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【~戯れ~アプリコットの献身3】

**Moeコイン700獲得!やったね☆みんなありがとう!**

空瓶:作業会ってことでw
アンズ:ちょーっと時間厳しいかなぁw
空瓶:夕飯?
アンズ:うん!旦那が定時上がりだからね
空瓶:じゃあ昼は?報酬は東都パーラーのマンゴーパフェあたりw
アンズ:えええー!そんな高いのは見合わないってww
空瓶:俺にとってはその価値があるの
アンズ:もうーしょうがないなー
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「ねえねえミコシー、この絵は、どうかな?」
「いいんじゃない?」
「もうーいっつもそれじゃーん!」
「今回も可愛いし」
「ぅ……ぅ、ん。ありがとう?」
「どういたしまして。まあ強いて言えば……」
「うんうん、何?教えて教えて!」
「髪がショートかロングの二極だからセミロングがいい」
「うぅ、死ぬほど鏡で見てるんデス……」
「いいじゃん。別に世界観と関係ないし」
「そうだけど!」
「あ。見つけたダメ出し。アングルでスリーサイズずれてる」
「ス……ちょっと、ちょっとここファミレス……!」
「ああでもパニエとコルセットの形を安定させるほうが先か」
「パニ……コル……も、もういっかい……」
「は?知らないで今までやってたの?」
「え、え、えあのその、ちょ……」
「――ごめん。口で説明するより実物を見に行こう。そのほうが早い」
「ミコシー……怒ってない?」
「怒ってないよ。研究不足って思っただけ」
「うぐ……」
「お詫びに東都パーラーのフルーツパフェ奢る」
「フルーツパフェ!?行く行く!……え?お詫び?」
「ほら行くよ。僕もあの辺で見たい店あるし」
「……?まいっか!急いで筆箱片付けるね。あ、制服のままで大丈夫かな」
「まあ、何とかなるんじゃないかな。アトリエも近いし」
「???」
「ちょっと冒険ってこと。電車がトラブったら門限にひっかかるから、家には電話しておきな。駄目だったら期末明けに行けばいいし」
「はあい!……そういえばミコシー勉強は?捗った?」
「世界史のノートだけコンビニでコピーとらせて」
「もうーしょうがないなー」

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 結婚を機に引っ越してから、あんなに遠くて憧れていた東都がすっかりお馴染みの「お手軽都会」になって、逆に実家がある緋室町のほうが自然豊かで羨ましいってご近所さんに言われるちぐはぐライフ。何でも手に入る百貨店の10階に入っている古い喫茶店が、実は超老舗と知ったのは最近のことで、たまにちょっと眩暈がする。色んなことが、ちぐはぐだから。
 大人になって、バス定期の狭い世界から卒業したから?
 門限を守らない理由が不十分だと怒る家族から卒業したから?
 メニュー表の値段とお小遣いと家計簿の数字が頭の中でぐるぐるするから?
 
「まいっか!大人なんだよね、うん!」
「何が?」
「ああごめんごめん!ちょっとぼーっとしちゃった」
「可愛いから許す」
「あ、あはは……ありがと」

 旦那と同じくらいの背格好の、旦那より一回り年上の、ハンドルネーム「空瓶」さん。よくDMで私のイラストを買いにくる人。というか色々なクリエーターさんの作品のコレクターというか……そういう人。SNSの口調は完全にお子様でオタクなのに、リアルはなぜか毎回スーツで来るからすごく緊張して、パフェの味が半分くらいしか分からない。
 いや、だって、スーツって会社でしょ仕事でしょ?いやこれも納品されたら仕事の報酬が発生するわけですけれども。なんかこう、うーん……。
 ……まいっか!集中集中。一応ね?失礼があったら何でも炎上案件になるご時世なんだから。服装もちゃんと「アンズ」のイメージを踏襲するように箪笥の奥からゴシック一式を引っ張り出してきたんだし、ちょっと久しぶりにマスカラから口紅まで油断なくメイクしてきたし。

「えーっと?顔の差分グラが足りないんだっけ」
「いや、枚数は十分なんだ。3枚目の表情を考察したくてね」
「こーさつ?うーん、特に何も……。憂いって言われたからこうかなって」
「ふむ。というのも、この子の設定は――――」

 悪い人じゃないんだよなぁ……。自分のターンになると弾丸トークが止まらないオタクあるある属性なだけで。自分もそういうところあるし。
 ……いやいや今日は長い。それにしても長い。でもインディーズゲームの立ち絵担当なんて重責なんだし、しっかり聞かないと。
 ……聞けば聞くほど、レーティングが不安になる。どう考えても高校生には見せちゃいけないやつな気がするんですけども??

「けっこー、重いっていうか、鬱いキャラだったん、だね、うん」
「最近新しく解釈が生まれた結果こうなってしまったんだ。清廉と背合わせのように表現される耽美主義的なペルソナが――」
「タン……?」
「要するにエロい」
「ちょ、ちょっと、ここ喫茶店!」

 大丈夫だよね隣のテーブルのマダムたちに聞こえていないよね!?
 ……だ、大丈夫そう……。もー外で言うかなそういうこと……。しかも何か悪戯成功みたいなスマイル飛ばしてくるし……。そこそこイケメンだから余計にこう、こう……。

「世界観のナカノヒトも可愛いね、相変わらず」
「なぁんにも出ません」
「後でコイン投下しておくから。今のが配信だったら即入れてる件だからね、照れ屋さんめ」
「もうー!」

 どろっとした感覚。たまにある。昔から。それは嫌われるダメなものだから、お水を飲む。嫌な場面でも冷静でいるために「ルーチン」があるといいってミコシーが教えてくれた。これほんとに役に立つ。

