・ルージュの高級娼婦サティーンと出会い、恋に落ちてゆきます。

で、そのひょんなこと、が本当にひょんででしてね笑
始まりの始まりは天井からアルゼンチン人が落ちてくるんですよ笑
こういう突拍子もない感じ結構好きです笑

テンポの良さと予想のつかなさが意外と最高でして、ちょっとティム・バートンを想起したりもしました。(ティム・バートンを彷彿させる全体的なデザインの奇妙さも結構好きです。あとパースの合ってないような背景が『カリガリ博士』とかも思い出しました。好きやで)

すぐ話が逸れてしまう笑
まあ、とにかくその後もボーッと見ていると、あれ、この状況一体彼らはどうやって解決するの?!と気になってしまうポイントがたくさんあって、いつの間にか物語に引き込まれてしまいます。
あとからよくよく考えると王道ではあるんですが、とても良い進め方で、登場人物たちへの危機が良い意味で容赦なく、解決方法も創造的。
個人的にはクリスチャンが公爵と間違われる辺りから一気に面白さが増した気がしました。
※その前の乱痴気騒ぎは、正直しんどいところも…苦笑

またクリスチャンとサティーンが恋に落ちてゆく過程も、やりとりとしては多く描かれていないですが、素晴らしい楽曲が補ってくれています。その想像力の余白も魅力の一つ。
(まあ悪く言えば雑ってこともあるかもですがw)

そもそもこの映画を見て一番びっくりしたのは、時代設定は古くても使われている楽曲は2000年代のポップスばかりだったところ! しかも超王道のポップミュージックばかりで、一度は聞いたことがあるであろうメロディーが次から次へと顔を覗かせます。
あ、これ聞いたことある!っていうのも一つの楽しみ方ですね。
しかもその楽曲達がムーラン・ルージュのために編曲・アレンジされていて、それがまた絶妙なマッチなんですよ…

大抵、有名すぎる曲は周りを喰いますが、この映画ではちゃんと登場人物の心情描写に一役買っています。さらに原曲が素晴らしいことを、改めて実感させられるんですよね。

例えばエルトン・ジョン氏の「Your Song」
クリスチャンがサティーンの前で詩を朗読しようというシーンに、本当に歌詞だけ抜き取って詩として最初朗読するんです。
メロディーはなく。素朴に。
だからよりフラットに言葉の意味が伝わってくる。

シンプルに言葉が強くて、瞬時に引き込まれます。

そして演技としての詩の朗読から、もちろん歌唱に入っていくんですけれども、ともするとこの曲って、私たちの世界で聞くと、ある意味ドラマチックすぎると感じたりしたことありませんか…(私だけかしら…汗)
なんというか距離がある感じがするんですよね…もちろん名曲として聴いてるからというのもあるけど、名曲すぎて、ちょっと身近に感じられないというか。人類愛的な壮大さを個人的には感じてしまうんです。(晩年のエルトン・ジョンの編曲からくるイメージもあるかもですが)

でも、もうすでに劇的な世界の住人であるクリスチャンが、恋をした女性に送る歌として聞くと、歌詞の意味により共感しやすくて、改めて、
ああ、これは一人の人に送ることができる、とても素朴で純粋なラブソングなんだと気付かされる。

もちろん歌に感情を乗せるユアンの力もあると思うけどね。

とにかく楽曲が良いってこと。

そういうふうに有名楽曲を新鮮な編曲で聞けるサプライズの連続。
その使い所も、見ている人に距離を取らせすぎない絶妙なバランス感覚。
特にクリスチャンとサティーンが象の家の上で歌う「Elephant Love Medley」が結構面白くて。

調べてみてびっくり、なんと13曲もの楽曲から成っているそうです!(せいぜい7曲ぐらいかと思ってた…それでもすごいけど…そしてその曲調それぞれに歌い方や演技のニュアンスを瞬時に変えていく二人もやっぱりすごい)

きっとメロディーに入る前のセリフ部分からも歌詞が引用されていて、それが13曲カウントに含まれているんでしょうね…(実際ムーラン・ルージュ全編通してセリフに歌詞を引用していくのがめっちゃ上手くて演出効果抜群です)全部は追いきれませんが、特に印象に残っている楽曲を順に追ってみました。

