「葛藤」
彼の首筋の脈を打つのを見つめながら、思う。私はこの人を守りたい、と。それはどんなに辛くても、彼に傷付けられても、変わらない。
私を傷付けるのは彼の甘えだ。母親の愛情を受け続けることができなかった彼の望みなのか、それともそれは単なる微妙な甘えなのか。いつも感情に対する答えを探り、森の中で彷徨い歩いているが、御伽噺のように猫は誘導してくれないし、道の途中で楽しいティーパーティーに誘われることもなく、孤独だ。その迷いはいつしか私の腹の中に黒くこびり着き、濃く腹の裏側に焼き着かれた黒ずみは落とせず、彼へ向ける言葉や笑顔が引き攣る。今私は彼にどんな顔をしているのだろうか、想像しただけ背中が凍りつく。私の笑顔は65点だ。
豊富な自分の想像力や読み解く癖、彼を幸せにしたいという気持ちは変わらないのに、感情と感情が競い合い、善が敗北することによって私という存在がいて彼は本当に幸せなのだろうかとすら不安になる。「好きだと」ささやいてくれるのに。行動で見えない相手の感情、そして愛という形、豊かな想像を持ち合わせない彼には辛いことなのかもしれない。
私が唐突に笑顔を絶やせば、彼は笑わせてくれる。私が涙を流せば彼は私を頼りない体で受け止めてくれる。彼は優しい、その薄く右側の口角を上げて下手糞に笑う彼の優しい顔が私は世界一好きだ。
嫉妬、束縛、依存、凶器、彼に向けられる言葉はそんな言葉ばかり。私はこんなにも彼のことを愛しているというのに、彼への想いを打ち明けているのに、こんなにも冷たい言葉しか向けられない。
最上級に苦しい言葉は「大丈夫?」
そんなに幸せに見えないのでしょうか。こんなにも幸せだと私が感じていても、周りに人には分からない、私だけの心からの幸せ。
そんな私の愛は誰にもわかってもらえなくたっていい。
私は今日も彼を暖かく、迎え、自分が辛く、苦しく、困窮していたとしても彼にその素振りは一切見せず、強く逞しく生きるのだ。
そんな私を認めてくれるでしょうか。
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