「リアルで会っても永遠の少女のようなアンズちゃんだからこそ、敢えて挑戦してみてほしいんだ。……どうかな?新規の顧客層も狙えると思うよ。うちの会社は良いクリエーターを埋もれさせない主義だから」
「……会社?」
「あれ?言わなかったっけ。コレ、企業案件だよ」
「ええっ!FXトレーダーじゃなかったの?」
「あってるよ?いわゆる個人事業主」
「なんだ、びっくりしたぁ……」

 実は企業案件の為の値踏みでしたーとかヤバイ展開じゃなくてよかったぁ。心臓がめっちゃバクバクした。お水お水。
 喉から心臓が冷やされていく感覚を頼りに深呼吸をして、自分のタブレット画面を見つめる。憂いの表情を湛えた茶髪眼鏡の女の子の画を見つめる。
 真面目で大人しくて優しくて儚い子。エロい自分を隠している。

「……オフちゃんかな」 
「ん?」
「えっ?私いま何か言った?」
「いや?聞き取れなかっただけだよ」

 ……どうしよう。アンズは年齢で足切りしたくないから全年齢で通してるのに……。どうしよう……。確かに成人コンテンツは相場が全然違う。一度固定客がついたら勝ち組とまで言われるくらいエンゲージメントの伸び率も変わってくる。でも、その代わり、刺激を提供しつづけないとすぐに飽きられるからFF数の質が落ちて……ええとあと考えないといけないことって、考えないといけないことって……。
 ねえ、ミコシー、私、間違えていない?
 ねえ、ミコシーだったら……―――。

「アッ、アイス溶けちゃうからちょっと食べてていい?」
「ああそうだね。ごめんごめん、ちょっと強引だったかな」
「ううん!大丈夫大丈夫。結構話したし、休憩も大事だからーって」  

 営業時代に培ったスマイルをしっかり浮かべてからスプーンを手に取る。
 真っ白のミルクアイスの上をとろりと流れるマンゴーオレンジの色が目に眩しい。またまばたき止まっちゃってたかな。落ち着こう。あと緊張の原因がパフェだけ頼んで飲み物のおかわりをもらっていなかったことだと気づいた。うん、甘いパフェに添えるダージリンが足りない。
 店員さんに頼んで、タブレットを鞄にしまった代わりに取り出したスマホをテーブルの端に置くと、いくつかのSNS通知。チェックはもう呼吸。
 ……あ、オフちゃんまたフォロワーさん増えてる。やっぱりあの魔女イラストからすごいなぁ。会社つながりのSNSが流行るって知ってたら寿退職をもう少し後にずらしたのになぁ。

 ミコシーが「アトリエ」からの出向で同じ会社になれるって知ってたら、きっと――――。

「そういえばアンズちゃんってゲームもやってるよね?オフはしないの?」
「あー……旦那がうるさくて。だめじゃないけど、夕飯までには戻らないとご機嫌ナナメになっちゃうんだ」
「そっかそっか。嫁さんを大事にする良い旦那さんだ。でもたまにはいいんじゃないか?主婦も自由な息抜きをする権利があるし、なにより外に出た分だけ視野は広くなるからね」
「視野……」

 おかわりのティーポットをカップへ傾けながら、左手の薬指におさまる御守りを見る。世界で一番素敵な贈り物。幸せな肩書きの証。趣味じゃ名刺は刷れないからって落ち込んだとき、何度も家路へ導いてくれる居場所。
 ほんのすこし、制服姿の頃みたいな行動範囲になる日が増えるだけで。そう、ほんのすこし。家とスーパーの往復だって、同じ道を通らないといけない決まりはない。同じ道のほうが効率が良いだけで。

「ちょっと、今日は結論を出さずに考えてもいいかな」
「うん。他のキャラの話でもしようか。アンズちゃんが気に入ってくれたのは、たしかキャラ2のほうだったよね」
「そうそう!サンプル文章読んだときからこの子可愛いなーって!あとね、白いドレスの配色がやっぱりちょっと納得いかなくて、後でまたタブレット見てもいい?」
「もちろん。白ってそういえば何百種類もあるんだっけ?」
「そう!影を作る時とかもどの白を使っているかで全然違って――あっ、これ次回の配信ネタにしようっと」
「ちゃっかりしてるな」
「えへへ。けっこー大変なんだよ?応援してもらい続けるのって」

 よし、今日はうまくこの調子でこっちのペースに乗ってもらって、ちょうど帰宅タイムを狙っちゃおうっと。趣味枠のくせにニコニコついていくだけで企業案件並みに払ってくれる金ヅルだもん。バランスは大事。そのための色々なめんどくさいことは、帰って夕飯が終わった後にお風呂でゆっくり考えればいいの。

 これも、ぜーんぶミコシーが教えてくれたこと。

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「こんばんはー♪今夜は色への愛を語っちゃうよー!
 夜更かしさんはどこかなー?」

 ♪ピロン♪
 『空瓶さん: ピュアぃアンズちゃんゎ…白一択w』 
 ♪Moeコイン500獲得!♪

「えー、腹黒なところもちゃんとあったりするんだぞー?
 たとえばって言われても……うーん、お腹を黒く塗ればいい?あはっ」

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 ゲーム・イラスト生声実況チューバー「アンズ」
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【次話】



これが白紙の値札。いつでも、もちろん0円でも構わないわ。ワタシの紡ぎに触れたあなたの価値観を知ることができたら、それで満足よ。大切なのは、戯れを愉しむこと。もしいただいたら、紡ぐ為の電気代と紙代と……そうね、珈琲代かしら。