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IPO支援者(監査法人)のトレンド

スタートアップのCFOをやって分かったことシリーズ

IPOにおける監査法人の役割

スタートアップがIPOを目指そうとした場合、その支援をする重要な登場人物として監査法人があります。
監査法人の役割は大きく2つあり、財務諸表の監査と内部統制の評価になります。
財務諸表の監査とは、当該企業の過去数年間の財務諸表を監査し、上場基準を満たす適切な会計基準に従って財務諸表が作成されていることを保証します。
内部統制の評価とは、当該企業の内部統制の仕組み評価し、財務報告におけるリスク(不正や間違いが起こらないか)を軽減するための措置が取られているかを確認します。
なお上場申請のためには、財務諸表の監査を直前前期・直前期の2期にわたって行っておく必要があります(直前前期をN-2期、直前期をN-1期、申請期をN期ともいいます)。従って遅くとも直前前期の期首までには、依頼先の監査法人を決めておく必要があります。また上場後も四半期レビュー及び期末監査を受ける必要があるため監査法人の選定は重要です。

監査難民問題

2010年代後半から新規上場会社が年間90社程度と2010年代前半に比べて大きく推移していきます。以下にデータを引用します。

TDB Business View 2024/2/2 2023年のIPO動向
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p240201.pdf

その分スタートアップの数が増えたということの裏返しでもありましたが、ここで困った現象が起きました。IPO審査のためには監査法人の監査が2期にわたって必要ということは前述しました。当時IPOに関する監査は大手監査法人が大きなシェアを占めており、監査法人との契約はIPOできるかどうかの大きな分かれ目でした。が、大手監査法人に勤める公認会計士の数は突然増えたりしません。そこで多くのスタートアップが監査法人と契約できないという「監査難民問題」が生じました。
私もこの問題に直面した当事者です。当初大手監査法人と話を進めていたのですが、「単月黒字が見えない状態では監査を引き受けられない」と言われ断念せざるを得ませんでした(当時は単月黒字化は無理でした)。
この監査難民問題は業界にもインパクトを与え、その後中小新興監査法人が登場してくることになります。そしてその後私も中小新興監査法人と契約をすることになります。
図1にIPOに関与した監査法人数(2021年年間と2024年半期の比較)を記しています。これを見ると分かる通り、2021年には80%超が大手だったのに対して、2024年には57%まで大手のシェアが低下してきています(ここでは太陽監査法人も大手に含めています)。
ちなみに2021年になく2024年に登場した中小新興監査法人は、
FRIQ、ESネクスト、みおぎ、双葉、アリア、史彩、銀河
という顔ぶれです。
確実に大手から中小へという流れが定着してきていることがわかります。

図1.IPOに関与した監査法人数(2021年年間対2024年半期)

余談ですが、監査難民が起きた時期はちょうど菅官房長官のときであり、菅官房長官の強い意向もあり、IPO監査は大手監査法人から中小監査法人への流れができたというお話をうかがったことがあります(本当かどうかは知りません)。
今回のお話、監査法人側からだとまた違った景色に見えるかもしれないですね。
次回はもう一つの重要な支援者である主幹事証券について書いてみようと思います。

追伸)スタートアップのCFOをやって分かったことシリーズでは備忘の意味も込めて書き綴っています。各種質問やこんな話題を取り上げてほしい等のリクエストがありましたらご連絡いただければ幸いです。

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