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末梢神経障害に対する正しい対応とは│2023年新たなエビデンス【がんトレ】

抗がん剤の中で末梢神経障害を生じている患者さんは多くいる事でしょう。

正式には、がん化学療法に伴う末梢神経障害あるいは化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)と言います。

乳がん、胃がん、大腸がん、膵がん、肺がん、悪性リンパ腫など多くのがん腫で末梢神経障害のリスクがある薬剤を使用するため、薬剤師の皆さんもそういう患者さんと話をしたこともあるでしょう。

その中で末梢神経障害に対して正しく理解することが出来ているでしょうか?また、治療中であれば、正しい介入が行えているでしょうか?

今回は、基本的な考え方と対応について解説していきたいと思います。


抗がん剤による末梢神経障害

末梢神経障害が知られている代表的な抗がん剤

  • プラチナ系:オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン

  • タキサン系:パクリタキセル、ドセタキセル

  • ビンアルカロイド系:ビンクリスチン、ビノレルビン

  • プロテアソーム阻害:ボルテゾミブ、イキサゾミブ

他にもありますが、代表的なものに関しては以上です。

神経障害の機序

抗がん剤の種類によって神経障害の機序も異なります。

そのため、一過性のもの、不可逆的なものとも存在しているので大まかにでも把握していることが重要です。

末梢神経障害の機序

神経細胞体障害を特徴とするプラチナ系薬剤(オキサリプラチン、カルボプラチンなど)は細胞体自体の障害なので、「不可逆的」な作用になります。

末梢神経障害の怖い所

患者さんと話していて個人的に末梢神経障害を正しく対応しないと怖いなと感じることが多いです。

  • 休薬タイミングを逃すと数年症状が持続する

  • 誤った支持療法の介入で運動神経まで障害してしまう

この2点は本当に強く感じています。

もちろん末梢神経障害は神経の障害のため、Grade1でも数年続く人はいます。しかし、徐々に良くなっている実感はあるように思えます。

Grade2以上でも継続していた場合は、改善の兆しがかなり感じにくく強い症状が残っている印象です。あくまでも経験での話ですが、がんの専門を持っている人は同じように感じている人が多いと思います。

また、一般的な末梢神経障害とは「末梢性感覚ニューロパチー」のことを指します。

私の経験したものだと、支持療法を強化していたため「末梢性運動ニューロパチー」にまで増悪し入院を余儀なくされそのまま一生を終えた人もいます。

上記の例はかなり稀な症例かもしれませんが、そういう事態になりかねないことを考えると、誤った支持療法の介入は患者さんのデメリットにしかならないと肌で感じました。

エビデンスから理解する末梢神経障害に対する支持療法

では、末梢神経障害に対する支持療法にはどんなものがあるのでしょうか?

「がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン2023年版」から抜粋してご紹介していきます。

デュロキセチン(サインバルタ®)

エビデンスレベル:2B(CIPN症状の治療として、投与することを提案する)

ニプロ株式会社HPより

唯一、末梢神経障害に対してエビデンスがあると言えるものです。

タキサン系よりもプラチナ系のCIPNに対して有効性が認められています。

デュロキセチンはCIPNに対する保険適用がないことや副作用のリスクもあるため利益と不利益のバランスを考慮して提案することが望ましいでしょう。

副作用として傾眠や悪心、便秘の頻度が多かったり、他の薬剤との相互作用(抗不整脈薬、ワルファリン、NSAIDsなど)の問題もあります。

個人的には、大腸がんで原発切除できていない場合(姑息的手術の含め)などの背景がある場合には腸閉塞のリスクにもなりかねないですし、提案はしない方向で考えます。

有効性が示されていても注意しなければ患者のデメリットになることを考えて対応することが必要という事ですね。

プレガバリン(リリカ®)

エビデンスレベル:3C(CIPN症状の治療として「推奨なし」)

HOKUTOホームページより

末梢神経障害に対してよく処方される薬剤かとは思いますが、実はエビデンスはない支持療法なのです。

また、悪心やふらつきなどの副作用も多いですし、腎機能低下患者にも使用しやすい薬とは言い難いでしょう。

ミロガバリン(タリージェ®)

エビデンスレベル:3C(CIPN症状の治療として「推奨なし」)

第一三共HPより

ある後方的観察研究では、CIPNの改善率は有意に高かったとの方向がある医一方で、めまいや傾眠、四肢浮腫などの有害事象の発現も高いとされています。

私の考えでは、非高齢者の術後補助化学療法(再発リスクが高い場合)で服用薬も少ない場合であれば提案すること自体は検討できると考えています。

それ以外の場合には基本的には提案しません。

ビタミンB12製剤

エビデンスレベル:3C(CIPN症状の治療として「推奨なし」)

エーザイ企業サイトより

ただ、別の論文では効果がみられるケースもあるという報告もいくつかあり、水溶性ビタミンで服用によるデメリットが極めて低いことから投与すること自体は否定されるものではないようです。

牛車腎気丸

エビデンスレベル:4B(CIPNの予防として投与しないことを提案する)

ツムラHPより

有効性を評価した大規模試験が1件あるが、CTCAEでの評価としては示す事が出来ず、それ以外の試験でCTCAEでの有意差を示すことが出来ず上記のような位置づけになっています。

積極的に使用すべきかはという観点からするとNoだと感じます。

末梢神経障害Grade2以上は休薬が原則

CTCAE Ver5.0より

基本的に神経障害に対する支持療法は神経細胞を回復させる効果はありません。

症状の悪化を防ぐ、感じにくくすると言ったニュアンスが多いため、支持療法の強化で劇的な改善を認める人はほとんどいません。

むしろ症状を改善させやすいのは原因薬剤の中止ですし、そのように対応した方が、長期的な神経障害の症状の持続や程度も抑えられることはすでに立証されています。

原則、末梢神経障害に対する対応は「原因薬剤の休薬」と覚えるようにしましょう。

長期的に見た介入を

術前補助化学療法(NAC:Neo Adjuvant Chemotherapy)や術後補助化学療法(Adjuvant Chemotherapy)であれば治療期間が決められていますので状況によって対応が変わるケースもあります。

しかし、進行再発として化学療法が実施されるケースでは、Grade2以上であれば基本的には休薬を提案することが望ましいです。

エビデンスのない、あるいは少ない支持療法の追加により一時的に症状を抑えることが出来ても必ず後々に影響が残ります。

その時だけでなく、後々レジメンが変更されたり、緩和へ移行した際の事まで考えて介入していくことがとても重要です。

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