シン禁断の薬

(2021年10月8日の記事)

本にする時、以前のブログを読み返すことが多かった。そこで、その後どうなったかって話もできるなーなんて思ったり。今回はそんな話。
お年頃の中年男性の悩みと言えば古今東西、自分は薄毛になるのか、ならないのかだろう(ここでハゲると言わず、薄毛と言ったのが僕のいいところで、同じ悩みを抱える者としての礼儀というか、なんというか。ハゲという言葉は人を殺めることもできるダークサイドな力を持っているので、皆様も以後この言葉の取り扱いの際は十分お気をつけになってほしい)。はい、薄毛のお悩み。
かつて僕は禁断の薬を飲み、悪魔と取り引きをしたと言った。悪魔と取り引き。それはつまり現代医学の結晶。自分の細胞、免疫、遺伝子をもぶち壊しかねない薬物を身体に入れることにより、抜け毛を予防するという交換条件。なにそしらぬ顔で営業をしている僕の身体はたかだか抜け毛予防のためにその薬物に侵食されつつある。取り返しのつかないほどの薄毛で悩んでいたわけではないが、わからない。もしかしたら急に薄毛になる可能性だってある。美容師として、男として薄毛だけは避けたい。せめて五十代を迎えるまでは保っていてほしい。これが切実。そう願い薬物漬けの身体になること五年。髪の毛は保っている、悪魔は僕に味方している。
あれから五年。僕の元へ次なる悪魔が取り引きをしようじゃないかとやって来た。
もう精一杯十分にやっている。僕の頭皮はよく頑張っている。結果も伴っている。ただ心残りがあるとすれば、毛が増えていない。減ることはなくても増えていない。いや、以前の悪魔とはその取り引きで成立している。それでいい。それで、いいのだけれど。
「髪の毛が増える。」整形とは違う。これはクローン人間を作るのと同じ思想。人は人を越えてはいけない。わかってはいるつもりだが、このシンプルな願望もまた人なのである。全てを手に入れても尚、髪の毛も手に入れたい、それが男なのだ。理解してほしい。今のまま薬物投与を続けたら減ることはなくても、増えることはない。そこだ。
そう、次なる悪魔は俺なら髪の毛を増やすことができるぞと提案してきた。おおっ凄い、マジかよ。ただそれなりのリスクは伴う。種に逆らう、そういうことだ。とはいえ僕は一度手を汚してしまっている、もう後戻りはできない。シン禁断の薬。始めよう。取り引きをしよう。そう、決心した。
「髪の毛が増えると同時に体毛も濃くなる。あんたはこれを受け入れれるか?」ときた。むむむ、なんかやだ。元々体毛は薄い方なので、気にしたことはなかったが、体毛が濃くなる。やっぱりなんかやだ。けど増える。髪の毛も体毛も。むむむのむ。
むのむむむ。減ることは防げている。増やしたい、正直増やしたい。いつまでも若々しくいたい。いや、そんなもんじゃない、あわよくばモテたい。ええい!購入だ。僕は悪魔との取り引きに乗った。体毛が増えてでも髪の毛が増える未来にベットした。
シン禁断の薬を始めてしばらくして抜け毛が増えた。大丈夫、これは初期脱毛という症状。わかっている。大丈夫、これは想定のははは範囲内いいいぃ?や、でぇぇ。うん。ちょっと予想してたよりも抜けてる。うん?大丈夫かな?この薬。止めるなら今?ん?あの悪魔、毒を盛ったか?あーもー考えても仕方がない。3.2.1バンジーィィィィしてるんやでぇぇぇ!
ぇぇぇぇっへっへへへ。薬物を追加して一ヶ月。ふ、増えている。明らかに、だ。おでこの生え際はもちろん、腕毛、指毛も同時に少し濃くなっている。おおおーー夢だけど、夢じゃなかった。夢だけど、夢じゃなかったーってメイちゃんたちも喜んでくれている。指毛が増えた、受け入れた。腕毛が少し濃くなった、受け入れた。顔のうぶ毛が増えた、受け入れた。生え際の髪の毛が増えた、うん。良いじゃないか増えたんだから。
という事で、お年頃の中年男性の悩みはひとまず解決。さて、これでナイスミドル目指して走り出しますか。薬の詳細あれば僕か井上さんに聞いて下さい。めちゃくちゃ詳しくなってます。

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