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【~戯れ~アプリコットの献身8】

分岐点1 累計獲得Moeコイン数ヲ参照シ最高額目標ヲ達成スル。
分岐点2 分岐点1ノ記憶残額ガ次点最高額目標ニ達シテイル。
処理結果――ドレスヲ獲得、口紅ヲ獲得セズ。
分岐点3 セーブシステム正常起動ニ足ル『目』ノ数ヲ達成シテイル。
処理結果―――――Accessing…―――――――Access Unaccepted_

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 あれから、なぜか絵がとても上手くいく。
 ついこの前までは納期と技法で頭がいっぱいだったのに、上手く言葉に言い表せないけど、上手くいく。

 褒められるの。
 表情がいい。
 ポージングがいい。
 キャラの解釈をちゃんと擦り合わせてえらい。
 家事と両立しながら発信が途切れずえらい。
 R18コンテンツでも可愛いを譲らないのがえらい。

 すごく、上手くいくの。

 分からないことがあったら配信でその場で口にすれば、誰かがコメントで答えてくれたり、資料になるサイトの検索文字列を教えてくれる。怪しいサイトに誘導されないか困惑したら、空瓶さんが先にチェックしてくれて別窓のチャットから合図してくれる。

 なぁんだ、ほんと、研究不足だったんだね。

 人の使い方も、ちゃんと覚えればいいんだ。
 あーあ。こんなに簡単ならやっぱり寿退社ルートはもう少し先にしておけばよかったなぁ。

 なんで、結婚あんなに早かったんだっけ……。

『アンズちゃん既婚?』

 ああ、そうだ、思い出した。ソレだ。

 「露骨な背後詮索はダメなんだぞ☆家族はいるよ?当たり前だけどね♪」

 お手本になるためだ。
 私にしかできなくて、私が一番良く伝わるお手本だったからだ。

 だって……可哀相だから。


 いつもいつも、暗い顔してすぐ保健室に行って、放課後までろくに帰ってこない。
 たまにはお家に遊びに行きたいって言うとすごい怖い顔でダメっていわれるし、家族を良く思うようなこと、中学に上がってから聞いたことない。

 だから、私が追いかけてここまでこれたように、
 今度は私がお手本になって、引っ張ってあげるの。


 役に立ちたいの。


 幸せな結婚。結婚後の生活。
 子供は、まだちょっと苦戦中だけど、そのうち。
 とにかく平凡で幸せに育った私はちゃんと誰かの役に立つ生き方をしたいの。

 ……役に、立ってる?……届いてる?

 SNSでイラスト反応が薄いの、仕事が忙しいからだよね?
 メッセージにはすぐ反応してくれるし、ナントカ先輩さんと距離できちゃったのかどうか病んでるDMとか、普通に来るよね?大丈夫だよね?頼られてるよね?

 ちゃんと明るく可愛い絵で伝えられてるよね?
 ミコシーが、服や化粧で自分らしく歩く日々は楽しいって伝えてくるように、私も……ちゃんと……。

 「……!うわわごめんね!ちょっと窓の外を余所見しちゃった。サボってないよー!ちょっとコメント巻き戻らせてね!」

 危ない危ない。レイヤーが1枚すっぽ抜けてる。
 この表情は線画を直さずに頬の熱が伝わる赤のパレット選びをして、コメントコメント……割と雑談しててくれてたかんじだね、よし問題なし☆

 ……うん。上手く、いってるよ。
 なんかね、ドロドロがこみ上げてくる。
 キモチワルイから、お水、お水。

 「あ!そういえばどこもそろそろお祭りとか花火あるんじゃない?ここのメンバーさんたちって、夏祭りってどんなのが好き?よければ参考にさせてほしいな☆」

 ……うぇ。なにこれぇ……。
 生声配信でこっち女だって分かってソレ言う?えーどうしよう……変に照れ照れしたらオフちゃんの二の舞だから、こういうときは……。

「あはは!みんな想像力すごいね♪うんうん、ちょっと暗い背景も今度挑戦してみようかな。影がたくさん入るから大変なんだよー?ちょっと集中したいからマイクミュートするね♪」 

