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【~戯れ~アプリコットの献身9】

そういや考えた事はあるか?
セーブシステム。
誰が誰をSAVEするんだろうな?
心配するな。答えが怖かったら、目ぇ瞑れ。

『帽子屋』の戯言

「お泊り、会?オフちゃんと三人で?」

 昼に集まって夕方に一人で帰るオフ会じゃなくて、夕飯どころかその後も朝まで帰らないオフ会なんて、それ……お持ち帰りっていわない?
 さすがにそれは呑めないよ。旦那が良いって言うわけないじゃん。
 でも……オフちゃんいるなら、大丈夫か。そっかそっかそういう布石なんだね?ていうか旅程作るのオフちゃん早っ。どれどれ……。

「わぁ……!」

 大きな窓から日が差し込んで、ベージュと緑が基調のシンプルな内装が映えて目に優しそうな、すっごく素敵なホテル。新婚旅行のときよりすごいかも。ご飯や洗い物や掃除のことをなーんにも考えなくていい星空スケッチ&夜通しゲーム大会。絶対楽しいだろうなぁ。しかも「資料代」という名の奢り。
 
 でも……………。これじゃミコシーにいってきますも言えないし写真だって送れない……。

「オフちゃんにも内緒なここだけの話、蘭ちゃんも本当は会いに来てるんだよ?恥ずかしがりで独占欲が強くて、あのとおりプライドが高いから、二人きりでしか過ごさないけど」
「えええっ!?」

ミコシーもなの?
ミコシーも空瓶さんのハーレムにいるの?


ナンデ?

■■■■■■……■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ダメダヨ■■■■■■■■■■

 ……でも秘密主義とプライドの高さは昔からだもんね。考えない考えない。

「じゃあ行く!」

 なぁーんだ。てっきり仲悪いのかとおもってたのに。SNSであれこれ気を遣ってた苦労はなんだったの、ほんと。
 そうだよね。そういう「いつのまに」なことは昔からあるし、大学ごと私と離れてからけっこー色んな女の子と仲良くしてたっていうかカノジョ候補切らしたことないよね??
 そのたんびにいーっぱい悩み事聞いて、病んだらすぐに慰めに行ってたよね。
 最近なんか浮いた話きかないなーと思ったら、会社の男の先輩の話をガチ惚気みたいに言うから心配してたんだ。

「大丈夫だよ。みんな、俺を経由して仲良くしてくれたら、それだけで楽しいだけなんだ」
「それってさ、ハーレムっていわない?」
「はは、そうかもしれない。でも、非日常は幸せのちょっとしたスパイスだから、たまには泊まりの外出もいいじゃないか」
「むぅ……」
「蘭ちゃんの話も、そのときぜひ聞きたいな。いわゆる幼馴染、なんでしょ?」
「もーう!ミコシーはあげないよ!」

 女の子じゃないのに空瓶さん、バッカだなぁー。
 ……もしかして本当は知ってるのかな?

 まいっか!とりあえずミコシーと一緒のコミュニティなら何でも安全だもんね。オフちゃんの話し方からして、今回は呼ばないのかな?

 大丈夫。それならそれで、先にハーレム体験してばっちり資料にしてくるからね。研究不足は良くないんだから。

「よぉーし!そうとなったらラフ画を準備しちゃおうっと!せっかくだから大きいスケブも持ってこうかな。ガラガラに入るし♪」

 資料が絵に活きるたびに、ミコシーは必ずハートのランプを押してコメントで褒めてくれるんだもん。オフちゃんの魔女絵みたいに拡散してくれないのはちょーっとだけ納得いかないんだけどね?

「ふふ。アンズちゃんとも仲良くゲームのパートナーごっこですね」
「うん!オフちゃんとリアルで会えるとテンション上がるー☆」

 楽しい楽しい星空スケッチ&ゲーム大会。遊び慣れたゲームでも、こっそり作ったサブアカのキャラで1からやり直すとすごく新鮮で、懐かしくて盛り上がる。パートナーシステムを結んでさくさく攻略する爽快感、しばらく忘れてたなぁ。ほぼ毎日やってるゲームなのに。
 旦那にはちょっとだけ悪いなぁとも思ったけど、今日だけのサブアカだし、ごっこあそびのノリだし?セーフセーフ。楽しくなるためにノリは大事。

 でも……。でも…………。

「ふふ、お酒の勢いでふわふわしたまま眠れてしまいそうですね」
「ほら、アンズちゃんもおいで。ハグして3人で仲良く寝よう」

 海外サイズの広い広いベッドから手招きされると、どろっとした感覚。どくんどくんと心臓が重たくて、鞄の中に入れっぱなしにしたチョコレートみたいにべたっとする。なんでだろ……。

 まいっか。考えるからどろどろネガティブになるんだ。

 旦那と違う腕。いつもの夜と違う匂い。
 落ち着かないけど、向こう側で大人っぽいネグリジェ姿でこじんまり落ち着くオフちゃんを見たら、考えないほうが楽しい気がした。嫌になったらもう一個の方のベッドを広々と使えばいいし。

 知らない匂い、知らない感触の枕と布団、知らない温もりと小さな緊張。
 ああ、これが大人の遊び。果物味の缶チューハイじゃないお洒落な名前のお酒を飲んで、ちょっと危険な冒険。どんどん描きたい構図が浮かんでワクワクするの!

 なぁーんだ。本当に、視野狭かったんだなぁ、私。

 ねぇ、ミコシーもそう思ってくれるでしょ?
 ねぇ、ミコシーもこういうことして誰からもモテモテの大人になってるんでしょ?
 ねぇ、ミコシー。
 あのね、ミコシー。

 本当は、ミコシーが真ん中にいてほしかったよ?
 オフちゃんだって言ってたもん。
 「男の人だともっと早く知っていたら、もっと早く仲良くできていたのに」って

 ねぇ、だから、ミコシー。
 早く会いたいよ……。
 リスカするくらいくるしいって言われても何もしてあげられないし意味ないって分かって、勇気出して戻ってきてよ……秘密のメンバーシップにも入れてあげるから……ミコシーだってオタクがやるようなエロゲーが好きなの知ってるんだから……きっと私越しになら友達ももっと増えて、もっと会うきっかけも理由も増えて、夏祭の日に大好きなオフ会だってできちゃうよ?


ねぇ……秘密主義しないで戻ってきてよ……。

ねぇ……アイタイよ……。

本当は……ずっとキモチワルイんだよ……?




  男なのにハグされる側はずるいんだよ??








―――セーブシステム起動。情報汚染0%
『救済ノ夏祭』ヲ開演許可。
Launching… … … Done_

SAVE SYSTEM_LOG

だから……来週の夏祭の日、まっててね、ミコシー。
ちゃんと、連れ戻して支えてあげる。


これが白紙の値札。いつでも、もちろん0円でも構わないわ。ワタシの紡ぎに触れたあなたの価値観を知ることができたら、それで満足よ。大切なのは、戯れを愉しむこと。もしいただいたら、紡ぐ為の電気代と紙代と……そうね、珈琲代かしら。