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眩しいほどの晴天を見て彼女は「フォトショでぬきやすそうな空だね」と言った

コロナと共に過ごす世界で、外出自粛のために家に籠っている。
換気のために窓をあける。
空を見上げると、そこにはいつも通りの空がある。
一つ深呼吸をする。

連日のコロナに関するニュース、量が多くスピードが速すぎる。
最新の情報に遅れないように、少し時間があればTwitterやニュースサイトを開き、世界のニュースにアクセスをしている。世界中で色々な立場の人が色々な情報を発信している。
感染症に詳しい医師、経済学者、社会学者、ユーチューバーが自分が正しいと思う情報を皆にシェアしている。
「〇〇した方がいい」「いや、〇〇はむしろ危険だ」と立場によって、態度が違い、何が正しいか僕にはわからない。「冷静になれ」と言われれば言われるほど、冷静になんかなれなく、腹を空かせた豚のように情報を摂取している。

僕だって、社会を構成する一員だ。洪水のような情報を受け止めながら、自分がするべき事を見極める。これは「戦争」らしい。冷静に一つ一つの判断をしよう。絶対に間違ってはならない。洪水で溺れないように、そして炎上しないように、「正しいあり方」を模索する。

最新のニュースを見ては、ページを読みあさり、自身のSNSでそれっぽいコメントを付け加えてシェアする。有名人が発したバリューのある投稿には、卓球のリターンのようなスピードで「いいね」をつける。

もちろん、実社会でも影響が出ている。僕が勤めている会社でも「自宅作業が推奨」され、会食が禁止された。賛成である、とても賛成である。皆が、マスメディアが、SNSが「今は自粛だ」と言っているから、賛成だ。

ただ、僕が「今は自粛しよう」と書いたFacebookにいる友人や仲間には、自宅では作業が出来ない仕事をしている人、レストランを経営している仲間がいるのだ。

僕の態度は「正しい態度」なのだろうか?

気づくと、スマホのバッテリーだけがどんどん減っていっていた。一方で仕入れた情報はスポンジのように僕からあふれ出ていた。

もう、僕は疲れた。
僕は、窓をあけ、空を見上げながら一つ深呼吸をする。

深呼吸をして、この間のお正月の出来事を思い出す。

お正月、彼女と初詣をするために、参道を歩いていた。両端の屋台には、りんご飴や焼きそばなどの御馴染みの商品だけでなく、チーズドッグの屋台なんかもあって、屋台業者も流行を取り入れながら売り物を変えているんだなと感心した。QRコードを読み取って何かに登録すると100円値引きしてくれる、甘栗屋さんなんかもあったけど、たぶんそれ登録すると個人情報抜かれるやつだろう。
彼女との会話がふと止まった。なんとなく、空を見上げたらとても青々しくまさにお正月な天気だった。

「お正月に、こんなに綺麗な空だと気持ちがいいね」

今年一年いいコトがありそうな気分になった。
僕の言葉に、横にいた彼女は

「フォトショで抜きやすそうな空だね」

彼女はデザイナーで、いつも使っているフォトショップの操作画面を思い出していたのだ。

僕は笑ってしまった。いやいや、お正月に天気がよくて、思いつく事がフォトショップかよと、なんだかおかしくなって笑ってしまったのだ。そして、彼女のそんな感性を知り、嬉しい気持ちになったのだ。

皆、同じ空を眺めている、そしてその広さや美しさを感じている。
ただ、これまでの経験や立場で、みんな感じ方は違うのだ。それだけの事である。空を見て、正しい感想なんてものはないのだ。

自分以外の人が同じものでどう思うかを想像することが、なんて楽しくて豊かな事なんだろう。

あの時と一緒で空は青々しかった。
部屋の換気には十分な時間、空を見ていた気がする。

僕は「正しくある」事は諦めた。そもそも正しい態度なんて、存在しないのだ。その代わり「僕らしくある」事を選択する。

世界は広く、見え方は違う。それこそ、フォトショップのように経験や立場によって違うレイヤーがかかって見える事があるのだと思う。
コロナに関して、様々な情報を持っている人はレイヤーが何層にも重なって見える人もいるし、一方で、僕のように複雑なレイヤーで見えない人だっている。

レイヤーが少ない僕らは、情報に飢えすぎている。その結果、世界と自分にズレがないか不安になり情報を摂取している。「正しい態度」を取らないと、それを表明しないと、世界の一員になれないような気がするのだ。決して、「正しい態度」なんてものはどこにもないのに。

多くの情報によって判断することが間違いだと言うつもりはない。
ただ、一呼吸を置いて、自分以外にはどのように見えているかを想像しようと思う。色々な立場、国、性別、職業。一旦可能な限りの想像をめぐらせた後に、僕らしい答えを見つけよう。

いずれにしろ、コロナとの闘いは長期戦だという。だったら僕らも長期戦を覚悟で想像力を掻き立てるだけだ。

それは、withコロナの世界で、少しでも世界を豊かにする事なんだと思う。

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