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【orchidノ気紛レ】

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屋上室外機が埃っぽい轟音たてて鳴るビルの最上階。
いわゆる屋上。高さを考えれば当然立ち入りはご法度なのだが、
それは飛び降り自殺がブームだった世代が施した安全”柵”に過ぎず、
施錠チェーンを束ねるダイアルキーの番号など公然の秘密レベル。

ただでさえアスファルトとコンクリートしかないのだから、
昼休みの時間くらい少しでも青空を仰いでコンビニ袋の中を漁りたい。
そんな願望が規則を上回った、ややルーズ、いや、柔軟なオフィスの正午。

「――で、腕枕までしてあげる関係までこじつけて何やらかしたんですか」

誰がこしらえたか知らないベンチにて、並び座る二人が雑談している。
日影にいるせいか、なんだか暗い。片方ががっくりと膝に両肘ついて項垂れているからだろう。

「やらかしたってお前もうちょっと言い方」
「別れ話は長く語った分だけ引きずるらしいですよ」
「え、マジ」
「適当です。――で、何ですか。ワキが臭いとか言われたんですか」
「……………おい」
「はい」
「やっぱ臭うか?」
「気にしたことないです。っていうか当たってたんですか」

――ガクン。そんな音は三次元リアルワールドでは鳴らない。
隣の背高の先輩が肩と首と頭を一層落としただけだ。

「……御子柴」
「はい」
「お前んとこのサロン紹介してくれ」
「別にいいですけど、脱毛しても女は戻ってきませんよ」
「これもステップアップなんだよ!男としての!」

ガクガクユサユサ。そんな音は三次元リアル以下略。
カーディガンに皺がつくからほどほどにしてほしい。いつものことながら。
面白いくらいに「仕事は鬼、色恋はポンコツ」設定を地でいく人だから、
尻軽女に遊ばれても仕方ないと思ってはいる。

大体、合コン2回目でベッドをせがむ女なんて底が浅い。
ヌキゲーだって1ヶ月ログイン稼がないとご褒美スチルは出ない。
浅いとか拙いとかにまんまと嵌るこの人はもっと浅くて拙い。
――そこまで言ったら本気でへこんで残業に逃げるから言わない。

「はいはい。サロン行くなら今日は残業無しにしてください」
「あー……。悪い、今日は居残り確定なんだわ」
「またあの人の面談ですか」
「ミスを叱った分のフォローまでが仕事だからな」
「旦那と上手く行っていないから仕事が手につかないんです――の先まで聞くことがですか」
「……おい」
「来月から労務課に資格持ちが来るんで、そっちに回してください」
「おい御子柴」
「あと終業後の面談室利用は部長がキレたんで、あの人の我儘は却下です」
「だ、か、ら、聞けって!」
「聞いてますよ」

悪い癖だ。他人の不器用を聞くと苛々して猫背になって膝を抱えることも、自分でも分かるくらい声が低くなって早口になっていくこと。ボルテージに比例して画面のタップ速度が上がっていくこと。

「違うっつの!スピーカーモードでソレをやるな!」
「ん?」

――『ああっ!そん、なにっ、そこ、だめ、きゃっ!』――

「……イヤホンじゃ一緒に愉しめないかなって」
「だからってスピーカーモードでやるな!アホか!」
「先輩も混ざります?タップするだけですよ。あとちょっとです」
「や、ら、な、い」
「あ、ちょっと。返してください」
「とっとと薬飲んでメイク直してこい。午後は広報誌の撮影なんだろ?」
「……はぁい。どうぞ、御一人で愉しんでくださいな?」
「おう。来週なら有休使えるから、サロンよろしく」

騒いだら気が晴れた、とでも言わんばかりの笑みが降ってきた。ゲーム用のスマホを取り上げられても手は素直に離れたまま。こういう切り替えの良さが公私共にモテる理由なんだろうな、この人。

…………だから、勿体ない。

そんな心の独り言。

次頁【-侵蝕-】

これが白紙の値札。いつでも、もちろん0円でも構わないわ。ワタシの紡ぎに触れたあなたの価値観を知ることができたら、それで満足よ。大切なのは、戯れを愉しむこと。もしいただいたら、紡ぐ為の電気代と紙代と……そうね、珈琲代かしら。