①All You Need Is Love(The Beatles)
聞いたことあるメロディだけど思い出せんってなってたらビートルズでした…

②I Was Made For Lovin' You(Kiss)
知らない曲だったけど、この時のクリスチャンとサティーンの挑発的なやり取りが好き。一瞬だったけど、歌い方もちょっと大胆不敵に変わるのよね…
てかKissだったのか…そりゃ好きだわ。

③One More Night(Phil Collins)
一夜だけ、あと一夜だけって懇願するユアンが可愛すぎて無理。そしてKissのパート歌ってたセクシーな感じから一変。アラジンみたいな好青年声に変化するのがまたびっくりで堪らない。

④Silly Love Songs(Wings)
このパートはしっかり区別できてないけど、口説く口説かれるの攻防が少し緩んで、二人がそれぞれ内に秘めている切実な思いが伝わってきて好きでした。歌詞がロマンティックなんだよなあ…

⑤Up Where We Belong(Joe Cocker & Jennifer Warnes)
この曲もメロディーはなんか聞いたことある…!って思って。
象の頭の上にヒョイと立ったクリスチャンが、吹き上げる風を両手目一杯に受けて歌い上げる、このパートはもう魅力的。
2フレーズくらいしかないけれど、強烈に印象に残ってます。上昇感のあるメロディーと身体と構図が与える解放感が見事に合っていて、見ているだけで気持ちが良い。
サティーンが、危ないわ!みたいな感じでその周りにいるんだけど、クリスチャンはそんな危険諸共せず、思い切って飛び立ってしまえる人なんだろうな。前のシーンで「いつかここから飛び立ちたい」とサティーンが歌い上げる「One Day I'll Fly Away(Randy Crawford)」と対比させると更に感慨深く、純粋に無邪気に夢を見れて、飛び込んでしまえる彼に、サティーンは恋をしたんじゃないだろうか。
サティーンのモチーフとして小鳥が印象的に使われているから「飛び立つ」というのはキーワードとして意識されているのかもしれない。

⑤Heroes(David Bowie)
クリスチャンの熱量に少しづつほぐれていくサティーン。それでもやっぱり愛には信用がない。ディズニープラスの字幕も結構優秀で、前述のUp Where We Belongのフレーズに乗せて「愛は一日で一生をダメにしてしまう」という歌詞が出てくるんだけど、本当に共感できるかつ美しい言葉。
その後に続く歌詞もロマンチックにかつ、意味が伝わるように翻訳されている気がする。かなり意訳な気もするけど。
サティーンが投げかけた「一日」というネガティブな言葉にかけて、クリスチャンが「でもその一日だけ英雄になれる」と、高らかに返すこのパート。サティーンが誰かを愛す、ということに一歩踏み出す勇気が出たのは、このフレーズを聞いたからじゃないかなあ。
そのあとの「一日だけ時間を盗めるかも」とか一日が永遠に拡張されていくような歌詞とかも、「愛する」という行為がいかに、人の時間を相対的に引き延ばしたり縮めたりすることができるか、そしてその感覚がいかに普遍であるかを思い知らされる。(この感覚というか思想は好きやで)

⑥I Will Always Love You(Dolly Parton)
これは正直ちょっと笑っちゃった笑
ボディガード!!とか思いながら大爆笑だったけど、それも含めて面白いかな笑
でもここで終わらなかったのがすごくよかったと思う。

⑦Your Song(Elton John)
最後にクリスチャンが初めてサティーンに送った曲が戻ってくるという構成。I Will Always Love Youのインパクトに笑った直後、しっとりと、しかもさりげなくYour Songに移行するから唸ってしまった。
特にこの曲については歌詞がセリフとして使用される頻度が高いので、自然と「ここで来るのエモい…」ってなってしまうよう仕掛けられている笑

誰もが一度は考えるかもしれない、今までの名曲ラブソングを集めたら最高のラブソングになるんじゃないか、っていうクリエイターとしては単細胞な感じで良い意味で爆笑しちゃうんだけど、それを実際に行動に移して、これでもかと詰め込んで実現させてしまったのアホすぎて大好き。(愛を込めてる)
しかもこんなに詰め込んでるのに、支離滅裂で収束不可能にもならず、ある程度のまとまりと、物語の展開もわかる最高の曲に仕上げてくれてる。
正直超絶技巧!

