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朝が来るまで

午前10時。12月でも流石に外はもう明るい。

そろそろ起きようかと、重たい体を起こす。スリッパがないから、冷たい床に足を付ける。

いつも通り、彼女が作った朝食と、彼女のかすかな香りが残る2LDK。

朝食を済ませ、洗面台に向かう。三白眼をこすり、顔に水を浴びる。こうすれば、死んだような目つきも少しはマシになる。歯は5分間、適当に磨く。外になんて出るつもりもないので、寝ぐせは直さない。玄関先に飾っていた花がドライフラワーに変わっていた。そりゃ、ここ最近忙しく水の取り換えすらできてなかったな。彼女も彼女で多忙な日々を送っていたから、花を大切にしている彼女でも手につかなかったのだろう。そういや歯磨き粉、新しくなっていたな。


スリッパは片足だけ見つかって、右足は冷たい床に着いたまま。
彼だけがこの空気の中に取り残されていた気がした。

まだ体が重いな。一体昨日は何をしていたのだろうか。床にものが散乱しすぎじゃないか。また酒におぼれて彼女に呆れられたんだろう。顔を洗ったばかりだけど、シャワーも浴びておくか。ガスの電源を入れて、緩く蛇口をひねる。うわっ、冷たいじゃないか。急に気温が下がり、一気に冬らしい季節になった。北の方では大雪だという天気予報もここ最近は多かった。

風呂場から出て、彼女が昨日仕事納めだったことを思い出す。そういえばあいつは今日は地元に帰るって言ってたっけな。戻りはいつになるんだろう。

(この電話番号は、電波の届かないところ…)

そうか、電話も通じないくらいの雪が降ってるんだもんな。それは難しいか。緑色のアイコンをタップする。あちらからの連絡はないのか。まあ、前から言っていたんだからそうだよな。彼女も疲れ果てているんだろう。それはさてあれ、僕にも締切りが迫っているものがいくつかあるんじゃないか。パソコンに手をかけ、今日のToDoリストを確認して、必要なものをどんどん開いていく。そういえば、水、飲まないとな。

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