 あしらうのも少し慣れてきた頃には、梅雨が終わっていて、各地の夏祭りや花火大会の話でテレビの画面は色鮮やかになる。ちょっと好き。


 …………夏、祭り………。


 画面の中で、四つん這いになって恥ずかしそうにこちらを振り向こうと必死な目の女の子が、なぜか急に、急に…………


     同じドレスを着ているように見えて。

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 「会いたい……」

 間違って、ないの。
 間違って、ないよ。
 間違いたく、ないの。

 間違えたら嫌われる!!!

 ねえ、ミコシー、あってるよね?

 ねえ、ねえ、ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ!!!

 「あい、たい……」


 「空瓶さんじゃ、ないんだよぉ……」



 お揃いの口紅がよかった。
 同じ口紅をつけてくれるのを見たかった。
 6年連続「学年の王子様」が目を合わせてくれて、
 勇気を出して一緒に帰っても嫌がらないでくれて、
 気づいたらずっと学校中を探していて、
 気づいたらずっと絵と服の話をしていて、
 ずっと……ずっと……ずっと……。


 「ミコシーに……アイタイ……」


 夏祭りで、××したかった。
 いつもみたいに、ちょっとカッコつけのリードしてほしかった。
 オフちゃんのイラストじゃなくて、リアルで魔法の口紅を使った私を選んで、褒めてほしかった。

 ちょっとだけ、悪い子にしてほしかった。


 「ん、ぅぅ……んぅ……」


 ××して、ドレスを褒めながら、紐を、裾を、誰も見ていない木陰で……。
 イケナイ絵を描いた私を、耳元で、優しく叱って、両手をつかされて、
 それで、それで……あう……くらくら、する……。

 「ご、ごめんなさい!今日ちょっとここまで。ハイペースでやりすぎちゃったから長めにリフレッシュしてきまーす!まったねー!お疲れさまでしたぁ!」


 ギシ ギシ
   スス スルッ

 ミコシーが好き。
 ミコシーは頑張り屋さん。
 ミコシーは苦労や損ばかり。
 ミコシーは身体が壊れるくらい全部向き合う。
 ミコシーは、身体は弱いけど、心は強い。

 そんなミコシーが好き。
 そんなミコシーとずっと一緒。
 そんなミコシーを一番良く分かってるのは私。
 そんなミコシーを一番支えてきたのは私。

 ミコシーが誰よりも私を頼ってくれることを、
 私は世界で一番良く知っている。

 髪型を変えても、
 服を変えても、
 新しいイラストを書いても、
 何回転んでも、
 悩みを打ち明けても、
 ……ずぅっと、ミコシーは変わらずに接してくれる。
 怒られることもあるけど、最後は必ずどこかで私のカワイイを見つけて口にしてくれる。

 だから、ミコシーが生活のどこかにいてくれれば、
 私は変わらずにいられるんだ。

 愛より友情のほうが長持ち。
 だから、ずっと変わらない友情のほうがいい。
 このまま30を過ぎても。
 私だけ早く結婚して専業主婦になっても。

 ミコシーのこと、ずっと知っていたい。

 ……あれ、私、ミコシーに会ったの最後いつだっけ?


  ギシ ギシ ス…ル

 「いいんだよ。献身的な姿も可愛いけど、毒を吐く君は、もっと可愛いんだから。ほら、メイクだけが薄いナチュラルメイクで唇もみずみずしいピンク色で、ちょっとだけ背伸びをしたグロスが実に小悪魔的。
  ――ドレスだけを着て夢見る君の仕草が、一番可愛いよ」


…………もう、いっか…………どうせ…………もう…………コインでわかったし。


可愛いのは私のほうだもん。


これが白紙の値札。いつでも、もちろん0円でも構わないわ。ワタシの紡ぎに触れたあなたの価値観を知ることができたら、それで満足よ。大切なのは、戯れを愉しむこと。もしいただいたら、紡ぐ為の電気代と紙代と……そうね、珈琲代かしら。