上記ではユアン既成の歌詞のことばかり触れていたけど、元々のメロディラインに合わせたオリジナルの歌詞も、しっかり韻を踏みつつ、サティーンの心情をよく表してると思いました。

そしてそして、このメドレーが二人が恋に落ちてゆく過程を表現。それと共に想像も掻き立ててくれるから、会話劇として恋愛部分が詳しく描かれていなくても割と二人が恋に落ちることに納得できちゃうんだよね。(ちなみに私は、サティーンはクリスチャンのYour Songでもう恋に落ちていると思ったから、尚更)

楽曲が補ってくれているというのはそういうことで。
ミュージカルの良いところは音楽パートで時空を歪められるところだと思うんです。よりイマジネーションに近い世界に誘ってくれる。(ここで言うイマジネーションはリアリスティックに相対して使ってるイメージです。)
その、時空婉曲効果を存分に使ってくれてたと思います。(もちろんそのための映像補正でクリスチャンの襟が盛大にハレてたのにはハハッwってなってしまったけどw)

こうやって改めて、作品のどこが良かったかを書いていると、何が好きになったかって楽曲なんだなと気づかされました。
「Elephant Love Medley」の他にも印象に残っていて、何度も見たいと思えるシーンは歌唱の部分ばかりです。

例えば、「Sercret Love Song」と劇中で呼ばれているシーン。サウンドトラックでの名前は「Come What May」で、本作唯一のオリジナル楽曲です。
これがまたロマンチックで美しい。

サティーンはムーラン・ルージュのパトロンである公爵の契約によって、公爵の物にならなければいけませんでした。そこでクリスチャンは自分が嫉妬しないように、サティーンのことを信じられるように「 何があっても愛し続ける」と歌う、二人だけの愛の歌を、ショーの中に組み込みます。
ショーでサティーンが歌うたびに、互いの愛を思い出せるという仕掛けな訳です。

この曲のリハーサルシーンが最高でして。
クリスチャンが曲を作っているであろう場面と、実際のリハーサルの場面と、その他別の時間軸が音楽パートの間モンタージュされていくんです。
それが構造好きには堪らなくてですね(よだれ)

彼らが歌っているのは、あくまでリハーサルという程なのに、その歌自体が愛の告白で、公然の場で、実は猛烈に愛を囁き合っているという、この構造がめっちゃ好きなんですよ。(うまく言葉にできない…)

なんですかね…物語的と言いますか、そこらへんうまく言葉にしたいんですけど。

ショー=物語の中に、物語の外の人物の心理が入り込む。
物語とその外側の人間の感情がリンクしてしまう。
それがショーという虚構に真実を乗せてしまっていて、いかにも人間的で好きなんですよね。
アツい…ってことなの多分。

それからサティーンが公爵と夕食をするシーン。サウンドトラックでは「El Tango de Roxanne」という名前ですね。
アルゼンチン人がクリスチャンに「春を売る女に、決して恋をするな」と吐き捨てるところから始まるこのシーンでは、ショーのダンサーたちの情熱的なタンゴと上階で繰り広げられるサティーンと公爵のやり取り、それからさらに下階で一人嫉妬に震えているクリスチャンの三者三様の心情が一曲を通して一つになっていきます。(大袈裟と思ったところももちろんあるけど、そこは目をつぶれるくらいのものです。)

作りとしては、レ・ミゼラブルの「One Day More」に似ているな、と思いつつ、でもそれがミュージカルの醍醐味だよね!わかる!!と思いながら見ました。(他にもオペラ座の怪人でも似たナンバーが出てくるよね。というか話は逸れるけど、この三者三様ナンバー、映画のモンタージュとめちゃくちゃ相性いいよね)
それぞれの葛藤を一曲でシンプルに表現してくれるので、素直に感情移入できました。
鬼リピしてます。

と、まあここまでつらつらと書いてきましたが、いつの間にか物凄い文字数になってしまっていたので一旦ここで…。
時間と体力があったらまた続きを書くかもですが。












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